嫉妬の魔王VS不死王①
“万死”
かつて世界の四分の一を死に追いやったと言われる厄災級魔物であり、その実力は既に無き大陸が証明している。
とある戦争によってその存在を大きく失ったが、相当長い時間をかけて彼はかつての実力を取り戻している。
例え相手が、人々を混沌に落とす魔王だとしても怯むことは無い。
静かに見合う不死王と魔王。
森の中を駆け巡る風が木の葉を揺らす音のみがその場に響き、お互いの緊張感を誘う。
どちらも動く気配は無し。今は腹の探り合いだ。
「........」
「........」
一向に動かない両者だったが、5分も沈黙の攻防をすればお互いに痺れを切らす。
餌を目の前に“待て”を続けられた犬が、ようやく餌にかぶりつく様な勢いでお互いに牙を向いた。
「ガァァァァ!!」
先手を取った魔王。口から放たれたのは、圧縮された水のレーザー。
勢いよく飛び出した水のレーザーは、的確に不死王の脳天を狙い撃つかのように思われた。
が、この程度の攻撃では不死王を動かすことすら叶わない。
「落チロ」
無造作に触れられた左手。
自身の周りを飛ぶ邪魔なハエをたたき落とすかのように上から下へと振られたその手と同時に、魔王が放った水のレーザーは地面へと進行方向を変える。
落ちた水は地面を抉り、泥を巻き上げながらこの惑星の中心を目指す。
圧縮され、更にはとてつもない勢いで発射される水は時として鉄をも切り裂く。
幾ら大地とは言え、その水を弾き返すことは出来なかった。
「中々ダナ。威力ハ及第点カ?」
「舐めるなよ。次だ」
最初の一撃を止められただけでは魔王は止まらない。
再び口を大きく開き、不死王をも飲み込む水のレーザーを放とうとするが、それは許されなかった。
「忘レタカ?ソノ水ハ、ワタシノ支配下ダ」
不死王がグッと握り拳を作ると、魔王の周りにある水は全て弾け飛ぶ。
湖は雨となり森に降り注ぎ、乾いた地面を潤していく。
そして、足場を無くした魔王は湖が消えた大穴に落ちてゆく。
「チッ、面倒な」
魔王は舌打ちをした後、地面へと叩きつけられた。
水によって固められた砂は泥となって巻き上がり、その泥は不死王の黒いローブを汚す。
「フム。頑丈ダナ。コノ高サカラ落チテ、無傷カ」
「死に損ないが我を評価するでは無い。不愉快だ」
魔王はその長い首を振り上げると、空に向かって魔力を放つ。
不死王はその場を動くことなく、静かにその様子を見守った。
どちらが挑戦者なのかを分からせる様な態度に、魔王は苛立ちを隠せない。
そして、怒りに任せて技を振るう。
「
空から堕ちるは水の塊。だが、ただの水ではない。
沸騰したその水は、隕石かの如く落ちて大地を抉る。
そして、その水は抉った大地を更に溶かす。
森を彩る木々は徐々に溶けていき、辺り一帯は地獄と化す。
もちろん、その攻撃の対象となる不死王にも隕石は降り注いだ。
「強酸ノ雨カ?随分ト、シケタ攻撃ダナ」
不死王はそう言うと、つまらなそうに腕を振り上げた。
「臣下ヨ、ワタシヲ守レ」
不死王の呼び掛けに応えるように、地面がせり上がり、中から一匹の竜が姿を表す。
「グルグガァァァァァァァァ!!」
死の瘴気を纏った黒い竜。
知るものが見れば分かるだろう。その竜の名が、
見た目はそのまま普通の
死者の成れ果てとは思えないほどに綺麗なその竜は、口を大きく開けると地獄の涙に向かって咆哮を放った。
「グルァァァァァァァァァァ!!」
空気を大地を揺らすその咆哮は、地獄の涙を容易に弾き飛ばし、主人である不死王を守る。
辺りに散らばった地獄の涙は地面へと落ちてその周辺を溶かすが、不死王に届くことは無かった。
「それが貴様の配下か?随分とご立派だな」
「褒メ言葉トシテ受ケ取ッテオコウ。少ナクトモ、貴様ヨリハ、立派ナノデナ」
「それは良かった。だが、生者にも劣る死に損ないが、調子に乗りすぎだ」
魔王はそう言うと、首を横に振った。
その次の瞬間。
不死王の隣にいた
流石の不死王も、コレには驚く。
何が起こったのか全く分からなかったからだ。
魔王が何かをすると分かっていた以上、警戒を怠るようなマネはしていない。
しかし、その目にもその感覚にも、何も感じることは出来なかった。
「ホウ。少シハ、ヤレル」
「これを見てまだそんな態度を取れるのか。次は貴様だ。さっさと死ね」
魔王は既に死んでいるアンデットに“死ね”と言うのはどうかと思いながら、再び首を振るう。
その攻撃は間違いなく不死王を切り裂き、魔王の勝利で終わるはずだった。
「ダガ、相手ノ実力差ガ分カラナイノハ、減点ダ」
パキンと、何かが割れるような音が魔王の耳に届く。
魔王自身になにか影響があった訳では無い。しかし、違和感を感じた。
言葉では言い表せない嫌な予感。何かドロっとした底なし沼にハマったかのような感覚。
その違和感の正体は、すぐに分かった。
辺りを見渡せば、答えは自ずと分かる。
「........バカな」
先程までいたはずの湖の跡地から、魔王はどこか分からない不可思議な世界に入り込んだのだ。
一面真っ白な世界。明らかに先程までいた世界とは違う。
「目ガアッタノデナ。ヤツラトハ違ウガ、念ノ為ダ」
不死王はそう言うと、再び手を振るう。
すると、先程首を切り落としたはずの黒竜の首が元通りになったでは無いか。
魔王は、その様子を見て混乱する。
理由は3つ。
まず、魔王の攻撃が当たり前のように防がれた事。
黒竜の首を切り落とした時は、間違いなく反応できていなかった。
二度目で既にこの攻撃を見破られたのか、それとも見破らずとも防御できる手段があったのか。魔王には分からない。
次に、この空間。
先程までリテルク湖にいたにもかかわらず、一瞬でその場所が変わってしまった。
考えられるのは2つ。
結界か転移か。
大穴として、新たに世界を創ったという線もあるが、アンデットが世界の創造などと言う神秘を実現できるはずもない。
そして最後。不死王の能力だ。
ある程度の事ならば、その能力の応用として片付けられる範囲だが、この空間に関してはどうやっても説明がつかない。
結界にしろ、転移にしろ、世界の創造にしろ。
今思えば、湖の水を全て浮かすのもそうだ。
不死王の能力をアンデットの生成や統率と考えると、浮遊に関する異能又は魔法は不自然である。
そして、その逆も然り。浮遊の能力ならば、アンデットの能力は無い。
魔王は、混乱しながらも急いで距離を取る。
相手の手の内が分からない今、不用意な接近は避けたかった。
「死に損ないが。我を脅かすなど........!!」
歯ぎしりをする魔王を見て、不死王は少し呆れ気味につぶやく。
「先程カラ、“死ニ損ナイ”シカ言エナイノカ?何ト言ウカ、アンデットヨリモ語彙力ガ無イナ」
耳のいい魔王は、その呟きが聞こえてしまった。
若干傷つきながら、不死王に話しかける。
「........なんと言えばいい?」
「“腐ッタ肉”トカ、“死ヲ受ケ入レナイ背信者”トカ?」
「........今度から使わせてもらおう」
「生キテイレバナ」
なんとも言えない空気が、その場を支配するのだった。
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