嫉妬の魔王VS不死王②

 なんとも言えない空気がその場を支配する中、嫉妬の魔王は考える。


 この真っ白な空間から脱出しなければならない訳だが、力技でどうこうできる程甘いわけが無い。


 試しに辺り一体を探知して見るが、どれだけ探知範囲を広げても何も無く、あるのは不死王と黒竜の二体のみ。


 何か手がかりが無いかとあちこち探ったものの、得られた回答は何も無かった。


(おそらく、不死王とやら本人を倒せばこの空間を脱出できるが、少々厳しいかもしれない。奴はアンデットの王と名乗ったのだ。あの竜以外にも操る者は多くいるはず........)


 嫉妬の魔王は徐々に冷静さを取り戻し、自身の持つ手札と照らし合わせてどうするかを決める。


 援軍が見込めない今、魔王にできることは出し惜しみを一切せずに不死王を倒すことだ。


 魔王はゆっくりと魔力を体内に溜め込むと、殺気を滲ませる。


 「ム、ヤル気ダナ」


 不死王は自身に向けて纏わりつく殺気を感じながら、何があってもいいように身構える。


 久々の実践ではあったが、何度もやってきた事が体に染み付いていた。


 不死王は魔王の技を潰すために先手を取ると言う手段もあったが、勘がやめておけと警告を出す。


 対応できるように身構えつつ、不死王は魔王の攻撃を待った。


 ゆっくりと練りあがっていく魔力を、魔王は自身の能力に変換。そして、その能力が解き放たれる。


 「嫉妬する盲信者レヴィアタン


 自身の名を冠したその能力は、すぐさま効果を発揮した。


 辺りを埋め尽くす圧。何があっても対応できるように身構えていたはずの不死王ですら、この圧からは逃れられない。


 「グッ.......」


 上からのしかかる重みと、抜けていく力。


 その両方のせいで、不死王と黒竜は膝を付く。


 「コレガ魔王ノ能力カ........!!」


 不死王は、魔王の能力を素早く分析する。


 最初は、魔法系の異能の線もあったがその選択肢は既に無い。


 魔法系の異能のならば、この圧殺されかねない圧を出すことは出来ないと判断したのだ。


 有り得るとすれば操作系か領域系か特殊系。不死王と黒竜を対象に取った操作系の異能か、範囲指定の領域系。又はその全てを兼ね備えた特殊系だ。


 どれかを判断するために、不死王は即座に能力を発動。何も無い白い空間から、幾千幾万ものアンデットが姿を現し始めた。


 「百鬼夜行アンデットパレード


 人の骨、亜人の骨の姿をしたスケルトン。腐肉と死の瘴気を纏った様々な種族のゾンビ。


 ゾンビの上位種であるグールから、死の瘴気を纏った骨のドラゴン。


 中には、原型が何か分からないアンデットまでいた。


 下級魔物から最上級魔物まで様々なアンデットが姿を現し、白い空間を死で染め上げていく。


 その様子を見ていた魔王はぽつりと呟いた。


 「化け物が」


 これ以上死者が増えると危険と判断した魔王は口を大きく開くと、水のレーザーを乱射する。


 もし、ここに仁がいればこう言っただろう。“ゾンビ系のタワーディフェンスゲームってこんな感じかもな”と。


 無造作に走る水の線が、ゾンビやスケルトンを切り裂き、砕き、消し飛ばしていく。


 飛び散る腐肉、砕け散る骨。死んだとしても生かされていた者達が、死んでゆく。


 見方によっては、本当の死を与える魔王の方が正しくも見えるだろう。


 もちろん、最上級魔物が元となっているアンデット達に水のレーザーは効かない。


 しかし、それは魔王の能力で抑えつければいい話だ。


 「数デハ無理カ。トイウコトハ、操作系デハ無イナ?」


 幾万ものアンデットを呼び起こした不死王は、未だにのしかかる圧に膝を屈しながらも冷静に能力の分析を進める。


 出現させたアンデット達の全てが、その圧によってまともに動けていない。


 操作系の異能が余程規格外なら別だが、抵抗力もある不死王やその他の最上級魔物を素材としたアンデット達まで倒れるのはおかしいのだ。


 能力の系統がある程度絞れれば、対策を取れる。


 領域系もしくは特殊系の領域型。


 どちらにしろ、範囲攻撃だと判断した不死王は次の一手を打つ。


 ローブの裾から、黒みがかった紫色の宝石が先端に着いた杖を取り出してを唱える。


 「反転重力グラビアル・リバーサル


 ふわりと浮く不死王。しかし、魔王からの圧は緩和されることは無い。


 全身を押しつぶすかの如く不死王を踏みつける圧は、徐々に強くなっている。


 そして、その様子を見ていた魔王は納得が行ったかのように頷いた。


 「魔術師だったのか。通りで能力とやっている事が合わないわけだ」

 「貴様モ大概ダガナ」


 不死王はそう言うと、更に魔術を唱えた。


 普通、魔術とは魔法陣を介して発動されるものであり、発動体となる魔法陣はその魔術の効力によってより複雑になっていく。


 かなり正確に描かなければならないが、大きさに決まりはない。


 かつて、神聖皇国の都市ミルドレで悪魔が使用した魔術はその魔法陣内において作用するものであるため大きくする必要があったが、小さくとも魔力さえあればその魔方陣は作動する。


 どこかに発動体となる魔法陣がある。


 何より、魔王は魔術の恐ろしさを知っていた。


 手間はかかる上に、消費する魔力も魔法や異能よりも大きいが、準備さえしっかりしておけばありとあらゆる事に対して対応出来てしまう。


 世間一般には魔道具の発動体として使われる魔術ではあるが、戦闘として極められた魔術師は最早別次元だ。


 「出力を上げないと死ねるな。出し惜しみ無しとは言え、今後も考えた上でやっていたが........後先考えるのは無しだ。この後勇者達が来ても抵抗出来ないな」


 魔王は苦笑いをすると、能力の出力をさらに上げる。


 「ガァァァァァァァァ!!」


 後先を考えない出力。


 かろうじて抵抗していた下級の魔物達は一斉に地面に潰され、白い空間を黒く染める。


 腐った肉が辺り一面に飛び散り、水のレーザーを放った時よりも悲惨な光景。


 もしもコレが人を相手にしていたのなら、赤い絨毯が出来上がっていただろう。


 そして、出力を上げられた影響は下級魔物達だけではない。


 「グヌゥ........コレハ不味イ」


 あまりの圧に押しつぶされそうになりながらも、不死王は急いで魔術を唱えた。


 「カノ夢ハ儚キ灯火。ソノ世界ハ一面ノ白。反ニ絶望ハ黒トナル。堕チヨ。境界ノ反転偽証パージュア・リバーサルボーダー


 その魔術により世界は変わる。支配していた白が、黒へと変わる。


 発動条件が厳しいこの魔術。だが、その分効果も絶大だ。


 特に、領域系の異能を使う者には。


 「ゴホッ───────身体が........貴様ァ」

 「フウ。流石ニ、キツイナ。コノ魔術ノ発動ハ相当魔力ヲ使ウノダ」


 口から血を吹き出しながら、魔王は不死王を睨みつける。


 身構えてはいたが、想像の何倍も衝撃。


 体内を押しつぶすような攻撃が魔王を襲う。


 不死王は無い汗を拭うような仕草をしながら、潰れたアンデット達を元に戻していく。


 潰れた肉塊が次第に形を作っていき、元通りに形を整える。


 「ごふっ........潰した意味がないでは無いか。全く」

 「貴様ノ能力ト、ワタシノ魔術トハ、相性ガ悪スギル。大人シク、死ヌノデアレバ、楽ニ殺シテヤルゾ」


 不死王のその言葉に、魔王は血を口から吐きながら盛大に笑った。


 「ふは、ふはははははは!!ごふっ、ごふっ、き、貴様は“死ね”と言われて素直に死ぬか?」

 「死ナヌナ。モシ、素直ニ死ンデイタノナラ、今頃ワタシハ、ココニ居ナイ」

 「そうさ!!我々は最後まで抗うのさ!!それが........ごふっ、例え我が身を全て削ろうともな」


 そう言って魔王は、自分の前足を叩き切った。

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