嫉妬の魔王、復活

 魔王復活まで残り1時間。未だにこれと言った手がかりも無く、俺は半分死んだ顔で机に突っ伏す。


 お手上げだと言わんばかりに舞い散る報告書の束を見ながら、俺は死人のような声で呟いた。


 「あーダメだわぁ。見つかんねぇ」

 「これはもう諦めた方がいいかもね。魔王が暴れてくれるのを待つとしようよ」


 ギリギリまで粘っても居場所がわからない場合に備えて、空を飛べる団員たちには既に予定の配置に着いてもらっている。


 11大国から離れており、即座に救援に行けない場所を優先的に行かせてある。


 11大国はある程度対処できるだろうからな。


 人類最強と呼ばれる剣聖でも魔王は倒せたのだ。11大国を代表する灰輝級ミスリル冒険者達ならば、魔王を討伐するとまで行かずとも俺達が現場に向かうまで抑えれるだろう。


 それに、場所が分からない時点で11大国内の可能性は低いだろうしな。


 「ファフニール、ニーズヘッグ、リンドブルムに吸血鬼夫婦。それと俺達8人で世界のどこかにいる魔王を探すのか........」

 「フェンやマーナは?あの子達空を飛べるようになってたよね?」

 「あの二匹はケルベロスがいないと不安だからな。ほら、龍二達に会ったらちょっかいかけそうだろ?」

 「否定できないねぇ........」


 あの二匹の頑張りは知っているが、今回はお留守番して貰うつもりだ。


 もう少し落ち着きとかがあれば別なんだけどな。


 ウロボロスも空を飛べるが、奴はこの拠点を護る必要がある。


 結界の維持のために残って貰うしかない。


 俺は立ち上がると、一緒に部屋で報告書と睨めっこしている団員達に声をかけた。


 「さて、俺達も行てっくる。お前達も一旦報告書を見るのをやめて休んでくれ」


 その言葉を聞いたアンスールは、報告書から顔を上げる。


 「ジン、蜘蛛はどうするのかしら?」

 「監視用だけでいい。ベオークの子供たちの方を持っていくよ」

 「分かったわ。気をつけてね」


 アンスールはそう言うと、固まった身体を解しながら部屋を出ていく。


 普段滅多にやらない事をした為か、その顔には疲れが見えた。


 「帰ってきたら何か欲しいものを言ってくれ。用意しておくよ」

 「別に欲しいものはないわよ。強いて言えば、貴方達の無事かしらね?」


 嬉しいことを言ってくれる。


 俺も花音も顔を見合わせて笑った後、ほかの団員達にも声をかけて部屋を出ていく。


 「行ってくる」

 「団員様。副団長様。お気をつけて」

 「怪我のないようにな」

 「早く帰ってきてくださいねー」

 「副団長様。団員様。お気をつけて」

 「何か分かれば念話蜘蛛テレパシースパイダーを使って連絡します。お気をつけて」


 なんというか、皆少し晴れやかに見えるのは気のせいだろうか。


 まぁ、ほぼ徹夜で報告書と睨めっこしてたのだから大変だったのだろう。


 俺もほぼ休憩無しでやってたから、皆も休憩が取りづらかっただろうし。


 真面目に仕事をしすぎる上司を持つと部下は息苦しいと言うが、全くもってその通りかもしれない。


 だからといって、サボりすぎると嫌われる。


 難しいな。


 俺はちょっと申し訳なく思い、帰ってきたら宴会でもやるかと心に決める。


 ヴァンア王国を消した時以来、全員で集まってどんちゃん騒ぎってやってないからな。


 俺はイスも呼び出そうとするが、どうも気配を感じない。


 不思議に思った俺は花音に聞く。


 「あれ?イスは?」

 「イスなら2時間前にポイントに移動したでしょ?」

 「そんなこと言ってたっけ?」

 「仁がものすごく集中してたから、イスが気を使って私にこっそり言ってたね。ちゃんとベオークが着いてるから大丈夫だよ」

 「我が子にまで気を使われるのか........」

 「いいんじゃない?人間関係を良好にするには、親しい間柄であっても多少の気を使うべきだよ」

 「その言葉、そっくりそのまま花音に返してやりたいな」


 “お前も俺に多少は気を使え”と暗に言うと、花音は大笑いする。


 「あっはははははは!!私に全く気を使わない仁が言ってもねぇ。“おま(えが)いう(な)”ってやつ?」


 確かに俺は花音には気を使った覚えがない。結局、俺達は似たもの同士というわけだ。


 俺は苦笑いをしながら、花音と別れる。


 全員違う場所で魔王を監視しなければならない。


 さぁ、魔王。お前は何処にいる?


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 リテルク湖の奥底。そこには魔王が眠っている。


 神託が下されてなお、その居場所を掴むことは出来ず、静かに眠る魔王は時間になると同時に目を覚ました。


 溢れる膨大な魔力とは裏腹に、静かな漣を立てる湖。


 魔力を感じなければ、そこはただ風に吹かれた湖だ。


 「我は嫉妬の魔王レヴィアタン........誰も聞いていないか」


 今までの魔王とは違い、嫉妬の魔王レヴィアタンの周りに悪魔はいない。


 水の中で活動できる悪魔が少ないと理由もあるが、一番は嫉妬の魔王の能力が敵味方関係なく働くからだ。


 嫉妬の魔王は、自身の身体に異常が無いか確認をした後、ゆっくりと湖の中を泳ぎ始める。


 ネッシーの様に長い首と竜の鱗。更には魔王としての膨大な魔力。


 10m以上もある強大な身体を動かしながら嫉妬の魔王は時が来るのを待った。


 悪魔が護衛についてないとはいえ、他の魔王と同じように直ぐに戦闘ができる訳では無い。


 これに関しては完全に賭けだった。


 そして、15分後。


 「ふむ?勇者達は来なかったな。運が良かったと言うべきか」


 嫉妬の魔王は魔力を軽く放つ。


 湖にいる生物たちは、その魔力に当てられて気を失う。


 運良く魔王が復活した際の魔力波を避けたもの達もこの魔力によって逃げ場を無くされ、気を失っていった。


 「では、予定通りに動くとしよう」


 魔王はそう呟くと、湖から顔を出そうと浮上していく。


 そして、水と大地の境目に来たその時。それは起こった。


 「?!」


 嫉妬の魔王とは別の膨大な魔力が湖を覆い、あっという間にその湖は宙に浮く。


 魔王自身、何が起こったのか理解できなかった。


 「ホウ。コンナ者ガ、ココニイルトハ。最初ニ、感ジタ魔力ト先程ノ魔力ハ貴様ダナ?」


 黒いオーラを纏い、深々と黒いローブを被ったそれは、興味深そうに魔王を見つめる。


 その目には好奇心の他に、若干焦りのようなものが見えた。


 この者が湖を浮かせている事を理解した魔王は、その者にはなしかける。


 少しカタコト気味の話し方だが、話が通じない訳では無いと判断したのだ。


 「そうだ。我は嫉妬の魔王レヴィアタン。七大魔王の一角と言えばわかるか?」


 魔王の自己紹介を聞いたその者は少し何かを思い出す仕草をした後、思い出したと言わんばかりに話す。


 「嫉妬ノ魔王レヴィアタン........七大魔王........アァ、ソウイエバ、コノ地ニテ混沌ヲモタラシタ者ノ名ガ、大魔王ト名乗ッテイタナ」

 「我を知っているか。では聞こう。貴様は何者だ?その魔力と不気味な気配。只者ではないだろう?」


 正体を聞かれたその者は、待ってましたと言わんばかりに口を歪める。


 そして、名乗った。


 「ワタシハ、不死王ノーライフキング。全テノ死者ヲ統ベル者。魔王ノ死体........欲シイナ」


 溢れ出す殺気と魔力。


 明らかに敵対する気満々だ。


 「我とやり合うつもりか?」

 「ワタシモ、色々ト事情ガアル。悪イガ、我配下ニナッテモラウ」


 その言葉に呼応するように、魔王から魔力が漏れ出す。もちろん、殺気もだ。


 「死に損ないが。我を配下に加えるだと?あまり魔王を舐めるなよ」


 こうして、嫉妬の魔王レヴィアタンVS不死王ノーライフキングの戦端の幕が切って落とされた。

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