元老院議事堂
元老院議事堂。この国のトップである元老院達がこの国の行く末を決める場であり、日本で言う国会議事堂のような役割をしている建物。
この国の観光名所であり、一般公開されている。もちろん、入場料金は取られるが。
「大人1人大銅貨2枚、子供1人大銅貨1枚。日本円でだいたい2000円と1000円か。観光地としてはちょっと安めか?」
「どうだろうね。エルフ国の精霊樹とかはタダで見れたけど。大聖堂に至っては、人々が集まる聖堂しか解放されてないし、それも無料........あれ?高い?」
「そういえば、大抵の観光地は無料だな」
美術館や劇場なら金を取られるだろうが、あいにく俺も花音もそういったものに興味はない。
その国を代表するものなら見に行くかもしれないが、そういった国に訪れたことは無いのだ。
「修学旅行の時に国会議事堂には行ったことがあったが、あそこって観光するのに幾らいるんだ?」
「確か無料だった気がするよ。あれ?やっぱり高い?」
故郷の話に花を咲かせながら、暫く列が進むのを待った後俺達の順番が回ってくる。
それなりに人が並んでいたはずだが、検問とは違い捌ける人の速さが違うのだろう。
料金を払った後、係の人から宝箱のようなものと腕輪を手渡された。
「これは?」
「マジックポーチを入れるための金庫です。ここから先、マジックポーチの持ち込みは禁止になっております。それと、魔力の使用も禁止です。腕輪は魔力の使用を強制的にできなくさせる魔道具です」
「なるほど。この金庫の使い方は?」
「簡単です。マジックポーチを入れて、鍵をするだけです。気をつけてください。マジックポーチの入れ忘れなどをすると、犬に襲われるので。それと、武器等もマジックポーチに仕舞ってください。もし、仕舞えないのであれば、こちらで責任をもってお預かりします」
マジックポーチ特有の匂いを覚えているわけだ。
その後使用方法を教わった後、俺達は元老院議事堂の庭へと足を踏み入れた。
花音とイスからマジックポーチを預かり、金庫の中に仕舞っていく。
金庫は特定の鍵がないと決して開かない魔道具であり、その鍵を無くすと作り直す必要があるそうだ。
“絶対に無くすな”と忠告されたので、しっかりと影に仕舞っておこう。
魔力の使用を強制的にできなくさせる魔道具も腕につけて観光する準備は万端だ。
「流石に国の最高機関である場所に入るには、それなりの制限があるな」
「そうだねぇ。凶器の取り上げと魔力の使用禁止。国会議事堂でも金属探知機で色々調べられたし、そんなもんでしょ」
「んーでも、この魔力禁止の魔道具は簡単に壊せちゃうの」
イスはつまらなさそうに自分の腕に付けた腕輪を見る。
この魔道具は、その構造を見るに一定の魔力量まで吸収することのできる魔道具だ。
ある程度実力があるものにとっては、ちょっとした足枷程度にしかならない。
許容量を超えたら簡単に壊れてしまう。
同じような魔道具をドッペルが作っていたな。どちらの性能が上かは言うまでもない。
「まぁ、殆どの人にとってはちゃんと効果があるからな。俺達の様な魔力お化けを相手に想定して作られてないんだろ」
「むしろ、それを想定して作っておいた方がいいとは思うけどねぇ。そこら辺はコストとの兼ね合いとかもあるのかな?」
「この魔道具1個作るのにも結構金がかかるだろうからな。何千、何万と作るとなると少しでも安くしたいんだろ。金が無限に湧いて出てくるなら別だがな」
「それで元老院が暗殺されるようなことがあったら、元も子もないと思うけどね」
「確かに」
そんな事を話しながら、俺達はのんびりと元老院議事堂の庭を歩く。
元老院議事堂の庭はかなり広く、その景観を失わないように様々な植物が植えられている。
俺が知っている物から知らないものまで。中には少し危険な花があったり、植物に紛れて犬が監視していたり。
全体的に見ても楽しめるし、一つ一つ見ても楽しめる面白い。中々に考えられた庭である。
「結構面白いな。何より、植物園のようにしっかりとその植物に関しての説明が書いてある」
「なんというか、観光客向けに作られた庭だね。結構楽しいからいいけど」
「面白いお花いっぱいなの!!」
昔は、動物園と植物園のような見るだけのものを楽しむことは出来なかったんだがなぁ........
歳を食って感性が変わったか?言うてまだ19だけど。
異世界に来て価値観というものは大きく変わった。今、美術館に行ったら楽しめるかもしれないな。
結構楽しい庭だが、いつまでもそこで時間を潰している訳にも行かない。
メインは元老院議事堂内を見ることなのだ。
花音が長くエリーちゃんと話し込んでいたため、既に日が傾き始めている。
日が沈むと追い出されるので、少し急ぎ足て見に行くとしよう。
元老院議事堂の中へと入っていき、看板の案内に従って歩いていくと一室の部屋に行き着く。
丸い机とそれを囲む椅子。ご丁寧に説明の看板まで立てられているその場所は、元老院達が普段集まって会議する部屋だ。
「ここが普段会議をする場所らしいな。日本の様にたくさん椅子があるんじゃなくて、円卓会議の様になってる。ここでこの国の行く末を決めるのか」
「なんというか、質素だね。もっと派手かなと思ったよ」
「まぁ、その分外装とかに金をかけたんだろ。元々は観光地にするつもりもなかっただろうし」
「でも、カーペットとかは結構高級品なの。こういうところは色々と気を使ってそうなの」
イスの言う通り、カーペットはかなりの高級品に見える。
派手ではないが、高級感を漂わせるその部屋は正直俺の好みではなかった。
護衛の仕事で高級ホテルに止まった時もそうだが、基本的に俺は高級感溢れるものが苦手らしい。
ここら辺は庶民の感覚なんだろうな。
中小国の国家予算ばりの金があるが、そのほとんどは食料やら団員たちのご機嫌取りに使ってこういうインテリアを買うことは無い。
おかげで金は増える一方だ。
「派手じゃないけど好みじゃない。もう少しごちゃっとしてた方が好きだな」
「私も同感。綺麗すぎるより、少し使い込んだ感じのある方が好きかな」
俺と花音がそれぞれの好みを言うと、後ろから声をかけられる。
「ほっほほ。その意見には同意じゃのぉ。ワシもそう思うのじゃが、威厳だのなんだの言って無駄金を使いよる」
後ろを振り返れば、腰を曲げて杖をつく老人が1人。
その後ろには、ボディーガードらしきガタイのいいおっさんが2人いる。
そして、その2人は腕に魔力を制限する腕輪をつけていない。
明らかにただ者ではなかった。
まぁ、だからと言っていきなり畏まったりしないが。だいたい誰か予想はつくし。
「ジーさんもそう思うか?こういうのは高級感より清潔さだよな?」
「ジーさんとは挨拶じゃな?それにしても、話がわかるではないか。どれだけ綺麗に着飾ろうともホコリが落ちれば台無しよ。もちろん、この部屋は丁寧に掃除されておるがのぉ」
「少なくとも、ジーさんの顔よりは綺麗だな」
俺の冗談に一瞬反応する護衛たち。しかし、護衛達が動き始める前に爺さんが笑い出す。
「ほっほほ!!言うでは無いか、若いの。最近の若者は腰抜けが多いと思っておったが、中々面白いやつもいるのじゃのぉ」
「“最近の若者は”って言葉はあまり使わない方がいいぞ。老害の口癖だからな」
「ほっほほ!!本当に面白いのぉ!!お主名は?」
「そういうのは聞く側が先に名乗るべきだぞ。老いて礼儀も忘れたか?」
「おっとそうじゃった。ついつい楽しくなってのぉ。ワシはブラバム・ド・ラインハルツ。元老院の1人と言えばわかるかのぉ?」
元老院の1人と名乗った爺さんは、少しだけ口角をあげるのだった。
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