首都観光
女の会話というのは長い。特にない話題を限界まで膨らませて、あっちこっち脱線するからだ。
本当にしょうもない会話で2時間とか普通に話せるのはある意味尊敬できるが、時と場合というものを考えて欲しいとはよく思う。
「ごめんね仁。ついつい話が盛り上がっちゃって」
「気にすんな。もう慣れた」
「やっと終わったの?ママと店主さんの会話長すぎるの」
今回は珍しく反省している花音に呆れた視線を送りながら、俺はベッドの上に広げたオセロ盤に向かって白色の石を置く。
挟まれた黒石は白色となる。
「それにしても気が利く店主だな。話が長く見るといなや、さっさと俺に部屋の鍵を渡すんだから」
「おかげでのんびりできたの。まぁ、観光する時間は少ないけど」
「ほんっと、ごめんね。観光するつもりで来たのは分かってたんだけど、久々に仁の良さが分かる人が来たからつい........」
「もしかして、あの後ずっと自慢大会やってたのか?」
「うん。聞き上手だし、ちょっと盛り上がっちゃった。もちろん言っちゃダメなことは言わなかったよ?」
「当たり前だわ。俺達が異世界から来た勇者とかバレたら大問題だぞ」
少なくとも今バレるのはよろしくない。
バレるにしても、戦争が起こってからだ。
俺はイスが打ち返してきた石に対してノータイムで返す。
その盤面を見て、難しい顔をしながらイスはポツリと呟いた。
「ムム?もしかして負けたの?」
「2手程前から負けてるな。まだまだ読みが甘いぞ?」
俺がケラケラ笑うと、イスは悔しそうにしながらもちょっと誇らしげに降参する。
なぜか?
答えは簡単。俺に1度勝ったからだ。
俺に読み勝ったと言うよりは俺のミスに漬け込んだ勝ちだったが、勝ちは勝ち。
イスは初めて俺に黒星を付けさせたのだ。
「パパに勝ったのはベオークに自慢するの!!」
「花音に勝ってから自慢したらどうだ?俺程度ならベオークもミスを拾う勝ち方ができるぞ」
「ママは強すぎるから無理なの。何時間やっても全くミスしないし。あれはラスボスなの」
「オセロのラスボスか。言われてるぞ?」
「ふはははは!!仁は四天王の中でも最弱........奴を倒したからと言って我らに叶うと思っているのか?!」
悪役っぽいポーズを取りながら、お決まりのセリフを言う花音。
そんな花音に疑問を言う。
「四天王ってあと3人は誰だよ。俺よりオセロ強いやつなんて団員にいないぞ」
「........そこはアレだよアレ。仁に変身したドッペル3人とか?」
「ドッペル泣くぞそれ」
ただでさえ、俺に変身することがトラウマ気味なのに、花音の指導の元で変身させたらマジで泣くだろう。
また感情を顕に大泣きするドッペルをちょっと見てみたい気もするが、流石に俺も鬼ではない。
花音の四天王ごっこに、間違ってもドッペルを巻き込んでは行けない。
俺は話題を無理やり変える。
「さて、まだ日が沈むには時間があるし、この国1番の観光地に行くか」
「1番の観光地?」
「あるだろ?街のど真ん中にあるでっかい建物」
「あぁ、元老院議事堂か。確かに、この国1番の観光地だね」
「どうやら中にも入れるようだぞ」
「行ってみるの!!」
そうと決まれば早速行くとしよう。結構混んでるだろうし。
エリーちゃん(店主)に用事を告げて宿を出る。
あのガタイでエリーちゃんは中々インパクトがあるが、本人がそう呼んでくれと言うならそれに従うしかない。
その気になれば人の頭をかち割るエリーちゃん........怖ぇわ。
宿を出て人混みを避けながら大通りを歩くと、次第にその大きな議事堂が姿を表す。
インドのタージ・マハルのような小籠包っぽい形をした屋根が特徴的だ。
勝手に入れないように高い柵が周りをおおっており、その庭には犬型の魔物が目に入る。
「あれは........
「大丈夫なのかな?なんか人を食い殺しそうな目をしてるけど」
「それを言うなら、拠点で警備してる厄災級の連中は国を消しそうな目をしてるな」
「確かに。よく知らないから不安に見えるだけか」
「万が一襲ってきても大丈夫だろ。所詮は中級魔物だ」
「........あれ?もしかして兎ちゃんより弱い?」
「弱いな。レッドアイホーンラビットの事を言ってるのか?アレは上級魔物だぞ」
黒と茶色の混じった警察犬の様な見た目のカッコイイ犬だが、所詮はあの島の最弱と名高い兎に負ける程度である。
そう考えると見掛け倒しだよな。
番犬には向いている。
群れでいることが多くその数で危険度が変わるらしいが、どれだけ集まろうが一体の強さは変わらないので俺達によってはさほど驚異ではない。
が、多少の戦闘ができる程度の冒険者ならかなりの脅威になるだろう。
それと、この犬は厄災級魔物のアイツらのように話が通じる魔物では無い。なぜこの庭で警備の真似事をしているのだろうか?
「俺の知識だと、あの犬っころは飼われる様な性格をしているとは思えないんだがな」
「魔物を操る異能持ちが居るんじゃない?」
「シャ」
俺と花音が話していると、蜘蛛の一体が影から紙を手渡してくる。
もしかして、今の会話を聞いて急いで調べたのか?
とりあえず“ありがとう”と言って紙を受け取り、内容を見ると案の定この犬を操っている人物の情報が書いてあった。
しかし、俺はそれよりも気になることがある。
「今の間に調べたのか?それにしては早すぎる気がするが........」
「シャ」
答えは否。
って事は、この情報は前から調べてあったということか。
「多分、弾かれたんじゃない?三姉妹か獣人達の誰かが、この情報は必要ないって切ったんでしょ」
「あぁ、なるほど。それなら俺達が見てないのも納得だな。って事はそれほど重要じゃない訳だ」
書かれた情報を読むと、確かにそこまで重要な人物とは言えない。
ただの雇われだし、冒険者のランクも低い。
珍しい異能を持っていると言うだけで、何か特殊な職だったり怪しいことをしている訳でもない。
まぁ、これなら弾いてもしょうがないなと思う程普通のことしか書かれてなかった。
とは言え、その異能に関しては興味が湧く。
「
「仁のお母さんみたいな?」
「だろうな。猫もおまけで着いてくる家のお袋の方がすごいかもしれん」
おふくろの場合は、犬やねこに好かれすぎて歩くだけで寄ってくる。
もしかしてお袋は異能使いだった?
その理論で言うと、俺は2つの異能を持つことになるが。
「犬型の魔物も手懐けられるのは便利だねぇ。もしかしてケルベロスとかも手懐けられたりして?」
「それはないだろ。よっぽど強力な異能でなければ抵抗できるはずだ。それに、ケルベロスはトリスに懐いてるからほかはあんまり見向きしなさそう」
「最近、ケル君トリスちゃんにベッタリだもんね。それでも、仁に褒められたいのか仕事を求めてるけど」
「ケルベロスの心も女の子ってか?」
結局、異能の話からケルベロスとトリスの仲の話にズレるのだった。
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