大きいのは恥ずかしい

 子供達からの報告を見て、少しやってしまったと思いながらそのほかの内容にも軽く目を通したあと、宮殿の庭を散歩する。


 厄災級魔物達のために、何か仕事を考えなくてはならないのだ。


 態々部屋でウンウン唸る必要はないので、気分転換も兼ねての散歩である。


 ロナは別の用事があるとか言ってどこかへ行ってしまったので、庭を歩くのは俺と花音の2人だけだ。


「仕事が欲しいって言われてもなぁ。アイツら器用なことはできないだろ?戦争でも起こせってか?」

「そんな事したら大問題だよ。第二の魔王として討伐されたいの?」

「それは嫌だし、困るな。下手すれば龍二達と殺し合うことになる」


 要請があって暴れるならともかく、勝手に暴れるような事があれば間違いなく俺達は世界の敵になってしまう。


 それでも返り討ちにできそうな気もするが、好き好んでそんなことしたい訳じゃない。


「コレが吸血鬼夫婦やドッペルみたいに、人型の魔物ならまだ仕事が色々あるんだがな」

「人型って言うか、宮殿に入れる大きさならだね。そしたら、資料整理辺りを手伝わせることが出来るのに」

「まぁ、アイツらが毎日真面目にクソつまらん情報整理をするかと言われれば、首を傾げざるを得ないけど」


 基本自由なヤツらなのだ。真面目に仕事しそうなのは、ケルベロスとヨルムンガンド、ジャバウォック辺りだろうか。


 ファフニールやフェンリルなどが真面目に仕事している姿は想像できない。


 ちなみに、仕事くれって言っているのは真面目組とマーナガルムとリンドブルムである。


 真面目組はともかく、マーナガルムが仕事をねだって来るのは正直意外だった。


 しかも、あいつの場合は直談判だからな。


 びっくりしたわ。あまりに予想外すぎる行動に、思わず風邪でも引いたのかと心配になった程である。


 そうやってどうしたものかと悩んでいると、視線の先で手を大きく振る影が2つ。


 イスとシルフォードだ。


「パパー!!ママー!!」


 元気よく俺を呼ぶイスの元へ行くと、サラの気配も感じる。


 遊んでいたのだろうか。


「遊んでたのか?」

「んー?サラとシルフォードの訓練の方が近いの。精霊魔法の練習なの」


 精霊魔法。ウチの団員の中ではたった1人だけしか使えない魔法だ。


 精霊を見ることが出来て、その精霊の持つ属性と自身の魔法属性が同じでなければ使えないのである。


 俺はシルフォードとサラの方を見ると、シルフォードはちょっとドヤ顔しながら胸を張る。


「モーズグズに勝った」

「おぉ!!凄いじゃないか!!」


 イスの異能に住むモーズグズ。


 1度戦った事があるが、結構強かったはずだ。


 おそらく、モーズグズは本気を出してはいないだろうが、それでもモーズグズに勝てるのはかなりの進歩である。


 しかし、シルフォードはその張っていた胸をすぐに下ろすと今度はしおれた顔をした。


「でも、その後本気のモーズグズにボコされた」

「あぁ、その、どんまい」


 イス曰く、モーズグズは20m近くの大きさまで大きくなれるらしい。


 人の振るう槍と、巨人の振るう槍では威力が違いすぎるもんな。


 ただでさえ、人の大きさで自分より大きい炎の球を切り裂ける強さを持つのだ。


 20mの大きさで槍を振るえば、それは最早災害の1種だろう。


「モーズグズがあんなに大きくなるとか聞いてない」

「そういえば、俺もモーズグズの巨大化は見たことないな」

「見る?」


 イスが可愛らしく首を傾げて聞いてくる。


 いつの間にそんなにあざとい仕草をできるようになったのだと思いながら、俺はイスの頭を撫でてお願いする。


「見てみたいな。花音は?」

「見る見る。ガルムにも会いたいしね」


 花音も賛成したところで、俺達はイスの異能に呑まれていく。


 霧に包まれたあと、極寒の世界に足を踏み入れた。


「ジン様、カノン様、お久しぶりです」

「バゥ!!」


 人の大きさで出迎えてくれたモーズグズは、深深と頭を下げる。


 相変わらず氷のように冷たい雰囲気を纏ったモーズグズは、イスの方をちらり見ると少し嫌そうな顔をした。


「本当にやらないといけないのですか?」

「パパが見たいって言ってるの。やれ」

「はい........」


 前もそうだが、モーズグズはあまり巨大化をしたがらないように見える。


 というかイス?その言い方だと俺がモーズグズに嫌われるんだが?


 止める暇もなくイスが命令してしまった。


 別にどうしても見たい訳では無かったのだ。今度からモーズグズやガルムに関して何か言う時は、気をつけた方がいいかもしれない。


 モーズグズは少し離れると、自身の体を巨大化させていく。


 どっかの進撃してくる巨人のように雷が落ちて一気に大きくなるのではなく、体の周りに氷が張り付いてどんどん大きくなっている。


 僅か5秒足らずでモーズグズは巨大化を終え、少し恥ずかしそうにしながら膝をつく。


「ど、どうでしょうか?」

「いいよな巨大化って。なんかカッコよくない?」

「分かる。ウルト〇マンとかちっちゃい頃は憧れてたからなぁ」

「勝てるビジョンが浮かばない」


 全員思い思いの反応をする中、モーズグズは褒められているのかどうか分からないという顔をして戸惑う。


 そりゃ、ウル〇ラマンとか知らないもんな。正義のヒーローなんだけど。


「そうだ。モーズグズ。その槍を本気で振り下ろしてみてくれよ。人の大きさの時との違いを感じてみたい」

「いいのですか?イス様のお父様とはいえ、流石にそれは.....」

「モーズグズ?前にも言ったけど、お前程度で傷つけられるほどパパは弱くないの。あまり調子に乗るなよ?」


 イス?前にも思ったが、ちょっとモーズグズへの当たりが強くないか?


 容赦なく足を砕いたり、圧をかけたりするイスなんてほとんど見ない。


 そして、キツいことを言われたモーズグズはなぜ嬉しそうな顔をするのだろうか。


「なんというか、モーズグズって結構Mだよね」

「ウチの子の教育に悪いと思うのは俺だけか?」

「イスもそこまで子供じゃないからいいんじゃない?頭は悪くないんだから、ちゃんとわかった上でやってるでしょ」


 いや、イスはまだ3歳の子供なんですが........


 花音は、一体何を見てイスをそこまで子供じゃないと言っているのだろう?もしかして、俺の知らないイスの顔があったりするのか?


 そんな事を考えていると、モーズグズが槍を構えて俺を睨みつけている。


 やる気満々だ。


「怪我しても責任はとりませんよ?」

「大丈夫大丈夫。本当にやばそうなら避けるから。あ、シルフォードは頭を低くしておけよ?吹き飛ばされないようにな」

「分かった。サラ」


 シルフォードは俺の言葉に頷くと、その場に屈み炎の鉤爪を作り出して氷の大地を掴む。


 そんなことできるようになってたのか。


 色々な厄災級魔物にしごいてもらっているからか、成長が著しい。


 今度、団員達の力を再確認するために模擬戦をやるのもいいかもしれないな。


 俺はそう思いながら、槍を振り上げるモーズグズを見る。


「遠慮なく来な」

「─────────ハァァァァ!!」


 大地を揺らすほど強く踏み込まれたその一刀は、確実に俺の脳天をかち割る勢いで襲ってくる。


 まともに当たれば、あの世に行くことは間違いないだろう。


 俺は漆黒の剣を作り出すと、身体強化を使ってその槍を受け止めた。


 ドガァァァン!!


 爆弾が落ちたかのような耳を裂く衝撃音と、辺りを吹き飛ばす衝撃波が吹き荒れる。


 中々いい一撃だ。


 多分、最上級魔物ぐらいの強さはあるんじゃないだろうか。


「避けずに受け止められましたか」

「いい一撃だったぞ」

「嬉しくないですね。そんな余裕そうに止められて、素直には喜べないです」

「あはは!!そりゃ残念だ。なら次は頑張って俺からもう少し苦痛の表情を出させることだな」


 俺はケラケラと笑いながら、人の大きさに戻ったモーズグズの耳元で囁く。


 イス本人に聞かれたら恐らく怒るだろうからな。


「この世界の中でイスを守るのはお前たちなんだ。うちの子を頼むよ」

「........えぇ。この命に変えても、イス様はお守りします」


 真剣に答えたモーズグズに俺は満足気に頷くと、イスに話しかける。


「イス!!遊ぶか?」

「雪合戦するの!!」

「あ、人数少ないからモーズグズ達も参加な」

「かしこまりました」


 こうして、この日は穏やかに過ぎていくのだった。

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