千里の巫女

 ベオークから手渡された資料には、様々なことが書いてある。


 元老院の護衛に付いていた時に色々と調べてもらったのだが、1週間ポッキリでよくもまぁこんなに詳しく調べられるものだといつもながら感心する。


 「ヌルベン王国ねぇ........何処だよこの国。知ってるか?」

 「全く知らない。どっかの中小国?」

 「僕も知りません........」


 この報告書によると、俺を監視していた1人である何者かがいた座標は、ヌルベン王国の王都であるヌルベンという場所らしい。


 ある程度有名な国しか知らない俺たちは、もちろんこの国の事など知らなかった。


 座標的には正教会国寄りであり、獣王国との間に挟まれている。


 まぁ、この表現の仕方だとかなりの数の国が当てはまってしまうが。


 「この国は王政の国か。中身を見るに、絶対王政という訳では無いようだけど、王の権力が一番強いみたいだな」

 「仁。どちらかと言うなら立憲君主制だよ。一応議会みたいなのもあるようだし」

 「難しいよな。国家体制の言い方。覚えれねぇし、覚えてねぇよ。習ったの3年以上前だぞ」

 「おーせい?りっけんくんしゅせい?」


 俺たちの会話を聞いていたロナは首を傾げる。


 ロナにはちょっと難しかったか。


 俺も何となくしか分からないしな。


 「簡単に言えば、王政が王様が一番偉い。法律なんてクソ喰らえ。立憲君主制が王様も法に従ってねって事だ........あってる?」

 「多分?」


 ほとんど使わん知識だし、3年以上前に習った事など覚えいてるわけがない。


 違ったらごめんね。


 「んで、どうやってこの国は俺を監視してたんだ?」

 「これじゃない?千里の巫女ってやつ」


 花音が指さした文章を見ると、そこには“千里の巫女”について書かれていた。


 千里の巫女。ヌルベン王国の巫女であり、その目は世界の全てを見通すことができるそうだ。


 この国の建国にも携わっており、代々受け継がれる異能だという。


 今は12代目で、まだ16歳どうかなり若い。


 「代々受け継がれる異能か。珍しいな」

 「受け継がれる異能なんて聞いたことが無いね。産んだ子供がその異能を持つって事でしょ?じゃぁ、先代の異能はどうなるのかな?」

 「そのままなのか、それとも失うのか。どっちなんだろうな」

 「そ、それなら僕知ってます!!」


 俺達が疑問に思っていると、出番が来たとばかりにやる気な顔をしたロナが手を上げる。


 態々手を上げる必要は無いのだが、その可愛らしい姿を見るとそんなことはどうでもいいと思えてしまう。


 こいつ、男なのに可愛いの使い方を分かってやがる。


 花音の方を見ると、その頬が緩んでいる。


 花音すらも魅了するとは、ロナの可愛さは中々だな。


 「この異能を知ってるのか?」

 「いえ、異能は知りません。ですが、遺伝する異能に関しては知ってます」

 「へぇ?教えてくれないか?」


 俺がそう聞くと、ロナは待ってましたとばかりに尻尾を揺らしながら解説を始める。


 「異能には様々な系統があるのは知ってますよね?」

 「大きくわけて5種類。操作系、具現化系、魔法系、領域系、それらに属さない特殊系だな」


 この世界に来て最初に習った異能の基礎だ。


 俺の異能は具現化系の側面を持ってはいるものの、その本質は天秤の崩壊。系統で分けるとなると特殊系になる。


 獣人夫婦の異能は具現化系だな。


 ストリゴイは領域系で、ロナは操作系。


 魔法系の異能には出会った事がないが、魔法と大差ない異能だと教えられた。


 「そうです。遺伝する異能は特殊系に数えられます。団長様やイスちゃんのと同じですね。それで、遺伝する異能なんですが、結論から言うとこの世に全く同じ異能が2つ存在することは有り得ません」

 「と、なると........この千里の巫女に子供が出来た場合は、子供の異能が目覚めると同時に、異能を失うって事か?」


 俺の回答に、ロナは小さく首を横に振る。


 違うということか。


 「全く同じ異能は得られませんが、似たような性能を持った異能は得られます。ほら、子供ができると、その親の特徴を引き継ぐじゃありませんか。顔とかは特に。それと同じような感じです。遺伝する異能は、大まかな特徴だけを捉えて、その他は全くの別物になるんですよ」

 「人と変わらないって事か」

 「そういう事です。遺伝する異能ってかなり珍しいのでそうそうお目にかかれないですよ」


 そう言って締めくくったロナにパチパチと拍手を送る。


 少しはこの世界のことを知った気になっていたが、やはりまだまだ知らないことは多いようだ。


 全てが終われば、世界の謎に挑むのもありかもしれない。


 ファフニール辺りに聞けば、殆どの答えが得られそうではあるが。


 「それにしても、よくそんな事を知ってたな」

 「教えてくれたんです。僕と姉さんを育ててくれた人が色々と研究してたので」


 あぁ、確かリーシャとロナは拾われたって言ってたな。


 どう見ても地雷の匂いしかしないので、ここは深く突っ込まないようにしよう。


 下手に踏んで嫌われたら、足が吹っ飛ぶだけでは済まない。


 「そうか........んん?」


 なんと言っていいかわからず、微妙な静けさの中ペラリと資料をめくるとある文に目が止まる。


 そこには“千里の巫女死亡、原因不明”と書かれていた。


 何コレ。え?死んでんの?


 ........ちょっと待てよ?心当たりがあるぞ。


 原因不明なのは、おれが異能をぶっぱなしたからじゃないのか?


 「どーしたの?急に固まって」

 「あーうん。いや、そのー。スゥー........殺っちゃった☆」

 「は?」

 「千里の巫女を殺っちゃった。どうしよう。殺す気はなかったんだけど」


 いや本当に殺す気は無かったんだよ。


 最後にちょこっと尻尾を見せたとはいえ、俺に位置を悟らせないほどの実力の持ち主ならコレだけゆっくりとした攻撃は避けれるでしょと思ったんだよ。


 座標がかなり遠くて固定来るのに時間がかかったし、かなり膨大な魔力が渦巻くはずだから嫌でも気づけると思ったんだよ。


 やっべどうしよう。今更人殺し云々に悶えるほど精神は弱くないが、相手がその国でそれなりに重宝されているというのが問題だ。


 絶対国で混乱が起きているだろう。


 ペラペラと資料をめくっていくと、案の定ヌルベン王国は今大混乱である。


 誰が千里の巫女を殺したのか、魔王が関係しているのではないか。


 国の上層部が大混乱しているが、まだ国民にはその事実は知らされていない。


 とはいえ、その話が広まるのは時間の問題だろう。


 幸い、巫女には既に子供がいるらしく、遺伝する異能は問題なく受け継がれていくだろう。


 まだ1歳の子供の親を奪ってしまったのが1番申し訳ない。


 俺の言い訳を聞いた花音はウンウンと頷きながら、話をまとめる。


 「つまり、脅しのつもりが殺しちゃったってことでおk?」

 「おk」

 「いいんじゃない?魔王との戦いを覗き見するどころか、仁に何かしようとしたのなら敵だと思われてもしょうがないわけだし。見るだけに留めなかったその巫女の自業自得だよ」


 自業自得と言えばその通りなのだ。


 こういう時は切り替えていこう。


 「そうです団長様。この世は弱肉強食。弱者と弁えずに強者の尾を踏んだ向こうが悪いんです。団長様が何か思う事はないんです!!」

 「ちょっとした事故だと思えばいいか。死んだ巫女には申し訳ないけど」


 国内ではかなり有名な人だったようだし、国で葬式を上げることがあったら参列しよう。


 もし、呪うのであればその時俺を呪っくれ。


 心の中で手を合わせながら、俺はヌルベン王国の情報を色々と見るのだった。





気づいたらもう200話超え......まだ全体の半分も行ってない事実。先が長い!!

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