嫉妬の魔王

人気者は大変だな

 アゼル共和国のトップである元老院とその家族の護衛を無事に終えた俺たちは、その疲れを拠点で癒していた。


 「へぇ。結構美味いな」

 「本当ですか?!頑張って作ったかいがありました」


 嬉しそうににっこりと微笑みながら、その白い尻尾をフリフリと左右に振るロナ。


 いつ見ても思うが、お前は性別を間違えているぞ。


 この天使のような微笑みを見て、彼が男だと分かる人はどれだけいるのだろうか。


 俺はそう思いながら、手に持った焼き菓子を口の中に放り込む。


 味としては、ハッピー〇ーンに似ているな。あの魔法の粉が完全に再現されているわけではないし、味わって食べると違和感があるが、別に比べなければ普通に美味しいお菓子である。


 「花音か?」

 「はい。副団長様が作ってるのを見てたら、教えてくれたんです」

 「花音が教えたにしても、初めてなんだろ?料理するの」

 「初めてですね」

 「センスあるよ。少なくとも俺よりは」


 俺が初めて料理をした時は悲惨だったからな。肉を焼く程度ならできるが、細かい事を要求してくる料理は無理である。


 昔、回鍋肉を作ろうとして暗黒物質ダークマターを製造した時以来、俺には料理の才能が絶望的に無いと悟って諦めた。


 花音の言う通りに作ったはずだったんだけれどなぁ........


 しかし、そんな事を知らないロナは、可愛らしく首を傾げると質問してきた。


 「団長様は料理が下手なんですか?」

 「ん?あぁ。ロナは知らないか。俺の料理の腕は本当に酷いぞ。今度食わせてやろうか?」

 「........いえ、結構です。後ろで副団長様が“マジでやめとけ”って言ってるので」

 「マジでやめた方がいいよ。物によっては愛があっても食えないレベルだから」

 「酷くね?俺はちゃんと食ったはずだぞ?」

 「ふ、副団長様にそこまで言わせるとは........!!流石です団長様」

 「それ褒めてないよね?!」


 おかしい。俺も自分の作った料理はちゃんと食べたはずなのだが、食えないほどではなかったと思うぞ。不味かったけど。


 あ、でも龍二は“お前二度と包丁持つなよ?調理実習の時は皿だけ洗ってろ”とか言ってたな。


 あの時の龍二の真面目な顔に少し凹んだ記憶がある。


 「仁は勝手にレシピを変えるんだよ。これ美味そうじゃね?とか言って変なものをバンバン入れるから」

 「だってそっちの方が───────」

 「だってもクソもない!!創作料理ならともかく、ちゃんとレシピがあるんだからその通り作るの!!それが出来ないから仁の料理は不味いんだよ」

 「団長様。その、料理に面白さを求めてはいけません。料理は殺し合いじゃないんです」


 フルボッコである。


 流石の俺でも泣くぞ?いい歳した男がワンワン泣きわめくぞ?


 俺のメンタルにかなりのダメージが入っていたその時、俺の影にいたベオークが頑張ってフォローを入れてくれる。


『大丈夫。料理はダメかもしれないけど、イカサマは上手いから』

 「うん。それ、フォローになってなくね?」

『やっぱり?普段から自由奔放すぎて周りに迷惑かけてるんだから、少しは傷つけ』


 現実とは無慈悲である。


 おかしい。誰も味方がいないじゃないか。


 俺の豆腐メンタルを確実に切り刻みに来ている。もうやめて!!俺のメンタルはもう粉々よ!!


 割と真面目に傷ついていると、そんなこと知ったことかと言わんばかりにベオークがとある紙束を取り出してくる。


 中身を見なくてもわかる。何かの報告書だろう。


 フォローするどころか、追撃してきた挙句仕事をもってきたぞコイツ。


『子供たちから報告。ジンの調べて欲しいって言ってた国の情報』

 「あーうん。それは嬉しいが、今渡す?少しは慰めてくれてもいいんじゃない?」

 「よしよし。みんな酷いねぇー寄ってたかって仁を虐めて。でも大丈夫。私だけは味方だよ」


 そう言って頭を撫でててくる花音だが、1番の元凶はお前だろうが。


 しかし何故だろう。不思議とそう思ってしまう自分がいる。


『これが洗脳』

 「副団長様って中々にえぐい事しますよね........」


 そして、そんな様子を2人は若干引き気味に見るのだった。


 俺はちょっと頭を撫でられるのが好きなイスの気持ちがわかったところで、花音から離れてベオークから紙束を受け取る。


 そこに書かれていた内容は、とある国に関する事だ。


 「何それ」

 「魔王討伐の際に幾つか監視がついててな。ほとんどはその場所を掴ませてくれなかったんだが、一つだけ尻尾を出した奴がいたんだ。そいつの場所を調べてもらった」

 「あれ?でも仕事入っててそんな暇なかったよね?」

 「座標が分かってれば、俺以外が行っても問題ないからな。リンドブルムにお願いして、子供たちと一緒に座標の所まで飛んでもらった」


 連絡自体は念話蜘蛛テレパシースパイダーを使えば街から指示を出せる。スマホや携帯はないが、代用できる魔物がいるのは本当に便利だ。


 俺の場合はアンスールがこの蜘蛛たちを提供してくれているからいいが、国が実用化しようとするととんでもないほど金と時間がかかる上にリスクがあるからな。


 それに、蜘蛛の言葉を理解するのは難しい。


 そりゃコスパが悪くても魔道具を作るわけだ。


 「へぇー。リンドブルムが仕事してたんだ。張り切ってたんじゃない?厄災級魔物には中々仕事が割り振られないからね」

 「目立つからな。ドッペルや吸血鬼夫婦ならともかく、その他は目立ちまくるからな。アスピドケロンなんて動かしてみろ。世界中が大混乱だ」

 「フェンとかマーナ辺りも結構有名な厄災級魔物だからねぇ。人目に付くところには出せないよ」


 ほんと、扱いづらい連中だ。ベオークとアンスールがいなかったらどうしようもないぞ。


 ちなみに、リンドブルムは滅茶苦茶張り切っていた。


 仕事が終わった後、いっぱい褒めておいてやったら、そのことを色々なやつに自慢したらしく三姉妹や奴隷達経由で仕事をくれという相談を受けていたりする。


 一応、この拠点の護衛って言う仕事はあるが、やはり子供達で足りているのを分かっているのだろう。


 もう少し待って欲しい。


 戦争が始まればある程度仕事が増える。とは言え、団員の不満をそのままにするのも良くない。


 どうしたものかねぇ。


 「仕事熱心なのも考えものだな」

 「みんな仁に褒めてもらいたいんだよ。何だかんだ言ってみんな仁のことが好きだからね」

 「人気者は大変だなおい」


 悪い気はしない。が、ちょっと面倒だなとは思う。


 この報告書を見終わったら、何かみんなに任せらる仕事を考えるか。


 俺は、そう思いながらベオークから手渡された資料に目を向けるのだった。

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