はよ片付けろ
朝食を食べ終えた俺達は、その気配をなるべく消して誰からの目にもつかないように気をつけながら護衛をする。
暗殺に関しては、この街にいる限りは問題ないだろう。
向こうの最高戦力を殺した上に、丁寧にお手紙まで添えてやったのだ。
よっぽど馬鹿か、成功させないと命がないと言う状況でもない限り下手なことはしてこないだろう。
それに、バカラムとタルバスが真近で護衛している。
余程のことがなければ、俺達の出番は無いはずだ。
「それにしても、元気だなぁ」
「なんか仁を見てる気分になるよ。あっちにフラフラこっちにフラフラ。そして面白そうなものを見つけると、目を輝かせる辺りとか」
「確かに行動はパパそっくりなの」
朝食を済ませたローゼンヘイス家御一行は、数名の護衛を付けてバルサルの街へと繰り出した。
そして、俺達も影からこっそりと護衛に着いているのだが、リーゼンお嬢様が思っていた以上に自由人である。
面白そうなものが目につくと、すぐに走ってその場に行き興味を失うと他の場所へと走っていく。
付いていく護衛も大変そうだ。
急に曲がるわ引き返すわ。流石はお転婆娘と呼ばれるだけはある。
しかし、俺はあそこまで元気ハツラツでは無いと思うのだが?
もう少し落ち着きがあると思っている。
「俺はもっとのんびりしてるだろ。あそこまで自由人じゃない」
「そうだね。仁はもう少し理性的だねー」
「そうだねー」
口では肯定しているものの、イスと花音の目が“言っても無駄だし、話を合わせておこう”と言っているのが分かる。
馬鹿な。俺はあそこまで忙しなく動いた試しなんてないぞ。
こういう時、キッパリ言ってくれるベオークに話を聞くのが正解だと知っている俺は、お腹がいっぱいなのかのんびりと影で休んでいるベオークに話しかけた。
「おい、俺はあそこまで酷くはないよな?」
『あそこまでは酷くない』
ほら見ろ。
俺がイスと花音に少しドヤ顔をしていると、ベオークから追撃が飛んできた。
『あそこまでは酷くないだけであって、ジンも似たり寄ったり。五十歩百歩って知ってる?』
それ、俺もお転婆娘と変わんねぇって言ってるじゃん。
自覚はないが、あそこまで自由にあっちこっち動き回っているのだろうか。
俺が自分の行動を1回見直した方がいいかもしれないと考えていると、お転婆娘のリーゼンお嬢様が父親に要望を言っていた。
「お父様!!私、この街で最近有名な“
キラキラと目を輝かせる無垢な少女の視線が、父親であるブルーノ元老院に突き刺さる。
少し嫌そうな顔をしてるいるのを見るに、ブルーノ元老院はあまり傭兵にいい印象を持っていないのだろう。
これが冒険者だったらまた違う反応だったのかもと思うと、つくづく傭兵の立場の悪さが目立つ。
「あーリーゼン?別に会わなくてもいいんじゃないかな?ほら、傭兵ってあまり礼儀正しい人が少ないだろ?」
「“
「しかしだな........」
正論を言うお嬢様と、渋い顔をする父親。
父親の気持ちも分からなくは無い。態々危険な橋を渡る必要は無いからな。
「偏見で人を見ないのはいい子だねぇ。ちょっと好感度上がったかも」
「そうだな。まぁ、父親の心配も分かるが」
「で?どうするの?娘には甘いようだし、多分会いに来るよ?」
「んー、ドタキャンは........」
「出来るわけないでしょ?私達がいる事はバカラムが知っている訳だし」
ですよねぇ。
今までの言動を見るに、純粋ないい子だとは思う。
普通に接していれば問題ないだろう。
どうしようか悩むブルーノ元老院だったが、どうせ行ったところで聞かないと思ったのか、諦めたようにため息をすると言い聞かせるように娘の頭を撫でる。
「いいかい?決して挑発するようなことを言ってはいけないよ?」
「当たり前よ。人の嫌がることは言わないのは常識だわ」
「いや、リーゼンの場合は無意識に言うから注意してるんだが........」
父親の心配をよそに、お転婆娘は兵士に傭兵ギルドの場所を聞くとそこに向かって走っていく。
傭兵ギルドに行っても俺は居ないんだが?この場合はどうしたらいいのだろうか。
「ご安心を。何かあれば私が守るので」
「頼んだぞ」
護衛であるタルバスは、飼い主であるブルーノ元老院に頭を下げた後お転婆娘のあとを追って行った。
で、俺はどうするの?
一応護衛の仕事を受けているから、このまま待機?それともご機嫌取りに行けばいいのか?
俺がどうするか悩んでいると、バカラムが何かこちらに向かってジェスチャーをしているのが目に入る。
えーっと........“お前、走って、ギルド、行け”だよな?
「ギルド行けって言ってるよな?」
「言ってるね。早く行ってきたら?上手くやれば元老院とのパイプができるよ?」
「え?その言い方だと花音は来ないのか?」
「だってお嬢様のご指名は仁でしょ?私は念の為に護衛に回っているよ」
「私もごえーするのー」
確かに、イスと花音はご指名ではなかったな。
傭兵団
俺は小さくため息をした後、イスと花音に軽く手を振りながらこう言った。
「行ってくる」
「後でねー」
「礼儀正しくなの!!」
イスの見送りにちょっと不満を抱きつつ、俺は急いで傭兵ギルドに向かう。
街中を本気で走ると被害が出るので、被害が出ない程度の最高速で走った。
3分後。
俺は傭兵ギルドにたどり着くと、急いでその扉を開ける。
俺に会うためとはいえ、傭兵ギルドに来るのだ。
真昼間から酒の匂いを漂わせるのはあまり宜しくない。
ただでさえ悪い傭兵の評判が、さらに落ちるのは勘弁願いたかった。
「お?ジンじゃないか。昨日ぶりだな」
ギルドにいたのは約10人ほど。
そして、こういう時に限って全員酒を飲んでやがる。
俺は話しかけてきたアッガスの持っているエールのコップを取り上げると、このギルド全員に聞こえるように言った。
「今から元老院のお転婆娘が来る!!さっさと片付けて綺麗ししやがれ!!このダメ人間共!!」
「は?何言ってんだ?ジン」
「言葉の通りだよ!!今話題の
「.........え?マジ?」
「こんなくだらん事で嘘を着くわけねぇだろうが。分かったら片付けてできる限り掃除しろ!!床を舐めても問題ないぐらいな!!」
俺はそう言うと、テキパキとマジックポーチから掃除道具を取り出して掃除を始める。
ここでようやくダメ人間共は、冗談ではなく本当にお嬢様が来ると分かったのか慌て出す。
「おいおい!!マジかよ!!上手く元老院の1人に気に入られりゃ、このギルドの立場も良くなるぞ!!」
「おら、急げ!!とりあえず酒類は全部片付けろ!!飲むなよ?!酒の匂いを漂わせてる奴がいたらぶっ飛ばすからな!!」
ここで、自分が気に入られようとする為に動くのではなくギルドの立場上昇の為に動けるのは流石だ。
根はいいヤツらが多い。
だからこそ、居心地がいいのだ。
「あん?騒がしいと思ったら、なんだお前ら。今日は新年前の大掃除の時期じゃないぞ?それともなんだ?ようやくこのギルドの有り難さに気づいたか」
「うるせぇぞギルマス!!元老院のお嬢様達が来るんだよ!!ギルマスもさっさと手伝え!!」
いつもとは違い、アッガスの声が荒い。
そして、それを聞いたギルドマスターは大焦りで叫んだ。
「なにぃぃぃぃぃ!!」
ホント、退屈しない連中だ。
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