不憫ドッペル
泣きくじゃるドッペルを、よしよしとあやすこと約15分。
ようやく落ち着いてきたドッペルは俺から離れて、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
ドッペルが顔を赤らめるところなんて初めて見たな。かれこれ三年近い付き合いになるが、そんな表情をするのは初めて見た。
まだまだ知らない一面を見せてくれるドッペルに、少し感動を覚えながら俺はドッペルに話しかける。
ちなみに、ドッペルが泣く原因になったイスと花音はベッドの上に正座させている。君達は反省してなさい。
「大丈夫か?まだ胸を貸して欲しければ、貸してやるぞ?」
「か、からかわないでくだサイ。もう大丈夫デス........恥ずかしい..........」
自分の行動を思い出したのか、ドッペルは両手で顔を覆ってモジモジと悶える。
これが絶世の美女とかなら絵になったかもしれないが、顔が無いドッペルがやると、ちょっとしたホラーだ。
もちろん、傷ついているドッペルにそんな追い打ちをかけるようなことは言わないが。
「悪かったな。イスはともかく、花音については俺の考えが甘かった。これからは、なるべく影武者を用意しなくてもいいようにするよ」
「えぇ。是非ともそうしてくダサると助かりマス。もしくは、副団長サンが居ない時にして下サイ」
「善処するよ。どうしても、本当にどーしても、必要な時だけ頼ってもいいか?」
「その時は..........マァ、我慢しマス。こうして魔道具を弄れるのは、団長サンのお陰デスしね」
もの凄い嫌そうな雰囲気をほんの一瞬出す辺り、俺の代わりをやってたのがよっぽど辛かったのだろう。
一体どれだけキツイ事をしたのやら。
俺は、ベッドに正座する2人をじろりと見る。
先ずはイスからだな。
視線を向けられたイスは、怒られると感じ取ったのか、少しだけ肩をビクッと震わせるとそのまま大人しく下を向いた。
本当はあまり怒りたくないのだが、悪いことをしたのなら叱るのが親と言うものだ。
とは言え、怒鳴る訳では無い。話を聞く限り、イスはそこまで悪くないしな。
俺は優しくイスに話しかける。
「イス。なんで正座させられているかわかるか?」
「...........ドッペルに八つ当たりした事」
「そうだ。イスを起こさなかったパパも悪いが、だからといってドッペルに当たるのは違うよな?」
「うん........」
「悪いことをしたらどうする?」
「ごめんないするの」
いい子だ。怒られるべきは俺であって、ドッペルは完全にとばっちりを受けただけである。
八つ当たりしていまう気持ちは分からなくもないが、だからといってやっていい訳では無い。
イスは正座を解いてベッドから降り、ドッペルの前に行くとぺこりと頭を下げた。
「八つ当たりしてごめんなさいなの.........」
本人は真面目に謝罪しているが、周りから見ると可愛さしか残らない。
ドッペルも優しく微笑みながら、少ししゃがんでイスの目線に合わせると、その頭を撫でる。
「大丈夫デスよ。虫の居所が悪い時は、誰しもかそんな風に八つ当たりしてしまうものデス。でも、だからと言って感情のままに動いては行けませんヨ?」
「うん。ごめんなさいなの」
「今度、一緒に遊びまショウ。イスチャンと一緒に遊べる魔道具を作っておきマスよ」
「うん!!」
元気さを取り戻したイスに、みんな癒される。
やはり、可愛いは正義だな。
さて、問題はこっちだ。
“なんで私、正座させられてるの?”と言わんばかりの顔をしている花音に説教をしなくてはならないが、こういう時の花音は中々反省しないからな........
俺は面倒だなと思いながらも、花音に話けた。
「あー花音?なんで正座させられたかわかるか?」
「んー分かんない」
おちょくってるとかでは無く、真面目に答えている。
流石にこれには、イスもベオークもドッペルも驚いていた。
『え?マジで言ってる?新手のギャグだよね?』
「流石は副団長サン。ワタシ達とは思考回路が違いすぎる」
「ママ、嘘でしょ?」
こういうやつなんだよ。花音は。
「花音。お前を正座させたのは、ドッペルへの演技指導が厳しすぎたからだ。反論は?」
「だって!!ドッペルの演技が下手すぎるんだもん!!仁の影武者をやるなら、完璧にこなさなきゃ!!」
『だからと言って、歩幅は平均75.3cmだから±0.5mm以内に抑えろとか、頬を書く仕草の時に動かす指の角度とか細すぎ』
花音の言っていることは正論ではあるが、確かに細すぎだな。
誰が見てんだよ。そんな細かいところまで。
「しかも、少しでもミスするト、容赦なく足を踏み抜いてクルんですヨ。しかもかなりの勢いで。滅茶苦茶痛かったデス」
「しかも、踏みつけるだけじゃなくて、殺気まで飛ばしてたの。結構怖かったの」
「...........って言う証言があるんだが、何か言うことは?」
「私、別に悪くなくない?仁の為を思ってやってたんだし」
一切反省の色がない花音に、俺は頭を抱える。
これなんだよ。花音の悪いところは。
俺が絡むとアホになる所がダメなんだよ。
これが、俺以外の影武者をやらせていたなら大人しくしていただろう。本当にドッペルには申し訳ない。
俺の見立てが甘かった。
「本当にすまないドッペル。花音はこういう奴なんだ」
「アハハ!!大丈夫デスよ団長サン。団長サンが絡んだ時の副団長サンに関しては、みんな諦めてますカラ。団長サンが絡まなければマトモですし、優しい方だと言うのもみんな知ってますヨ」
気を使って言っているという訳では無い。演技指導こそ厳しかったが、別に怒っているという訳では無いのだろう。
俺がほっとしていると、ドッペルは少し嫌そうな顔をして言葉を続ける。
「逆に言えバ、団長サンが絡んだ時の副団長サンは怖いので、みんななるべく遠ざかるようにしていマスけどネ」
「本っ当に申し訳ない........これからはもっと気をつけるよ」
その後、何とか花音を謝らせ、ドッペルに特別報酬として何か欲しいものを聞いた。
どうやらドッペルは魔道具店に行ってみたいようだったので、この仕事が終わったら連れて行ってあげるとしよう。
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「へぇ?じゃぁ、バカラム以外にも手練がいるのか」
バルサルのスラム街の近くにある廃墟。その地下で、その男は干し肉を齧りながら楽しそうに呟く。
「話では、バカラムよりも強いらしい。気をつけろよ?」
「大丈夫大丈夫。夜闇の中で僕に適うやつは居ないよ」
男はそう言うと、机の上にあった干し肉を全て口の中に放り込み、席を立つ。
「ほへしゃあ、ひってふるほ」
「待て待て。ちゃんと食べ終えてから行け。行儀が悪いぞ」
「ふぁーい」
男は素直に椅子に座り直すと、もぐもぐと干し肉が口の中から無くなるまでゆっくりと口を動かすのだった。
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