ダンジョウザァァァン!!

 俺が街に入ったのは、日が暮れて月が辺りを照らし始めた頃だ。


 次々と団員が集まってくるおかげで、結局1時間ぐらい話し込んでしまった。


 アンスールが“ご飯作る”って言わなかったらもう少し話していたかもしれない。


 「んーと。花音達はどこかな?」


 空から街の中に降り立つと、俺は花音達の気配を探る。


 ちなみに、街の門は既に閉まっているので、空からの不法侵入だ。


 大丈夫。バレなきゃ犯罪じゃないから。


 それに、俺の代わりにドッペルがこの街の門を潜っているから、どちらにしろ俺はバレないように不法侵入だする羽目になるんだよな。


 俺はキョロキョロと夜のバルサルの街を見ながら、少しだけ気配を垂れ流す。


 俺が見つけられなくとも、向こうに見つけてもらえれば迎えが来るだろうと考えての行動だ。


 あまりやり過ぎると目立ってしまうが、ほんの少しだけ垂れ流すだけならば他の人達には分からない。


 別に花音達の気配を探すのが面倒なわけじゃないぞ?アレだ。俺が探すよりも探してもらった方が効率がいいんだ。ちょっと魔王と戦った疲れが出てる訳じゃないから..........誰に言い訳してるんだろう。


 疲れからか、俺の思考が変になり始めたその時、後ろから物凄い速さで迫ってくる気配が二つ。


 「じーーーーーん!!」

 「パパーーーー!!」


 後ろを振り返ると、そこには両手を広げて既に俺に飛びつこうとしている花音とイスの姿があった。


 俺はメデューサの時とは違い、その飛びつきを避けること無く2人を抱きとめる。


 そこそこいい衝撃が俺を襲うが、魔王の“吹き飛べ”に比べれば可愛いもんだ。


 嬉しそうに俺の頬に頬擦りをする花音と、同じように俺の胸に頭を擦り付けるイス。


 俺は花音とイスの頭に手を乗せると、少し強めにその頭を撫でながらこう言った。


 「ただいま」

 「お帰り!!」

 「おかえりなさいなの!!」


 2人の温もりは、今日の疲れを癒してくれた。


 その後五分ほど抱きついたままだった2人だが、流石に満足したのか離れると、にっこりと笑いながら今日何があったのかを話してくる。


 「へぇ?そのお嬢様とやらは聞いていた以上にお転婆なんだな。街に着いた初日から、抜け出そうとするとは随分やんちゃがすぎる」

 「そうなんだよ。とは言え、流石にバカラムの目は誤魔化せないけどね。その子の異能が何かは分からないけど、ある程度実力差があればあまり関係ないだろうし」

 「バカラムの目を誤魔化せるほどの異能なんて持ってたら、今頃そのお嬢様とやらはこの街の中を自由に歩いているだろうな。まぁ、念の為に子供達にも見張らせているなら大事にはならんだろ。それより、なんだっけ。えーと........あの裏組織の名前」

 「魔の手デッド・ハンドだよ。仁?大丈夫?疲れてる?今日は私達が仕事するからゆっくり休む?」

 「パパ。お疲れなら無理しなくていいの」


 本人達は真面目に心配してくれているだろうが、心配された本人としては割と傷つくのでやめて欲しい。


 俺だって人間だよ?ド忘れぐらいするさ。


 多少の疲れはあるが、2週間ほとんど寝ずに赤竜レッドドラゴンの巣の中で逃げ回っていた時に比べれば何ともない。


 「大丈夫。大丈夫。ちょっとド忘れしただけさ。それよりドッペルとベオークは?」

 「あの二人なら護衛に付いてるよ。私が仁の気配を感じ取って飛び出したから、2人は今頃困惑してるかも?」

 「先に言えよ.........急いで合流するぞ」


 俺は相変わらずすぎる花音に呆れながら、花音の後をついて行く。


 なるべく早く合流したいが、流石に街中で最高速を出すと被害が出る。ある程度速度をセーブしながら街中を掛けること約5分。


 ドッペルの気配が感じられる、とあるホテルの一室に辿り着いた。


 花音達は窓から飛び出したのか、部屋に取り付けられた窓が全開になっている。


 「ただいまー」

 「ただいまなの」


 全開になっている窓から部屋に入ると、俺と瓜二つの顔をしたドッペルがベッドで座っている。


 いつ見てもそっくりだ。気配も何とか似せようとしているのが分かる。よっぽど手練が相手じゃなければ、俺との違いは分からないだろう。


 「ダンジョウザァァン!!」


 ベッドに座っていたドッペルは、俺を見つけるやいなや変装を解いて能面な顔に戻ると、泣きながら俺に抱きついてくる。


 もちろん、抱きつかれた俺は困惑の嵐だ。


 普段全く感情を表に出さないドッペルがここまで感情を露にしているのも驚きだし、そののっぺらぼうのような顔から涙がこぼれ落ちることも驚きだ。


 ってかどうやって泣いてるの?“魔物だから目が無くても見えるんだな”とか思っていたが、どうやらドッペルゲンガーと言う種族は目がなくても泣けるらしい。


 ってかなんで泣いてんの?


 そんな泣くほどの方なことがあったとは思えないのだが........


 俺は、いつの間にか影に戻ってきているベオークに視線を向けて“説明しろ”と促す。


 花音やイスに聞かないのは、どうもドッペルが泣いている原因が2人にありそうだからだ。


『先ずはお帰り。魔王はどうだった?』

 「ただいま。魔王は........強かったちゃ強かったな。でもご覧の通りほぼ無傷で勝ってきたぞ」

『ワタシでも勝てた?』

 「それはやってみないとなんとも言えんな。ご自慢の深淵次第だ。それで?なんでドッペルがこんないじめられっ子に泣かされたような感じになってるんだ?」

『まず、ジンがいなくなってから、イスが不機嫌になった』


 ん?最初から何言ってるかよくわからんぞ。


 「もう少し詳しく」

『ワタシもその場にいなかったから正確な事は分からないけど、カノン曰く“ジンを見送れなかった事に腹を立ててた”という事らしい』


 なんと可愛い我が子なのだろうか。


 俺は、俺に抱きついているドッペルを睨みつけているイスを見て嬉しく思う。


 俺に怒っていたらしいが、そんな可愛らしい理由なら怒られてもしょうがないな。


 「それで?」

『それはカノンが鎮めたからいいんだけど、ジンに変装したドッペルがタイミング悪く現れて再び不機嫌に』

 「なんで不機嫌になってたんだよ........」

『“ジンが忘れ物でもして帰ってきた”と思ったらしい。これで見送りが出来ると思ったらドッペルだったワケ』


 なるほど。見た目だけなら俺と間違えてもしょうがないし、気配も頑張って似せれば一瞬俺と間違える。


 ドッペルの変装が上手すぎたな。


 「まぁ、イスが怒ってた理由はわかった。でも、それだけじゃこうはならんだろ」


 俺は未だに泣きながら俺に抱きつくドッペルの頭を軽く撫でてやりながら、花音にジト目を向ける。


 イスが不機嫌になってドッペルに怒る程度なら、ドッペルもちょっと困るだけで済むはずだ。


 そして、ドッペルのなく原因がイスではないと言うことは、花音が原因ということである。


 ベオークはその通りと言わんばかりに頷いた後、文字を書き始める。


『端的に言えば、カノンの演技指導が厳しすぎた』

 「そんなに?」

『少なくとも、ワタシ目線から見たら、とてもでは無いけど同じ立場になりたくはないと思うぐらいには厳しかった。ちょっとでもジンらしさが無いと足を踏みつけたり、殺気を当てたり.........ワタシとイスが頑張って宥めてなかったらもっと酷かったかも?』


 俺は盛大にため息を着くと、花音を睨みつける。


 ドッペルだってメンタルが豆腐なわけじゃない。それなのに泣くとか相当だぞ。


 そして、当の本人は俺が帰ってきた事で機嫌がいいのか、鼻歌を小さく刻んでいやがる。


 「花音」

 「ん?なに?」

 「1週間、添い寝禁止な」

 「なんでぇ?!」


 とりあえず、泣きくじゃるドッペルを落ち着かせないとな..........


 もしかしたら、魔王討伐よりも疲れるかもしれん。

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