帰ってきたぞ
魔王を討伐し終えて拠点に帰ってきた頃には、既に日は沈みかけており空は赤く染まっていた。
時刻は大体夕方の5時過ぎ、日本ならば今頃定時帰宅しているサラリーマンや学生で溢れかえっている時間だ。
「あら、随分と速い帰りね。日が沈んだ後に帰ってくると思ってたわ」
俺が宮殿の庭に降り立つと、俺の気配を素早く察知していたアンスールが出迎えてくれる。
なんか、出迎えの時っていつもアンスールが1番な気がするな。察知に優れているからか?
俺はそんなどうでもいい事を考えながら、優しい笑みを浮かべるアンスールに話しかける。
「この後護衛の仕事が入っているんだぞ?なるべく速く帰ってくるさ」
「そう?てっきりジンの事だから、魔王と戦うのが楽しくなっちゃって遊んでいるかと思ってたわ」
「アンスールは俺をなんだと思ってるんだ?用事がなきゃのんびり遊んでも良かったもしれないが、ちゃんとやらなきゃいけない事がある時は真面目にやるさ」
「あら、以外ね。私の知ってるジンは、“仕事?そんなのどうでもいいから楽しいことしようぜ!!”って言うはずなのだけれど.........」
アンスール。お前は本当に俺をなんだと思ってるんだ。
俺は、そこまで常識外れの人間じゃないつもりだぞ。
アンスールの目に俺がどう写っているのか不安に思っていると、横からものすごい勢いで突進してくる気配が一つ。
俺は、その相手が誰かを察知すると、素早く後ろへと飛び退く。
が、いつもいつも同じ手が通じる相手ではない。
突進を噛ましてきた主は、俺の動きに合わせて素早く方向転換をすると俺に思いっきり抱きつく。
「YHA!!お帰りデース!!」
「はいはい。ただいま。出来れば普通に出迎えてくれると嬉しいんだがな?メデューサ?」
「何を言っているのデスか?普通に出迎えいるのデース」
「そうかそうか。人を吹き飛ばす勢いで突撃して抱きつくことが普通の出迎えか........アンスールなんとか言ってやれ」
「普通ね」
「ヲイ」
サラッと裏切るアンスールにジト目を向けながら、俺は嬉しそうに俺に抱きついて離れないメデューサを何とか遠ざける。
別に抱きつくのは構わないが、突撃かましながら抱きついた後に思いっきり絞めて来るのは勘弁願いたい。
厄災級魔物の腕力で締め付けられると、割とシャレにならないのだ。
「そー言えば、団長サンは魔王の討伐に行ってたね。もう倒したのですカ?」
「ん?あぁ倒したぞ。傲慢の魔王ルシフェルとその取り巻きの悪魔4体。悪魔はともかく、魔王は強かったな」
「へぇ?どのぐらい強かったのかしら?私達よりも強かった?」
「んーどうだろうな。相性差とかを抜きにして考えればアンスールやメデューサの方が強いと思うぞ」
能力云々の話ではなく、単純な戦闘技術に関しては明らかに2人の方が上だ。
アンスールはその糸を使った嫌らしい攻撃を多く仕掛けてくるし、メデューサに至っては見られるだけで驚異になる。
自分達の方が強いと聞いたアンスールは、少し嬉しそうにしながら微笑む。
「私が戦っても勝てたかしらね?」
「多分勝てただろうな。流石に魔王レベルが2人居ればキツイだろうが」
「それはよっぽどの差が無いとキツイわよ。私とメデューサで手を組めばファフニールとやり合えるのと同じようにね。だからこそ、数は戦いにおいて重要なのだから」
「そうだな。なるべく人数有利を作って戦いたいもんだ」
アンスールとメデューサコンビを相手するとか、考えただけでも恐ろしい。
アンスールの糸に少しでも絡め取られたら最後。メデューサの目によって石に変えられるだろう。
それだけじゃない。次々とアンスールやメデューサが生み出した眷属達が襲いかかってくるのだ。
絶対にヤバい。
蜘蛛や蛇の魔物の中には、空を飛べる者もいる為、空にも逃げ場はない。
アレ?もしかしてアンスールメデューサコンビって最強なんじゃね?
圧倒的物量を自信で用意できる上に、本体である本人自身も滅茶苦茶強い。
唯一の弱点は、広域に渡る気温変化の攻撃。要はイスの異能ぐらいぶっ飛んで無いと戦うのは大変だと言うことだ。
「団長!!帰ってきてたんだ!!」
俺がアンスール達と話していると、宮殿の窓から誰かが飛び降りてくる。
宮殿って広すぎて普通に扉から出てくるよりも、窓から出入りした方が早いんだよな。
「ただいま。シルフォード。他のみんなは?」
「急いでこっちに来る準備をしてる。書類を纏めるのって結構時間かかるから........」
あぁ。みんな仕事中だったのか。
別に無理して出迎えてくれなくてもいいのだが、本人達がそうしたいのなら大人しく待っているとしよう。
なるべく早く仕事に行った方がいいが、少しの間団員と話すぐらいは許してくれるはずだ。
「俺がいない間に何か報告はあるか?」
「神聖皇国がようやく動き始めた。今頃は旧サルベニア王国を目指して飛んでいるはず」
へぇ、思っていたよりは動きが早いな。
傭兵団であり、国というしがらみが無い俺達と違って、勇者達は好き勝手に動くことはできない。
国境を無断で越えようものなら、国際問題に発展しかねないもん。
「バレないように移動すればいいと思うのは俺だけか?」
「できる限りリスクを減らしたいんでしょ。人間ってそういうところが非効率的で頭悪いわよね」
「団長がおかしいだけで、神聖皇国の考え方が普通。この人、“イカサマはバレなきゃイカサマじゃねぇんだよ”とか言って遊びでもズルする人だから」
「イカサマを見抜けない方が悪い」
「ほらね?」
呆れたように俺を見るシルフォードと、ウンウンと何かを思い出しながら頷くアンスールとメデューサ。
「俺は祖母にそう教えられてきたんだけどなぁ........それに、いつもちゃんとネタばらししてるだろ?」
「団長がこうなったのは、お婆さんのせいだったか。それと、いつもボロカスに勝ったあとにネタばらししてるよね?煽っているとしか思えない」
「いつもイカサマしてるはずと思って注意してみてるのに、全く分からないのよねぇ........全部私達が仕切ってもイカサマされるからどうしようもないわ」
「ネタが割れても見破れない辺り、団長は中々の詐欺師デース!!」
酷い言われようである。
神聖皇国の話を聞いていたのに、いつの間にか俺のイカサマについて話がそれていたので強引に修正する。
これ以上この話を続けると俺が不利になるだろうしな。言いたい放題される前に話題を戻そう。
「それで?魔王討伐に誰が参加しているんだ?」
「えーと、団長の同郷3人........コウジ、シュナ、リュウジだったけ?後、聖堂騎士団第五団長エルドリーシスって人」
「第五団長って言うと..........あぁエルフのあの人か」
聖堂騎士団第五団長エルドリーシス。
エルフが多く所属する聖堂騎士団第五のトップであり、彼女もエルフの人である。
自然豊かな緑の髪色と、エメラルドのような透き通った綺麗な目が特徴的な人であり、神聖皇国に住むエルフの人々から絶大な支持を受けている人だ。
実力は戦ったことがないので分からないが、噂で聞くに
「その4人なら魔王も問題なく討伐できるだろうな。まぁ、今回はその魔王がもういないけど」
「無駄足ってやつね。ところで、仕事に行かなくていいのかしら?」
「みんなと少し話したら行くさ。それまではドッペルに頑張ってもらおう」
結局、俺が街へ向かったのは日が沈んだ後だった。
ダメだね。話し込むと時間が過ぎるのが速いわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます