仁VS魔王ルシフェル①
漆黒の剣を突きつける仮面を被った人間。この人間が現れてから、たったの5分足らずで悪魔達は全滅してしまった。
この人間がどのように悪魔達を殺していったのか。その一部始終を見ていた魔王ルシフェルは、今ある仮面の人間の情報を纏める。
再生不可の大技や突如として現れた黒い騎士達。丸い盾を持っていることから推測するに、防御に使っていた丸い盾は、この騎士たちのものだろう。
現在確認できる黒い騎士達の数は、9体。その全てが丸い盾と漆黒の剣を装備しており、運動能力も悪魔達と比べて遜色ない。
再生不可の大技に関しては、予備動作が長い上に攻撃される場所に膨大な魔力が渦巻く事が分かっている。
しっかりと警戒していれば、まず当たることは無いだろう。
これだけならば、魔王は大してこの仮面の人間を驚異に思わなかった。
ただ、能力が優れているだけの人間であり、本体はさほど強くなければやりようは幾らでもある。
以前、仁が“彗星”を暗殺した時のように、その能力を使う者を殺せば済む話だ。
だが、今回はそれが問題である。
本体である人間が異常なほどまでに強いのだ。
自身の能力を過信せず、あくまでも戦う手段として能力を割り切って使っている。
あくまでも能力は見せ札。本命は、本人自身の肉弾戦闘だ。
悪魔達の敗因は、自分達の能力を過信した事だろう。
(人間にしてはやるな。特に、パイモンとルムルムを殺した時の手腕は鮮やかだった)
堕天使の悪魔とルムルムの悪魔。この2人を殺した時はあまりにも鮮やかすぎて、思わず魔王は賞賛の拍手を送りたかった程だ。
堕天使の悪魔がその羽で人間を攻撃し、セーレの悪魔が瓦礫を盾に打ち付けて砂埃を上げて目眩しをさせて羽の軌道を見えないようにしていた頃。仮面の人間は逆にこの砂埃を利用して、自身のダミーとなる黒騎士を召喚。
その後、自分は砂埃から脱出し、気配を完全に消して堕天使の悪魔とルムルムの悪魔の死角に移動していた。
本来ならば、砂埃から脱出した時点で気付かれていただろう。
砂埃に視線が集中している中、黒い物体が砂埃の中から出てきたら嫌でも目につくはずだ。
しかし、悪魔達はそれに一切気づかなかった。
何故か?
理由は簡単。仮面を被った人間は、茶色い布で自身を覆っていたからだ。
悪魔達は黒色が人間と思い込んでしまっているため、茶色には目が行かなかった。
更に攻撃に集中していた彼らは、探知を最小限にまで抑えていたのも原因だ。
仁が襲ってくる前の警戒状態ならば、砂埃から何か物体が出ていったのが分かったはずである。そこに視線を向ければ、砂埃から出ていく仁の姿を捉えることができただろう。
そして、黒騎士と入れ替わった人間は、堕天使の悪魔とルムルムの悪魔の警戒が最大限緩んだその瞬間を狙って首を刈り取った。
“攻撃を喰らって落ちた”と油断させたのだ。更に、人間を“黒”と認識させていた為、黒騎士が代わりになっていようとも気づくことは無い。
完全に人間の手のひらの上だった。
魔王はそんな仮面を被った人間に向かって、拍手を送る。
ゆっくりと叩かれたその手とその態度は、傲慢そのものだ。
「見事だ。人間よ。すべて見ていたぞ」
「........そりゃどうも」
「特に、砂埃から脱出した時の手口は鮮やかだった。素晴らしい」
「面白いだろ?あんな単純な手でも案外引っかかるもんさ。“見えないゴリラ”ってやつだ」
「.........?」
“見えないゴリラの実験”。視野の中に入っているものの、注意が向けられていないために物事を見落としてしまう事象を表す、“非注意性盲目”を検証した実験だ。
実験の内容は、白いシャツを着た人と黒いシャツを着た人がバスケットボールをパスする短いビデオ映像を見せられ、白いシャツを着た人のパスの回数を数える。その後、いくつかの質問がされるのだが、その中に「何か選手以外に目についたものはありますか?」と言う質問がある。
映像ではゴリラの着ぐるみを着た人が現場を通過したのだが、42%の被験者がそのゴリラの存在に気付かなかった。というものだ。
もちろん、地球での実験であり、異世界にこのような考え方を持つ者は少ないので魔王が“見えないゴリラ”の話をされても分かるわけが無い。
魔王は首を傾げるだけだった。
「あぁ、通じないか。ここじゃスマホ使ってその場で調べるとかできないもんな」
仮面を被った人間は何かボソリと呟いた後、黒騎士を後ろに従え漆黒の剣を構える。
混じりっけのない殺気が辺りを覆い、自然と魔王も臨戦態勢へと移行した。
「お話はここまでだ。この後、仕事があるんでな」
「随分と傲慢だな。この傲慢の魔王を前にしてその口を叩けるとは面白い」
お互いの殺気がぶつかり合う。もし、ここにただの一般人がいれば、その殺気に当てられて気を失っていただろう。
静かながらも、激しく渦巻く殺気の均衡を破ったのは仮面を被った人間だった。
一瞬消えたかと錯覚するほどの初速。気づいた時には、その剣が魔王を斬りつけれる程の距離にまで近づいていた。
既に剣は魔王を下から斬りあげようとしており、その牙は魔王を噛み砕くすぐそこまで来ている。
しかし、魔王は冷静だった。
「“吹き飛べ”」
1度吹き飛ばした一撃。距離を詰められようとも、この一言で距離を取ることができる。
これが初見ならば、間違いなく攻撃を食らっていただろう。
だが、2度も能力を見せているにもかからわず、戦闘に優れたその人間が何も対策していない訳かがない。
「
魔王ルシフェルと人間の間に、黒い盾が現れる。
人間を吹き飛ばすはずの衝撃を、黒い盾が受け止めた。
「チッ」
魔王は舌打ちをした後、素早く空へと飛び立つ。
片翼がもがれている状態ではあるが、翼がなければ空が飛べない訳では無い。翼はあくまでも制御用。無くとも、ある程度熟練していれば翼なしでも空は飛べる。
魔王が空に飛び立つと同時に、魔王がいた場所を黒い剣が通る。
「やっぱり、俺自身にはその言葉が効かないようだな?生き物には使えないのか、それとも保有している魔力量が多いために使えないのか」
仮面で顔は見えないが、魔王はその仮面の奥に眠る人間の顔が歪んだように感じた。
たった2度能力を見せただけで、その本質を見極め始めている。
早く決着をつけなければ、不利になるのは自分だと判断した魔王は攻撃に移ろうとする。
が、攻撃をする前に人間から次の攻撃が飛んできた。
物凄い速さで飛んできたのは漆黒の剣。
魔王が空を飛んだのを見て、その剣を投げたのだ。
あまりに早すぎる二擊目。
何とか身を捩って剣を避けた魔王だが、剣が頬をかすめる。
頬から涙のように流れ落ちる血が、顎を伝って地面に落ちていく。
「やってくれるな。人間........!!」
魔王は頬を拭いながら、魔力と殺気を練り上げる。
戦いは始まったばかりだ。
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