仁VS魔王ルシフェル②

  魔王との一騎打ち。先手を取ったのは俺だった。


  斬り上げからの剣投げ。当たればラッキー程度の攻撃だが、俺の目的は魔王にダメージを与えることではない。


  殺気と魔力を練り上げる魔王をよそに、俺は魔王の能力を考察する。


  最初は、俺自身に影響を及ぼす能力だと思っていた。


  自身の言葉を現実に変えるようなチート能力かなと思ったのだ。


  だって“吹っ飛べ”の一言でとてつもない衝撃が襲ってきたのだから。


  だがよくよく考えると、俺に向かって“吹っ飛べ”は少しおかしい気がした。


  自身の言葉を現実に変える能力だった場合、俺に向かって放つ言葉は“吹っ飛べ”ではなく“死ね”だろう。


  その一言で決着は着いていたはずだ。


  つまり、“死ね”と言えない理由がある。


 という事で、確認のためにやったのが堕天使悪魔のぶん投げだ。


 味方であるならば、なるべく傷つけないように使う言葉も優しくなるのでは?と考えたのだ。


 その結果は“落ちろ”。


 “止まれ”では無く“落ちろ”だ。


 言葉を投げかけた相手に直接効果を及ぼすことが出来るのであれば、“止まれ”の方が味方を傷つけない。


 だが、魔王はそれをしなかった。否、出来なかった。


 魔力が大きすぎるものには作用しないのか、生き物には使えないのか分からないが、ともかく俺や悪魔に直接作用する能力ではない。


 魔力の動きを見るに、魔力を含んだ言葉が対象に当たらなければ問題ないと判断した。


 これが分かったのは大きな収穫だ。一応“死ね”と言われても対応できないことはないが、あまり使いたい手ではないからな。


 魔王の言葉が驚異で無いと分かった以上、ある程度は突っ込んで言っても問題ない。


 隠し手がなにかあるだろうが、最低限の対策はして割り切っておくべきだった。


 「“炎よ。形作り太陽となれ”」


 殺気と魔力を練り上げていた魔王が、人差し指を立てて天高くその腕をあげる。


 すると、その言葉の通りに炎が集まり、太陽のように丸く形作られていく。


 それなりに距離があるにも関わらず、とんでもない熱量が俺を襲ってくる。


 おいおい、デカすぎだろ。直径が100m近くもあるぞ。


 バカラムとやりあった時も熱かったが、今回はそれ以上だ。


 「燃え尽きて灰となれ。虚言の太陽ライズ・サン


 魔王はゆっくりと振り上げた腕を下ろすと、太陽を落とす。


 直径が100m程もある巨大な太陽は、ゆっくりと地面を目指して落ちてくる。


 巨大な太陽が落ちてくるその様子は、この世の終わりのような光景だ。


 「避けてもいいんだが........避けるとここら一帯が蒸発するよな?この街がぶっ壊れるのはちょっと勘弁願いたいなぁ........」


 迫り来る灼熱の太陽をのんびりと見ながら俺は考える。


 魔王を倒した後、子供たちにここら一帯の調査をしてもらいたい。もしかしたら、魔王の復活場所が分かるヒントが隠されているかもしれないのだ。


 そう考えると、ここら一帯を更地にしてしまうのは良くない。


 この太陽を目眩しにして魔王に接近したかったが仕方ないな。今後の事も考えてこの太陽を受け止めるとしよう。


 俺は騎士達を消すと、太陽に向かって手を広げる。


 「破滅を呼ぶ流星すら受け止める至高の盾だ。破れるものなら破ってみな!!重厚なる盾よファランクス


 黒き重厚なる盾が落ちてくる太陽を受け止める。


 普段はキャプテンア〇リカの持つ盾の様な大きさで使っているが、流石にその大きさでは太陽を受け止めることは出来ない。


 今回は太陽と同じ大きさの盾を作り出した。


 膨大な魔力の塊である太陽はその盾を燃やしつくそうとするが、その程度で不変の盾が灰になる訳が無い。


 太陽と重厚なる盾がぶつかりあった衝撃が、辺り一面に吹き荒れる。ぶつかった衝撃は、脆くなっていた建物を砂に変え、瓦礫はあちこちに飛んでいく。


 これ、止めてもあっちこっちに被害が出てるな。このレベルの攻撃がこの後もバンバン飛んでくると考えると、早めに決着をつけた方がいい。


 でないと、攻撃を止めているのにここら一帯が更地になってしまう。


 盾によって受け止められた太陽は、次第にその輝きを失っていき、遂にはその寿命を終える。


 俺を燃やそうとした太陽だったが、燃え尽きてしまったようだ。


 「やるな人間。では次だ」


 魔王は両手を上あげて再び太陽を作り出す。だが、先程と違ってその大きさはとても小さかった。


 「“炎よ。小さき灼熱の太陽達になれ”」


 1つ、小さな太陽が出現したと思ったら、もう1つさらにもう1つとその数が増えていく。それに、小さいと言っても直径は1m近くある。


 その数は次第に増えていき、100、200と増えたその太陽は数え切れないほどの数にまで増える。


 これを流星群のように撃たれたところで、どうということは無い。


 よっぽど変わった能力を持っていれば別だが、今確認できる能力にそんなものは無いはずだ。


 だが、少し嫌な予感がする。ここは撃たれる前に潰してしまおう。


 俺は、重厚なる盾を仕舞うと空を飛ぶ。


 「おい魔王。歯ァ食いしばれよ」

 「しまっ────────ゴッ!!」


 今までよりもさらに速く動く俺に、魔王は反応できなかった。


 技を撃つために魔力の操作に集中していたと言うのもあるが、明らかに反応が遅れていた。


 両手を上にあげている為、ガードも間に合わない。俺は回し蹴りで魔王の無防備な右脇腹を蹴り抜く。


 体内にある骨の何本かがへし折れる感覚を足に感じながら、体をくの字に曲げて吹き飛ぶ魔王に追撃を加える。


 空に浮かんだ無数の太陽は既に消滅しており、流星群の如く大地に落ちる事はない。


 心配事は消えたな。容赦なく追撃をさせてもらおう。


 吹き飛ぶ魔王に追いつくと、最大限まで魔縮した拳を思いっきり魔王に叩きつける。


 ドゴォ!!


 到底、人が物を殴って出せる音ではない音が辺りに響き渡る。


 魔王は何とか反応して両腕でガードをしたが、その程度では俺の拳を防ぎ着ることはできない。


 ガードした両腕を強引にへし折り、そのまま魔王の顔面に拳をめり込ませる。


 更に、魔縮を弾けさせて威力を上げた。


 魔王は地面に向かって落ちていき、猟銃に撃たれた鳥の様に落ちていく。


 砂埃を舞い散らせて砂漠の海へと落ちて行った魔王は受身を取る事も出来ず、叩きつけられた衝撃をモロに食らった。


 これが悪魔相手なら死んでいてもおかしくないが、相手は魔王。


 その頑丈さも相当なもので、両腕はへし折れ、顔は半分潰れているがちゃんと生きている。


 俺はここで仕留め切ろうと魔王に接近するが、魔王だってやられっぱなしという訳にはいかない。


 「“吹き荒れろ。そして隠せ”」


 魔王の言葉と共に、風が吹き荒れて砂漠の砂が視界を遮る。この程度なら魔力による探知で魔王の場所が分かるだろう。


 だが、砂が視界を遮ると同時に魔王の気配も消えてしまった。


 「チッ、面倒だな」


 大きく探知を広げてもいいのだが、それだとどこかしらに穴が出来てしまう。


 俺は、仕方がなく自身の周り5mに強めの探知を敷いておく。


 この距離ならば何があっても対応出来るはずだ。それに、その強さの探知ならば子供たちですら欺けない。


 魔王からの不意打ちは防げるだろう。

 

 だとしても、魔王との距離が離れて回復の機会を与えないは痛手だな。


 「はぁ、五分以内はちょっと無理だな」


 俺は小さくため息をするのだった。*

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