仁VS悪魔⑥
「コレで四体だな」
俺は、両手に持った悪魔の頭を無造作に投げ捨てる。
悪魔といえども、頭と身体が泣き別れれば生きては行けない。コロコロと転がった悪魔の頭と、頭を失ったその身体は塵へと変わっていった。
堕天使の悪魔とルムルムの悪魔が死んだことにより、鋭く空を飛んでいた黒い羽根はただの羽となってヒラヒラと落ちていく。相当な数の羽が舞い散るその光景は、悪魔が作り出したとは思えないほど綺麗だった。
そして、なんかよく分かんないでっかい巨人は徐々に小さくなっていき、最終的には消えてしまう。禍々しい雰囲気を放っていた巨人だが、召喚主が死ぬとその身体を維持する事は出来なかったようだ。
「後はセーレって悪魔と魔王だけか。グリフォンも既に仕留めたし、さっさと終わらせよう」
5分以内に仕留めるつもりで始めた魔王討伐戦だが、既に3分近く時間を使っている。
相手の能力が分からない以上、、無鉄砲に突っ込みすぎると痛い目を見るのは明らかなので慎重に動いたのがタイムロスになっている。
だが、大体の能力が分かった今は多少強引な手を取ることができる。そのためにも、未だに砂埃の中に俺がいると思っているセーレの悪魔を倒して魔王だけに集中できるようにしよう。
攻撃は大したことが無いのだが、ちまちまと遠距離で瓦礫を飛ばしてくるが邪魔すぎる。
魔王との戦闘時に、ぺちぺち攻撃されるのは勘弁して欲しい。
幸い、魔王が動く気配は無い。向こうは、悪魔を切り捨てて俺の手札をできる限り見たいのだろう。
腕を組んだまま、俺から視線を外さない。堕天使の悪魔とルムルムの悪魔が殺られるその瞬間も、魔王は俺に気づいていたのに動かなかった。
まぁ、邪魔されても対応できるようにはしていたが。
俺は、自身の異能を操ってセーレの悪魔を仕留めに行く。
最初に狙ったのはこの悪魔だったが、彼が最後まで残る形になったな。
俺が禍々しい巨人に叩き落とされたはずの場所から、黒い影が勢いよく走っていく。
「
俺はその走っていく黒い影に合わせて、異能を発動。
黒く染まった騎士達が現れると、その黒い影と同じようにセーレの悪魔に向かって走っていく。
その数は全部で8体。その全てが剣と丸い盾を持ち、体長は2mを超える大型だ。
一体を念の為に俺の護衛に付けた上で、悪魔を狩りに行かせる。
手札はなるべく見せたくないが、この程度なら問題ないだろう。いつもよく使う手札だし、分かったところで対策の立てようもない。
「なんだコイツは!!」
急に砂埃の中から突っ切ってきた黒騎士に、セーレの悪魔は驚きつつも瓦礫を飛ばして迎撃する。
だが、砂の塊ごときで黒騎士の行進を止めることは出来ない。元は流星すらも受け止める漆黒の盾だ。真正面から瓦礫を受け止めようとも、傷一つ着くことは無い。
「クソっ!!」
セーレの悪魔は瓦礫で黒騎士を止められないことを悟ると、素早く距離をとる。そして、仲間の助けを求めようとして、ここで気づいた。
悪魔の反応が自分しか無いことに。
距離を取りつつ辺りをを見渡すが、既に冥府へと旅立ったもの達が見つかるはずもない。
「バカな............」
セーレの悪魔は信じられないと自分の目を疑ったように見えたが、現実は変わらない。そして、そのタイミングでグシャリとセーレの悪魔の後ろに何かが落ちてくる。
血の匂いを漂わせ落ちてきたのはグリフォン。両翼をもがれ、喉元を黒き剣で突き刺されたグリフォンが息絶えて落ちてきたのだ。
「グリフォン.....!!」
セーレの悪魔の顔は、面白いほどに引きつっていた。
少し狙ったとはいえ、ここまでタイミングよく落ちてくるとは思わなかったな。ちょこっと恐怖が煽れればそれでよかったのだが、想像以上にセーレの悪魔には効果があったようで、その足を止めてしまった。
恐怖による硬直。一瞬の隙が決定打となる戦場において、この数瞬は命取りだった。
黒騎士達は素早くセーレの悪魔を囲むと、牽制としてその1人が剣を投げる。
そして、それに合わせて6体の黒騎士は逃げ場を無くすように様々な角度から近づいて剣を振るう。
タイミングはバッチリ、避けようのない一撃。
だが、セーレの悪魔は諦めなかった。最後の最後で、自身の切り札を切ったのだ。
「
剣がセーレの悪魔を捉えるその瞬間、セーレの悪魔の姿が掻き消える。
気づいた時には、セーレの悪魔は俺の目の前、2m程の距離まで迫っていた。
恐らく、ガレキを飛ばしていた能力で自分を飛ばしたのだろう。
今まで使わなかったのは、身体に掛かる負荷が大きい為か?
いや、単純に近接戦闘が弱いだけか。恐らく、直線にしか移動できないこの能力だ。自身を動かした場合は正面から戦うことになる。
切り札としては、ちょっと弱いな。
「死ねぇぇぇぇ!!」
感情むき出しの決死の一撃。その振りかざした右拳に宿った魔力の量から見て、今持てるほぼ全ての魔力を使っている。
彼が小説の主人公であれば、ここで眠れる力が覚醒して俺を殺すこともできたかもしれない。
だが、現実は非情。
望んだ結果がその時都合よく手に入るなど、それこそ女神に微笑んでもらうしかない。
悪魔の振りかぶった右拳は、俺の後ろに控えていた黒騎士の盾に防がれる。
「──────」
これで終わりだと言わんばかりに、黒騎士は剣を振り上げ悪魔を切り伏せようとする。
しかし、セーレの悪魔にとってこの展開は予想通りだったらしい。彼の闘志はまだ消えていなかった。
「
悪魔は能力を発動し、黒騎士を吹き飛ばす。
動かす対象に触れていれば、能力は発動する。セーレの悪魔は、最初からこれを狙っていたのか。
守る騎士が居なくなった俺に向かって、左拳を振り上げる。
正真正銘、この攻撃で決めきるつもりなのだろう。先程攻撃してきた右拳を覆っていた魔力よりも、数段魔力が濃い。
先程かなりの魔力を消費したはずだが、一体どこからこの魔力を絞り出したのだろうか。
俺は疑問に思いつつも、その攻撃を受け止める。
辺り一体に響く激突音。この音を聞けば、どれほどの威力で殴りに来ていたのかがよくわかる。
だが、その攻撃は俺には届かない。
「............無念だ」
そう。9人目の黒騎士によってその攻撃は遮られたのだ。
自身の最後の攻撃を止められたことを悟ったセーレの悪魔は、膝から崩れ落ちる。既に彼の身体は限界を迎えていたようだ。
「いい一撃だったぞ。当たれば怪我の1つはしてただろうな」
「..........嫌味かな?」
「いや、賞賛だ」
実際、9体目の黒騎士は出すつもりは無かったし、1度目の攻撃で既に魔力を使い切ったと思っていた。
どんな方法を使ったのかは知らないが、その魔力を上手く隠し通して黒騎士を突破しつつ二擊目を仕掛けてくるとは驚きだ。
一応は備えていたものの、俺の想定を超えてきた時点で賞賛に値する。
「いい戦いだった」
「だから嫌みかい?」
「違うと言ってるだろう?強かったぞセーレの悪魔」
俺はそういうと、黒騎士から剣を受け取って横に振るう。
切り裂かれた首が宙を舞いながら、塵となって消えていく。
彼も仲間の待つ冥府へと旅立っただろう。
俺はゆっくりと振り返ると、腕を組んで佇む魔王に剣を向けてこう言った。
「さぁ、やろうか」
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