仁VS悪魔⑤
仁に投げ飛ばされ、魔王によって地面に叩きつけれた悪魔はふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。
本来ならばもう少しダメージを受けて立ち上がるのすら困難になるほどの速さで地面に叩きつけられたのだが、砂漠という砂のクッションによってその威力が押し殺されたのが幸いし、軽い脳震盪で済んだ。
「大丈夫か?」
「ルシフェル様.......問題ありません」
敬愛する魔王からの心配の声に、堕天使の悪魔もとい狂信者の悪魔はその寛大さに震える。
普通ならば“受け止めろよ”と言うべきなのだが、彼が魔王を攻めることなど無い。魔王が何をしようが、それが正義。たとえ自分が盾にされて殺されたとしても、其れは喜びなのである。
「大丈夫か?!」
グリフォンを従えた悪魔ルムルムが、急いで狂信者の悪魔の元へと駆け寄る。
普段仲があまり良くないからと言って、それを戦闘時に持ち出すほど精神が幼い訳では無い。魔王への信仰心の違いがあるだけであって、彼らは同僚なのだ。
狂信者の悪魔は片手をあげて“問題ない”とジェスチャーをすると、ルムルムはホッとした表情を一瞬した後、険しい顔へと変わる。
「我の攻撃が当たらなかった。すまない」
「気にするな。相手が悪すぎる」
死霊術・亡者の嘆き。いとも容易く躱されてしまったが、当たれば相当強力な術だ。
その分敵に当たるまでに時間がかかる上に、相手が地面に足をつけていなければ亡者達は姿を表せない。
1度警戒させた上で、それを囮とした攻撃を見せたのだが、相手の方が1枚上手だった。
「バディンが居ればな........」
ルムルムは、既にその姿が消えた悪魔の名前を上げる。近接戦闘においては悪魔たちの中でも上位に入る。その悪魔が最初に落ちたのはかなりの痛手だった。
狂信者の悪魔は、既に砂埃が晴れた場所を見てルムルムに質問を投げかける。
「やはりバディンは死んだと考えるべきか?」
「そうだろうな。気配が感じられず、砂ぼこりが晴れた時点でバディンはいなかった。死んだと考えるのが妥当だ」
狂信者の悪魔はその拳を力強く握る。自分と同じく、魔王ルシフェルを心酔していた仲間だ。2500年以上もの付き合いがある者が、呆気なくこの世界から冥府へと旅立つのは悲しかった。
そして、冥府へ送った者には憎悪が湧く。
「生かして返さん」
混じりっけのない殺気と共に、狂信者の悪魔は小さく呟く。魔王を打ち砕かんとする悪を確実に葬るのだ。
その様子を隣で見たルムルムも頷く。
「今頃奴は特等席で我らを見守っているさ。行こう。グリフォンとセーレが牽制してくれている。何とかして奴を地の底に引き摺り込むんだ」
「あぁ」
仮面を被った人間に視線を戻すと、グリフォンの攻撃とセーレの攻撃を捌きながら魔王をじっと見ている。
その人間は、悪魔など眼中にも無いと言った雰囲気で飛んでくる瓦礫やグリフォンの放つ風の弾丸などには目もくれていなかった。
その様子を見て、狂信者の悪魔はさらに苛立つ。
「どうやら我らは道端を歩く小動物以下らしい。舐めやがって」
狂信者の悪魔はその翼を大きく広げると、魔力を込める。
「穿て、
魔力を込められた翼は、その羽を人間へと打ち出していく。
マシンガンのように打ち出されたその黒羽は、鉄のように固くなり、風を切って襲いかかる。
しかし、ただ固くした羽が重厚なる盾を破れる訳が無い。
その盾は、街の1つを容易く滅ぼせる程の威力を持った流星ですら破れないのだ。
その羽は盾へと激突すると同時に、勢いを失ってヒラヒラと落ちていく。
そして、その落ちていく羽は次第に多くなっていき、遂には桜が風に吹かれて美しく散っていくように花吹雪ならぬ羽吹雪が起こっていた。
「やはりコレではあの盾は砕けんか。だが、数は揃った」
狂信者の悪魔は両手を上げ、人差し指を立てると指揮者のように腕を振るう。
すると、散っていった羽達がその腕に合わせて動き始め、その鋭さを取り戻していく。
「セーレ!!合わせろ!!」
「了解!!」
鋭さを取り戻した羽は多方面から仁を狙い、その盾の合間を縫って本体を直接攻撃しようと迫る。
更に、盾に瓦礫を当てることで砂埃を起こさせ視界を封じることで、少しでも羽への反応を遅らせようとした。
先程の拙い連携とは違い、目的をしっかり持った連携。この攻撃が本命だと思わせる事ができるはずだと考えた狂信者の悪魔は、ルムルムに指示を出す。
「ルムルム。地面に足を付けさせずとも、使える術はあるのだろう?」
「あぁ、とっておきがあるぞ」
ルムルムはそう答えると、魔力を右手に集める。
先程、仁を狙った時よりも多くの魔力を右手に宿している。
そして、詠唱を始めた。
「万象は死。そこにしがみつくは生。ならば死してもなお生きる強さを求めん。形作れ、死の生を。死霊術・万象生死」
右手を地面へと叩きつけると、ルムルムを中心に巨大な魔法陣が展開される。複雑な模様をした魔法陣は、半径5m程の大きさまで広がると高速で回転し始める。
それと同時にこの街にいる怨念達が集まり始めた。
死者の魂が怨念が集まり、形作る。徐々に怨念は大きくなっていき、巨人がその姿を表す。
「顕現せよ。
体長10m程もあるその巨人は、辺りに不穏な瘴気のようなものを漂わせながらゆっくりと歩き始めた。
「紛争があった為か、怨念が多い。この大きさを作れたのは1200年ぶりだな」
ルムルムは、少し懐かしむような目でその巨人を見つめる。
1歩を踏み出す事に、大地が揺れる。怨念だけで作られた存在だと言うのに、質量が存在するのだ。
「叩き落とせ」
「グヲォォォォォ!!」
ルムルムの指示と同時に、巨人は吠えてその腕を振るう。
先程までのそのそと歩いていたとは思えないほどの俊敏さで振るわれたその腕は、的確に砂埃の中にいる仁に当たり、地面へと叩き落とした。
地面へと叩き落とした衝撃により、砂埃が舞う。
「よし!!」
「よくやったぞ!!」
ルムルムと狂信者の悪魔は、思わずガッツポーズをする。
一撃も与えられなかった相手に、一撃を当てたのだ。それも、かなり重たい一撃だ。
タダでは済まない。
幾ら相手が人間離れした実力があろうとも、その元は人間の体である。かつて仁が崖から川に落ちて気絶したように、人間の体というのは脆いのだ。
どれだけ身体を強化しようとも、その元が人間である以上弱い部分は多い。
少なくとも、無傷だと言うことは無いはずだ。
「確認するか?反応はあるぞ」
「そうだな。砂埃をはら────」
ここで、2人の悪魔の意識は途絶えた。
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