仁VS悪魔④
俺は砂埃を払いながら、俺を吹き飛ばした魔王を見る。
いいなぁ。“吹き飛べ”の一言で相手を吹き飛ばせるような能力を持っているとか、カッコよすぎかよ。
しかし、参った。魔王が動けるようになる前にできれば倒したかった。悪魔程度はどうとでもなるが、魔王相手となると幾つかの手札は切らされることになるだろう。
覗き見が好きな連中に俺の手札を見せるのは、正直嫌だった。
「チッ。面倒だな」
速く魔王を倒すには手札を切らないとならないが、手札を切れば監視の目に情報が行ってしまう。
だからといって、手札を温存し過ぎると魔王を倒すのに時間がかかる。
仕事が入ってなければそれでも良かったのだが、あいにく今日は仕事があるのだ。
ドッペルに影武者をやって貰ってはいるものの、バレてしまう可能性は十分にある。
顔を食べていないドッペルは、俺の記憶や仕草を引き継いでいない。完全に俺になりきる事は不可能なのだ。
勘が良い奴がいた場合、影武者が気付かれる可能性がある。
可能性があると言うことは、それはいづれ起こるという事だ。
「ふぅ.........」
俺は邪魔してくるうざったい監視にイラつきを覚え、それを落ち着かせるためにゆっくりと深呼吸をする。
幸い、仮面のお陰でこちらの表情は分かっていないのだ。なんなら変顔だってできる。やらんけど。
さて、そんなくだらないことを考えながらも、俺はこちらに殺気を向けてくる悪魔達を見ていたのだが、魔王に合わせて追撃してくる様子はない。
気づいたのか?吹き飛ばされる直前に追撃に備えて色々と仕込んだのが。ってか今もしている。
もし気づいているのなら相当な手練だ。
俺は仮面越しに悪魔達の表情をよく見る。表情は戦闘に置いて1つの判断材料となることがある。本能が出やすい殺し合いだと、ポーカーフェイスと言うのは中々しずらいのだ。
悪魔達は確かに警戒している。だが、その視線が俺に集中しているのを見ると、仕掛けには気づいていない可能性の方が高かった。
「もしかしたら、気づいた上で気づいていないふりをしているかもな」
相手の実力がハッキリと分からない以上、最悪を想定して戦った方がいい。保有する魔力やその気配からして俺よりは弱いはずだが、油断大敵だ。
ドッペルや吸血鬼夫婦と訓練していて散々言われた事だが、例え何度も勝っている相手だとしても気を抜いてはならない。
それが初めて戦う相手なら尚更だ。
「
俺が悪魔達の表情を探っていると、遂に悪魔達が動き出す。
まず動いたのは、最初には探知を行っていた悪魔だ。
能力の発動と同時に先程とは比べ物にならないほどの魔力が膨れ上がり、背中から二枚の黒翼が生える。
その見た目は、翼を穿たれる前の魔王そっくりだ。
自分の身体の2倍近くあるであろうその立派な漆黒の翼をゆっくりとはためかせ、悪魔は空へと上がっていく。
まるで天使だ。
翼の色こそ違うが、その姿は御伽噺に出てくるような天使の神々しさがあり、とてもでは無いが悪魔がしていい姿では無い。
黒百合さんのような美しさは無い。だが、100人がその姿を見れば98人は天使と勘違いしてしまいそうだ。
あ、でも翼の色が黒いから堕天使か。
「ルムルム。合わせろ」
「分かってる。セーレ」
「大丈夫」
堕天使の悪魔と、ルムルムと呼ばれたグリフォンを従えた悪魔、更にセーレの悪魔は俺へと標準を合わせると攻撃を仕掛けてきた。
「死霊術・亡者の嘆き」
ルムルムが能力を発動。即座に練り上げられた魔力が砂の中に浸透していく。
地面が水を吸うように染み込んで行った魔力は、ある地点で止まると、何かを従えて逆流してきた。
しかも、俺の足元を狙って。
「よっと」
俺はその場から立ち退く。下手に受けてダメージを貰う訳にも行かないからな。
しかし、悪魔にとってこの攻撃は俺を動かす手段としてしか考えてなかったようで、すぐさま追撃の攻撃が襲ってくる。
「
大きめの瓦礫が、多くある場所に移動しているセーレの悪魔。今は残弾が沢山ある。
魔王を強制移動させた時や、最初に俺を攻撃してきた時よりも多くの瓦礫が飛んできた。
俺が取れる手段としては3つ。異能によるガードか、普通に魔力を覆った肉体でガードか、避けるかだ。
どの手段をとってもいいのだが、今は監視の目がある。1度使った手札で戦うとしよう。
「
俺は黒い盾を幾つも作ると、襲いかかってくる瓦礫を防御する。
威力は先程と一切変わらずか。恐らく、この速度でしか物体を移動させれないのだろう。
物に当たる寸前までは俺の目でも追えないほどの速さで飛んでくるが、俺を中心に半径2m以内辺りに入ると急激に遅くなってる。
攻撃対象から2m以内に入ると減速すると言うのがこの能力の制約か?制約としては重い部類に入るから、他の能力に注意しておいた方がいいな。
盾に砕かれた瓦礫は、砂埃となって辺りを覆う。戦闘場所が砂漠のため頻繁に砂埃が舞散り、視界が遮られる。
これ、悪魔側に探知を誤魔化せる能力を持った奴がいると面倒だな。
俺は自身の右腕に魔力を覆わせて、大きく手を振るう。
巻き起こった風が一瞬で砂埃を振り払い、塞がれていた太陽が顔を出す。
それと同時に、堕天使の悪魔が近接戦闘を仕掛けてくる。
お前は能力を使わないのかい。
いや、さっき使っていたか。確か、ナイトニールとか言う能力だ。
その能力が発動した後に翼が生えたのを見ると、黒百合さんと同じような能力か?名前から推察しようにも、そこまで異能について詳しくないので下手に予測を立てるのは辞めておいた方がいいな。
フェイントなど一切仕掛ける様子なく、堕天使の悪魔は一直線に俺に向かってくる。
遠距離攻撃による牽制も無し。俺を動かす為に他の悪魔と連携を取ったとしては稚拙すぎる。
となると.......
「下か」
地面に意識を向けると、先程俺を襲おうとしていた魔力と何かが迫ってきている。
本命はこっちだな?随分と上手く魔力を隠している。
俺を動かし、視界が覆い、突貫を仕掛けるように見せかけて本命の攻撃。
連携が拙すぎる故に怪しまれてしまったが、もう少し上手く誤魔化せていれば本命の攻撃が俺を捕えれていたかもしれない。
さっきの攻撃と違い、魔力を極限まで抑えているために気づくのに遅れたな。とはいえ、対応出来る範囲だ。
俺は、迫ってくる堕天使の悪魔に向かって走り出す。もちろん、異能を使って足場を生み出し空を翔る。
「空を........!!」
「翼がなけりゃ空を飛べないってか?人間を舐めすぎだ」
少し考えれば分かるだろうに。俺が奇襲を仕掛けたのがどこからなのかを考えれば、一目瞭然だ。
俺は悪魔の頭の足りなさに呆れながら、拳の届く範囲に堕天使の悪魔を捉える。
「くっ..........」
堕天使の悪魔は、苦し紛れの攻撃を繰り出す。はなから攻撃する気のなかったのだろう。その攻撃は腰も入っていない右ストレートだ。
俺は首を傾けて攻撃を避け、悪魔の顔面を鷲掴みにすると、そのまま思いっきり魔王に投げつける。
「“落ちろ”」
悪魔が豪速球で迫ってくるのに対し、魔王は冷静に対応する。
堕天使の悪魔は、魔球のフォークのように急激に落ちて地面に激突する。
その様子を見て、ポツリと呟く。
「“止まれ”じゃないのか」
俺はニヤリと口を歪めた。
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