仁VS悪魔③
昨日上げた話のタイトルが間違ってました。正しくは『仁VS悪魔②』です。ストーリーには影響無いので、ご安心を。.......やっちまった。
仁がたった3秒で悪魔の1人を仕留め、覗き見をする輩達を探していた頃。狂信者の悪魔とグリフォンを従えた悪魔は、片翼を失った魔王の元にいた。
「魔王ルシフェル様!!お怪我を......!!」
「喚くな。耳障りだ」
「も、申し訳ありません!!」
狂信者の悪魔は慌てて頭を下げると、砂埃の中にいる人間を睨みつける。
人が殺せそうな程の殺気を放ちつつ、今は魔王のそばを離れる訳にはいかないと理性を保つ。
もう少しすれば魔王は動けるようになるのだ。時間稼ぎをしているセーレとバディンの為にも、自分が下手に行動して迷惑をかける訳にはいかない。
そして、砂埃の中にいる人間に注意を向けたことで気づいた。
悪魔の反応が一つ少ない事に。
「........バディンの反応がない?」
悪魔の中でも屈指の素早さを誇るバディンの反応がどこにもないのだ。
まだ奇襲を受けてから30秒近くしか経っていない。
たった30秒の間に仲間が1人殺られたのかと、狂信者の悪魔は自分の感覚を疑う。
実は人間が自身の探知を紛らわす何らかの方法を持っていて、それの効果によりバディンの反応が察知できない。そう考えた方が自然だった。
自分達は悪魔。世界最強とまでは思っていないが、強者の部類には入ると思っている。
その強者たる悪魔の1人が、易々と殺させるわけが無い。そうに違いないと自分の焦りを無理やり沈める。
そんな様子を見てか、魔王の側で他にも奇襲が来ないかを警戒していたグリフォンを従えた悪魔が話しかける。
「どうした?顔が優れないようだが........」
「バディンの反応が察知できない。この短時間で殺られたとは考えにくいが、何らかの攻撃を受けているはずだ」
「魔王様にダメージを与えられる人間だ。下手をすればバディンも重症を負うぞ」
本当は既に死んだおり、砂漠の砂の1部となっているのだが、巻き上がった砂埃が視界を邪魔している為仲間の死を確認することが出来ない。
仲間を信じているからこそ、仲間の死は疑っていなかった。
「苦戦は必至か。奇襲とはいえ、魔王様に攻撃を当てた人間だ。そう簡単には行かぬという訳だ」
「.........今は魔王様の護衛につこう」
巻き起こる砂埃から目を離し、再び片翼を失った魔王へと視線を向ける。
瓦礫に吹き飛ばされ片翼を失った魔王は、既に立ち上がって失った翼を見て首を傾げていた。
「再生せぬ........どういう事だ?」
「どうされましたか?魔王ルシフェル様」
「あの人間に消された片翼が再生せぬのだ。再生能力は間違いなく働いておるのに、元に戻らぬ」
そう言って魔王ルシフェルは、少しだけ残った片翼の残骸を引っこ抜く。
背中から血が溢れ出し、それを見た悪魔達は慌てる。
「魔王ルシフェル様!!何をおなさるのですか?!」
「ちょ、魔王様!!」
急いで血を止めようと魔王に近づくが、魔王は片手を上げてそれを制した。
「ぬん!!」
魔王が力を入れると、背中がグズグズと動き始める。
血を撒き散らしながら、失われた片翼が再生.........しなかった。
否、再生はした。魔王が引き抜いたその片翼の破片のみが再生したのだ。
仁によって消された片翼の大部分は再生する事はなく、まるで最初から片翼など存在しなかったかのようだ。
「ふむ。傷を更新しても治らぬ。随分と面白い力を使う奴だ」
「ルシフェル様に癒えぬ傷を付けるとは........!!万死に価するぞ!!人間!!」
狂信者の悪魔は未だ晴れぬ砂埃の中に目を向ける。その目には、憎悪と殺意が入り交じった狂気の目だった。
「魔王様。我々はどう致しましょう?」
「我は問題ない。もう動ける」
「では、我々も参加するとしましょう。魔王様はどう致しますか?」
「我は人間の動きを見ておく。少しでも情報を引き出せ」
「はっ!!行くぞパイモン」
「殺す殺す殺す殺す!!」
グリフォンを従えた悪魔とパイモンと呼ばれた狂信者の悪魔は、砂埃の外にいるセーレと合流する為に動き始める。
反応が消えている悪魔、バディンの状況を聞くためだった。
が、それは許されない。
「?!マズい!!」
「ルシフェル様ァ!!」
突如として砂埃が晴れ、そこには誰も見当たらない。
急に晴れた砂埃の跡地に気を取られ、その砂埃を晴れさせた張本人以外の全員が反応に遅れたのだ。
簡単で単純な視線誘導。
マジシャンが1枚のコインを観客に見せ、視線を集中させるように、砂埃を晴れさせることによって起こるミスディレクション。
途中まで大きく存在感を放ってた人間の気配は消え、擬似的な透明人間となった仁が狙ったのは油断している魔王だった。
悪魔たちが狙いに気づいた時には、時すでに遅し。
悪魔達の援護は間に合わず、魔王を既に仕留められる射程圏内に捉えている。
突き出した右手が、悪魔達には魔王を穿つ聖剣に見えた。
「
魔王の周りに強大な魔力が渦巻く。
初撃で放った再生不可の攻撃。魔王と言えども、喰らえば絶命は必至だ。
何とか攻撃を止めようと動く悪魔達だが、その全てが遅い。
瓦礫を飛ばして魔王を強制移動させたセーレの能力は、その物に触れていなければ発動しない。
魔王の強制移動と仁への攻撃で、近場にあった瓦礫は無くなってしまっている。
一応、取れない手段がない訳では無いが、今の状況を覆す程強力なものでは無い。
唯一、仁の動きを止められる可能性があったバディンは既に死んでおり、悪魔達は魔王が消える瞬間を見る事しかできなかった。
そう。魔王本人を除いては。
「二度も同じ手は食わん。“吹き飛べ”」
仁への反応には遅れたものの、魔王は至って冷静だった。
既に、復活による体力の消費は回復している。片翼こそ失ったが、その程度で魔王ルシフェルをどうこうできるほど弱くない。
「?!」
魔王の発せられた言葉と共に、仁は盛大に吹き飛ぶ。
まるで10トントラックが衝突したかのように強烈な衝撃が仁を襲い、砂埃を巻き上げながら瓦礫の中に突っ込んで行った。
それと同時に魔王を覆っていた魔力は霧散し、仁の攻撃が止まる。
魔王は仁が突っ込んだ瓦礫の山を見ながら、感心したように頷く。
「ほう?今の一瞬で防御をしているな。我への攻撃に使うはずの魔力を防御に回している。随分と器用なことをする」
感心したように頷く魔王とは違い、悪魔達は急いで魔王の元へと移動していた。
「魔王様!!」
「何をボヤっと見ている?さっさと追撃しろ。奴は恐らく──────」
ドン!!
魔王の言葉を遮って、仁が突っ込んだ瓦礫の辺りから大きな音が響く。
悪魔達が視線を移すと、そこには砂の着いたコートをパンパンと払う人間が立っていた。
その姿に傷らしいものは無く、人と肩がぶつかった時のように何気ない顔で砂を落とす。
そして、それを見た魔王は言葉を続ける。
「──────無傷だ」
魔王は、その仮面の奥に潜む獣の顔を少し楽しそうに眺めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます