仁VS悪魔②
奇襲は失敗に終わった。セーレと呼ばれた悪魔が魔王を強引に吹き飛ばし、黒い翼を1枚持っていくことしか出来なかった。
更に追撃の一撃は、もの凄いスピードで蹴りを入れてきた悪魔に止められる。
まぁ、仕留めれたらラッキー程度だったので、別に落ち込んでいたりはしない。
未知だった悪魔の能力が一つ分かったと思えば、お釣りが来る。
「離れるか」
俺は囲まれる前に距離を取ろうとする動きを見せると、悪魔達はそうはさせまいと追撃を仕掛けてきた。
「
セーレの悪魔が俺の動きに合わせて脳力を発動。近くにあった瓦礫が、瞬間移動したかのように俺の目の前にまで押し寄せ、そのまま俺を吹き飛ばそうと突撃してくる。
うーん。この攻撃はどうちらかと言うと、目眩しの意味合いが強いな。
瓦礫の攻撃と同時に、音速の蹴りを放った悪魔が瓦礫の裏に回って視界を切ったのを探知している。
更に、瓦礫の裏から移動して今は俺の死角。左後ろから瓦礫の激突に合わせて攻撃しようと伺っているのが分かる。
「
様々な手段が取れる中、俺は1番無難な手段を取った。
異能による防御。
たった一つの流星で、街を破壊し尽くすリンドブルムの一撃すらも受け止める俺の異能が、瓦礫如き敗れるわけが無い。
異能に激突した瓦礫は砕け散り、一部は砂となってその視界を遮る。
「疾風嵐脚」
俺が瓦礫を防御したのとほぼ同時に、音速の蹴りを放った悪魔は俺の死角からその鋭い蹴りを放ってくる。
しかし、死角からの攻撃というのは、そもそも相手に悟られていないとこが前提だ。
探知によって場所が割れている悪魔の一撃など、恐るるに足らず。
俺は嵐のように押し寄せる蹴りに合わせて、拳を振り抜いた。
バキメキャ!!
太く鈍い音が響く。
「?!グガァァァァァァァ!!」
悪魔と言えども、足を砕かれるのは痛かったのだろう。
空気を揺らすほどの悲鳴を上げ、顔を歪める。
ほんの一瞬身を引いて、伸びきった足裏にパンチ。膝が曲がって衝撃が逃げないように、しっかりと真上から叩きつけるように殴り飛ばした。
基本的に、悪魔の体の構造はその元となっている生き物に類似している。
人型なら、骨や関節がしっかりと存在するのだ。
この事は図鑑に書いてあったのだが、これを書いた作者は一体どうやってこの事を調べたのだろうか。
戦闘中だというのに、呑気なことを考えながら俺は足を砕いた悪魔に追撃をする。
威力を加減して吹っ飛ばないようにしたのだ。距離は縮まっており、更には片足がない状態。
残り2人の悪魔は現在魔王の手当をしており、瓦礫を飛ばしてきた悪魔は俺達の動きが見えていない。
この瞬間、俺を邪魔する者は誰も居ないのだ。
足を砕かれた悪魔は、痛みに顔を歪めながらも何とか距離を取ろうと後ろへと飛び退く。
片足だけで動いている為、俺の足からは逃れられない。
そして、その甘い逃走を見逃す程今日の俺は暇では無い。
「捕まえた」
「グッ..........」
伸ばされた左腕が、悪魔の首を鷲掴みする。
人間よりも固く、ザラついた肌。人のような温もりは無い。形こそ人に近いものの、その肌や見た目は大きく違った。
首に指が埋もれていく。1度掴んだ首は決して離さない。
悪魔は苦しそうにもがきながらも、何とか反撃を試みる。
俺の腕を支えにして、残った左脚を強引に攻撃をしてくる。
万全の状態の時よりも数段劣る一撃だが、それでもこの状況でこれだけの速さの蹴りを放てるのは大したものだ。
俺は感心しながらも、しっかりとその左脚をガードする。
ついでに、相手の蹴りの衝撃が足に還るように軽く衝撃を加える。
ドアをノックするかのように優しく衝撃を加えるが、衝撃をを加えられた方は尋常ではない程の反動を貰っているはずだ。
厳鉄反掌拳。
ドッペルが持っている顔の一つ。その中にある防御に特化した武術である。
必要最小限の動きで相手の攻撃を捌き、更には相手の攻撃を何倍にもして還す事に重きを置いた武術。
大した力も要らず、それでいて人型の相手には滅法強いのが特徴だ。
「..........!!!!」
声にならない悲鳴を悪魔は上げる。首を絞められている為、声が発せないのだ。
「一体目」
俺は左手に魔力を集めて圧縮すると、そのまま悪魔の頭ごと魔力を弾けさせた。
魔縮は、無理やり圧縮した魔力を弾けさせる事で更なるエネルギーを得る技術だ。
要は、集めて弾くだけで簡単に武器となる。
密閉した容器を上から無理やり押し込み、そのまま手を離すと反動が来るだろう。
魔力と空気は別物な為、厳密には色々と違ってくるのだがイメージとしてはそんな感じだ。
パン!!
風船が割れたような音が響き、左手に掴んでいた悪魔の上半身が消し飛ぶ。
ひしゃげた両足だけがその場に残り、砂漠の砂に呑まれていった。
セーレの悪魔が瓦礫で攻撃してきてから僅か3秒。人の目では到底追い切れない戦闘がそこでは起きていた。
「バディン!!」
巻き上がった砂埃が、徐々に晴れていく。
セーレの悪魔は恐らく、仲間の反応が消えた事に気づいたのだろう。
先程よりも殺気が滲み出しており、砂埃で視界が遮られている中でも何処にいるのかがよくわかる。
それにしても、“セーレ”“バディン”か。
確か図鑑に乗っていた悪魔の名前にそんなものがあったな。
セーレは見るものを魅了するほどの美少年であり、1度見れば二度と忘れられないほどの美貌を持っている。
バディンは、人間のような姿をしているもののその皮膚は若干黒く。パッと見は人と間違えるかもしれないが、よくよく見れば人では無いことが分かると書いてあった。
なるほど、確かにその通りだ。
ただ、名前が分かり、図鑑に乗っていたとしても能力までは分からない。結局は、自分で確認するしか無かった。
俺は、晴れていく砂埃をもう一度巻き上げて視界を封じる。
探知が出来れば簡単に俺の位置が分かってしまうが、狙いはそこではない。
「覗き見が好きな奴が多いな。しかも、面倒なことに場所が分からん」
魔王との戦闘に入ってから直ぐに感じる視線の数々。
見られていること、俺を見ているのが複数人な事は分かるのだが、何人でどこから見ているのかが全く掴めない。
余程の手練だ。
恐らく、俺の探知範囲外から監視しているのだろう。
一旦、そのもの達からの視界を切ろうと言うわけだ。
それに、これで確認できることもある。
「........視線が消えない。と言う事は何らかの能力を使っているな?」
巻き上げた砂埃で視線を切っているにも関わらず、その視線が切れない。
つまり、砂埃の中を見る手段を持っている訳だ。
「敵か味方かも分からんやつにポンポン手札は見せれないな.........ある程度は制限して戦わないとならんのか。このクソ忙しい時に迷惑だ」
俺はそう呟くと、再び戦いに集中するのだった。
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