仁VS悪魔①
魔王の魔力を探知し、その方向に向かって全力で走ること15分程。
あれだけ探し回っても見つからなかった砂漠の街が見えてきた。
「あれが旧サルベニア王国か。昔は11大国と並べられる程の大国だったとは思えないな」
300年以上も経っているその家は、誰にも手入れされる事はなく砂の一部に呑まれ、文献では“砂漠とは思えない素晴らしい光景が広がっている”と書かれていたが、そんな素晴らしい光景はどこにもなかった。
見渡す限りその全てが茶色く染まっているその町は、いずれ人類が辿る終焉を映し出しているのかもしれない。
「っと、何かやってるな?微妙に魔力を感じるぞ」
廃れた街を見ながら飛んでいると、不自然な魔力の動きを感じ取った。
魔力の動き方からして、結界や障壁の類では無い。俺達が探知に使う時の魔力の動きが見られるので、誰かが周囲の警戒をしているのだろう。
「異能.......って訳じゃ無さそうだな。普通に魔力を広げているようだし。建物が物陰になって見えないが、恐らくあそこら辺に誰か居るな?」
掻い潜ろうと思えば出来ないことは無いが、ここまでしっかりと魔力を張られると面倒である。
魔力による探知を掻い潜るには、波のように押し寄せる魔力を避け続けなければ行けない。
コレが未熟な者なら、襲いかかる魔力の波が小さくそれでいて遅いのだが、ある程度技量がある者になると波は大きく速い。
そして、今回探知をもって使っている者の技量はそれなりにあり、散歩気分でその波の中を掻い潜るのは難しかった。
「んー.......とりあえずもう少し上に行って探知している奴らを見つけるか」
幸い、探知の範囲はそこまで広くない。
もちろん、普通の人間が放つ探知に比べればかなり広いが、俺の基準は厄災級魔物達だ。
アイツらを基準にすると、大抵の事は大した事じゃ無くなるんだよな。
そう思いながら、俺は相手の探知に引っかからないように注意して上へと上がっていく。
探知は半球状に広がっており、その辺に沿うように空を飛んでいくと、遂にその姿が目に入る。
「あれが魔王だな。何の魔王かは知らんけど」
暴食の魔王ベルゼブブや色欲の魔王アスモデウスと似た魔力を持っている。
あんな黒い翼を持ち、禍々しい気配を放ちながら、今まで見てきた魔王と似た魔力を持っている生き物などそうそういない。
もし、彼?が普通の一般人だったら........アレだ。紛らわしいのが悪いって事でいいや。
魔王から目を逸らせば、悪魔と思わしき者たちが辺りを警戒している。
確認できるのは四体。
探知を行っている悪魔の顔は見えない為、図鑑に乗っている悪魔かどうか分からないな。
まぁ、そもそも名前を聞かないと分からない訳だが。
「あれは、もしかしてグリフォンか?」
他の悪魔も観察していると、悪魔の他に魔物らしきものが見える。
あの鷲のような鋭い顔と獅子のように逞しい胴体、黒みがかったその美しい羽は昔会ったグリフォンとそっくりだ。
もちろん個体は違う為、感じられる気配は全くの別物だが、とても懐かしかった。
「あのグリフォンは何をしているんだろうな。結局、メンバーに誘ったけど断られたし」
服を作ったりする関係上、何度かグリフォンの巣に訪れた事がある。
抜けた羽を貰ったり、時には一緒になって遊んだりもした。イスとも仲が良く、俺達が訓練に行っている時にはアンスールと一緒になって遊び相手になってもらっていた事もあったほどだ。
優しく、気高い彼女は、イスに相当懐かれていた。
傭兵団を作る時に彼女を誘ったのだが、どうやら彼女にとってあの場所は特別らしく、この島を離れる気は無いと断られてしまったが。
今もあの島でのんびりと過ごしているのだろうか。暇が出来れば、また遊びに行ってもいいかもしれない。
方向感覚をバグらせる霧は俺の異能で消せるしな。
「っと、思い出に浸っている場合じゃない。確認できるのはこの6体か。魔王は動いていないし、ここは先手必勝。悪いが、遊び玉は無しの全力投球で行かせてもらうとしよう」
流石にこの距離から俺の異能を使うのは厳しい。できないことは無いが、座標指定に時間を取られて軽々と避けられてしまうだろう。
急にボカンと攻撃を当てられる程、俺の異能は便利ではない。
ぶっちゃけ、この黒い玉をコネコネして色々とやる方が使えるんだよなぁ......
俺は、軽くストレッチをした後、全身を脱力させて集中する。もちろん、仮面を被ることも忘れない。
目標タイムは5分以内だ。急げば、日が出ている間には帰って来れる。
「お前たちは影から顔を出すなよ。振り落とされても、守ってやることはできないからな」
「シャ」
“了解”と返答が帰ってきたのを確認して、俺は足元を支えていた異能を解除する。
それと同時に頭を地面に向け、思いっきり空を蹴る。
初撃はかなり重要だ。運が良ければ、一撃で仕留められる。
容赦はなし。久々に本気でやるとしよう。
俺は自然と口角が上がっている事に気づかず、悪魔の探知圏内に突っ込んで行った。
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異変があったのは、魔王が再び動き出す少し前だ。
周囲の警戒をしていた狂信者の悪魔が、何かを感じ取って空を見上げたその時だった。
「?!魔王様を守れ!!」
もの凄い速さで探知の中を突っ切る反応が1つ。
周りにいた悪魔達に指示を出したその瞬間には、既にその反応は魔王を射程に捉えている。
「
逃げ出したくなるほど濃い魔力。その魔力が魔王を覆い、今にも弾け飛びそうな程の重さを持っている。
どう考えてもタダでは済まない。そして、魔王は反応が遅れており、動ける状態ではない。
狂信者の悪魔は慌てて仲間の名前を叫ぶ。
「セーレ!!」
「申し訳ありません。魔王様!!
名前を呼ばれた悪魔はその場にあった瓦礫に触れると、その瓦礫は瞬間移動したかのように魔王の横まで移動する。
そして
「
黒く染まった球体が魔王を飲み込むギリギリで、魔王を吹き飛ばした。
強引すぎる移動方法だが、咄嗟に取った手段としては最適に近いだろう。
被害は、魔王の
「チッ、そう上手くは行かないか」
空から降ってきた男は小さく舌打ちをした後、魔王への追撃はせずにセーレと呼ばれた悪魔へと進行方向を変える。
男は魔王よりも悪魔の方を先に潰すようだった。
「っ...........!!はやっ」
狙われたと察したセーレは、急いで迎撃をしようとするが男の攻撃の方が速い。
その身に纏った魔力から見て、一撃でも攻撃を喰らえばまともに生きては居られないだろう。
例え防御しようとも、その防御ごと貫いて殺しに来る。
「まず、一体」
身を震わせるほどの殺気を放ちながら放たれたその拳は、セーレの顔へと吸い込まれていく。
しかし、その拳がセーレに当たることは無かった。
「させぬ」
その拳が顔をとらえるよりも早く、4人目の悪魔が横から男に攻撃を加える。
パン!!
音が1つに聞こえるほど速く繰り出された、三連撃の蹴り。
普通の人間ならば反応すら出来ずに、ミンチになるだろう。
だが、悪魔達が相手している人間は普通ではない。
「.........今のを止めるか」
セーレへの攻撃こそ止めたものの、悪魔の攻撃は見事に防がれていた。
「人間........だよな?人間よ。名をなんと言う?」
「ウイルド。傭兵団
「それは断らせて貰おう。貴様が死ね」
こうして戦いの戦端は切られたのだった。
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