沈黙の砂漠
魔王が復活する15分ほど前。俺は砂漠のど真ん中で迷子になっていた。
「なぁ、今ここら辺か?」
「シャー...........シャ?」
「シャ、シャシャ?」
日が照らす猛暑の砂漠の中で、俺は日傘を取り出して影を作った後、子供達と一緒に地図と睨めっこをする。
今回連れてきたのは約1500匹近い子供達。その内、最上級魔物へと変わった2匹の子供と話す。
しかし、子供達も別にこの世界の地形に詳しい訳では無い。ここが何処か、旧サルベニア王国が何処なのかは分からないのだ。
「今まで11大国に行った時は、街道とか目印が多かったから何とかなってたが、今回は街道どころか目印になりそうなものが何も無い。このせいでどこにあるのか全く分からんぞ.........」
既に、3回ほど砂漠を横断している。
この広大な砂漠を爆走して街を探してきたのだが、気づくと砂漠の地域は終わり、ほんの少しだが草がちらほら生えている場所が見えてきてしまう。
その度に現在地を確認し、方位磁針のような魔道具で大体の方角に検討を付けて飛ぶというのを繰り返したが、結果はご覧の通り。
やっぱGo○gleEarthは偉大だよ。大抵の場所はどこ分かるもん。
こんな曖昧すぎる地図では、正確な位置がわからず、目印もない現状ではどうしようもなかった。
「シャ、シャー」
「そうだな。適当に飛び続けるのがやっぱりいいのか?ってかそもそも、この砂漠が本当に旧サルベニア王国がある砂漠なのかも怪しくなってきたぞ.......」
ネガティブな考えとは、一度考え始めると止まらない。
あぁ、どうしよう。これで全く違う砂漠でしたって言うオチだったら情けなさ過ぎるぞ。
内心不安になりながらも、子供達と日傘を影に仕舞い再び空を飛ぶ。
最初こそ広大な砂漠の景色に感動したが、今となっては忌々しい砂の海だ。
「はぁ、砂漠って嫌いだわ」
同じ風景をずっと見続けるのはきついものがある。魔王討伐が終わったらしばらくの間、砂漠は見たくないと思いながら空を飛び続けた。
それから15分後。
ドッペルが作った魔道具の時計を見ると、残り10秒で長針と短針が真上で重なる。
探しきれなかった。俺は盛大に溜め息を着くと、意識を集中させる。
本当なら、復活したその瞬間に消し飛ばしたかったが、こうなった以上戦闘は避けられない。
話は変わるが、魔王復活の際には必ずそれなりに大きい魔力の反応がある。復活の時に、封印されていた結界を破るために魔力を発するのか理由は分からないが、少なくとも暴食の魔王ベルゼブブ、色欲の魔王アスモデウスの二体とも復活した際にはそれなりの魔力が辺りを覆っていた。
あれ程大きい魔力を放つと、流石に遠くからでも感知ができる。
探しきれなかったので、探知に集中して魔王の位置を掴むのだ。
長針と短針が重なり、太陽が天高く登るその時、ほんの微かに魔力の余波を感じ取る。
若干のタイムラグがあったのだろう。俺がその魔力を感じ取ったのは正午きっかりから13秒後だった。
「そこか。見つけたぞ」
俺は全力で身体強化を発動すると、先程までよりも更に早く空を飛ぶ。
距離的にはさほど離れていない。15分もあれば到着するはずだ。
「頼むから動くなよ......!!もしくは誰か居てくれ」
俺はそう呟きながら、空を走り続けるのだった。
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魔王が復活したその街は、驚く程に静かだった。
復活した際の膨大な魔力は既に霧散し、辺りを支配するのは静寂。復活した傲慢の魔王ルシフェルは、黒く染まった翼を丸めて静かに眠る。
復活による魔力消費とブランク。こればかりは、どうしようもなかった。
体力を回復させるルシフェルの周りで、悪魔達は警戒に努める。
1番探知に優れている狂信者の悪魔は特に、気合いを入れて警戒に当たっていた。
「..........」
「あら?随分と真剣なお顔ですね?」
「!!」
突如として静寂を突き破ったその者に、狂信者の悪魔は即座に反応して攻撃をしようと爪を突き立てる。
しかし、その爪がその者に届くことは無かった。
「........貴様は魔女か。魔王ルシフェル様の護衛に貴様も着くのか?」
狂信者の悪魔は、とてもでは無いが歓迎しているとは言えない顔で話しかける。
その顔には“突然現れんじゃねぇよ。ぶち殺すぞ”と書かれていた。
子供どころか、大人ですら泣いて裸足で逃げ出す程の顔を向けられた魔女は、何処吹く風と言った感じでその悪魔の話に応える。
「いえ。私は情報を伝えに来ただけなので。貴方方のように魔王の護衛だけをするほど暇では無いのでね」
「“様”を付けろ
思わず溢れ出た殺気が、魔女を襲う。
魔女はわざとらしく頬に手を当てると、少しだけ笑った。
「あらあら、それは怖いですね。精々気をつけるとしましょう。まだ死ねないですからね」
全く気を付ける気が無い返答。それどころか、狂信者の悪魔をバカにしたような話し方である。
完全に煽っていた。
「きさ─────」
先程止めた爪を再び振りかざそうと、悪魔は手を上げるが、その手はグリフォンを連れた悪魔にとめられる。
「やめておけ。ここで争っても意味は無い。この女の相手は我がするから、お前は魔王様に仇なす者が現れないか監視しておくのだ」
「その仇なす者が目の前にいるのだが?」
「忘れたのか?魔王様の命令だろうに。魔女とは仲良くやれと言われただろう」
「...........チッ」
狂信者の悪魔は舌打ちをした後、その場を離れて警戒に戻る。
会話が聞こえてきたら、また怒り狂うかもしれないからだ。
「次からは貴方に話しかけるとしましょう。その方が面倒がない」
「是非ともそうしてくれ。その次が来ないことを祈るがな」
「あら?随分と嫌われたものですね?」
「貴様を好きになれる悪魔など居るものか。顔を合わせれば、魔王様への侮辱ばかり。我々に喧嘩を売っているのか?」
「そのつもりは無いんですけどねぇ.......皆さんの忍耐力が足りないだけでは?だから、数を減らしたのでしょう?」
グリフォンを連れた悪魔は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、魔女を睨む。
堪え性がなかったのは事実だが、お前も少しは学べと言いたいのをグッとこらえる。これ以上の言い合いは不毛だ。
悪魔は静かに深呼吸をすると、頭に昇った血を下ろす。
「で?要件は?」
「ドワーフ連合国には動き無し。良かったですね。“破壊神”は来ませんよ」
魔女の情報に、悪魔はほっと胸を下ろす。
“破壊神”ダン。
その強さははっきり言って異常であり、出来れば戦いたくはない相手だった。
「ドワーフ連合国が動かないとなると、他の
「恐らくは。今の時期は、ドワーフ連合国内の戦力を外には出したくないですからね。魔王.........様をあまり脅威に見てないのでしょう。さて、私は仕事が残っているのでお暇します。
「情報は感謝する。だが、二度と顔を見せるな」
魔女は少し悲しそうに微笑んだ後、風に流されて姿を消した。
「次なんてありませんけどね。どうやら
消える寸前に呟いたその声は、悪魔達には届かない。
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