傲慢の魔王、復活
拠点を出発してから約2時間。俺は雲よりも高い場所を全力で飛んでいた。
自身の能力である
その速さは飛行機よりも速いだろう。
「........えーと、こっちか?」
俺は空を飛びながら、その手に持った地図を頼りに進んでいく。
何度も現在地を確認しているため、かなり時間がかかっていた。
「昔の人ってすげぇな。こんな不確かな地図を持って旅をしていたりするんだろ?不安しか無いぞ」
何度も立ち止まっては、方角が分かる魔道具と一緒に地上を見る。
方位磁針のような魔道具は、俺の問いかけに答えることなく北と南を指しつづけていた。
「こりゃ、時間がかかるなぁ........」
もしかしたら、魔王復活まで間に合わないかもしれないと思いながら、俺は空を飛び続けるのだった。
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仁が魔王討伐に向けて空を飛んでいる頃、イスはほっぺたを膨らませて怒っていた。
「むー!!なんでパパは私を起こさなかったの!!パパの意地悪!!バカ!!」
「あはは........」
普段は聞き分けが良く、我儘も殆ど言わないイスがここまで怒るのは珍しかった。
ドンドンとベッドを叩くイスを、花音は苦笑いしながら何とかその怒りを収めようとする。
「イスが気持ちよさそうに寝てたから、起こすのは忍びないと思ったんだよ。仁なりに気を使ってたんだよ?」
「私もパパを見送りたかったの!!寝てても起こして欲しかったの!!」
「そう言われてもねぇ........」
流石の花音も困り果てる。
コレが玩具を欲しがって駄々を捏ねているなら、少し強めに言えただろう。しかし、イスが怒っているのは大好きな父親を見送れなかった事なのだ。
あまりに可愛らしすぎる理由であり、それほどにまで仁に甘えているのがよく分かる。
花音はどうしたものかと悩みながら、ベッドの上で暴れるイスを後ろから優しく抱きしめた。
「ほら、落ち着いて。仁だってイスに嫌がらせする為に起こさなかった訳じゃないんだから」
「分かってる。分かってるの........でも、寂しいの」
しゅんと悲しそうな顔をするイス、花音は心の中で“乙女か?”と突っ込みながら、イスの頭を優しく撫でた。
仁に頭を撫でなれる事が好きなイスだが、花音に撫でられるのも好きなイスは静かにその手を堪能する。
花音はイスが落ち着き始めている事に内心ほっとしながら、イスの怒りをなだめようと優しく諭す。
「ほら、仁が起こさなかったのは、それだけイスの寝顔が可愛かったって事だよ。だからイスのおでこにキスをしていったんだから」
「へ?パパが私のおでこにキスしたの?アレは夢じゃない?」
「え?うん。イスのおでこにチュッてキスしてたよ」
若干食い気味になるイスに困惑しながらも、花音は頭を撫でる手を止めない。
冷たくひんやりとしていたイスの頭は、ほんの少しだけ暖かくなり、イスは嬉しそうに頬をゆるめる。
「えへへー。そっかぁ........パパが私にキスを.......」
まるで恋する乙女のように顔を赤らめながら、もじもじと嬉しがるイスを見て花音は優しく微笑む。
普段は元気に明るく振る舞うイスが、このような顔をするのはとても新鮮だった。
「仁が帰ってきてお仕事終わったら、いっぱい甘えよっか」
「うん!!そうする!!」
機嫌を直したイスを見て、花音は空を飛んでいるはずの仁に向けて呟いた。
「我が子すらたらし込むとは、仁も中々にやるねぇ........」
ちなみにこの後、タイミング悪く現れた仁に変装したドッペルにより、もう一度イスの機嫌が悪くなるのだが、それはまた別のお話。
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旧サルベニア王国。かつては栄えた砂漠の大国は、枯れたオアシスと共に砂漠の一部となっている。
水の補給が見込めず、昼は灼熱、夜は極寒であるこの砂漠を好き好んで進むものは誰一人としていない。
数少ない客人は、歴史を後世に伝える研究をする学者のみ。
しかし、その客人すらも今はいなかった。
「静かだな」
崩れかかった土の家の上で、悪魔は眩しそうに朝日を眺める。
風もなく、静かに迎えた朝はたとえ悪魔といえども気持ちのいいものであった。
「今日。ようやく魔王様が復活なさる。警戒体制はどうだ?」
「今のところは問題ない。300年前ならば人が溢れかえっていただろうが、今は砂と化した悲しき街だ。人間はともかく、僕はこの街並みが結構好きだったけどね........」
悪魔は300年前の光景を思い出す。
好かない人間が歩いていたが、その街はオアシスを中心として広がり、円状になって規則正しく家が立ち並んでいた。
オアシスからの水は植物を成長させ、砂の海に呑まれている中でもその輝きは朽ちることは無く、そのオアシスの中には魚が住み、1つの生態系が成り立っていた。
しかしその光景は、今となっては過去の遺物。
規則正しく立ち並んでいたはずの家は内乱で崩れ去り、今や瓦礫の山。
何とか形を保っていた家の数々も、300年以上人の手が加えられていないため、かつての輝きは失われている。
オアシスは干上がり、そこに生態系を作っていた魚達は絶滅。同じく、砂漠に鮮やかさを足していた植物も枯れ果てて砂漠の一部となってしまった。
「永遠に不変ということは無い。いずれ滅びが来るものだ。それが例え─────」
悪魔は一旦ここで言葉を区切り、空を見上げる。
何を思っているのかは、本人にしか分からない。
「例え、この世界だったとしてもな」
「.........そうだね。“いづれは全てが無に還る。だからこそ、今を生きる価値がある”昔の友人がそんなことを言ってたな」
「ふはは。その友人は中々的を得たことを言う。我々の価値は、我々が死んだ後に分かることになるだろうな。残念なのはその時の価値を見ることが出来ないことだ」
「それは残念だね」
しばらくの間、のんびりと崩れた街を眺めた2人の悪魔は太陽が天高く登るのを見て動き始める。
「さて、そろそろ時間だ。魔王様の復活が始まる」
「あの二人は?」
「ずっとあそこにいる。全く、狂信と言うのも恐ろしいものだな。我らも魔王様に忠誠を誓った身ではあるが、だとしてもあそこまでの狂信になれるものかね?」
「あはは........」
悪魔は苦笑いをしながら、持ち場へと戻る。
「遅かったでは無いか。貴様ら魔王様への忠誠が足らんのではないか?」
「それは悪かった。だが、時間通りだ。文句を言われる筋合いはない」
険悪な雰囲気だ。
一歩間違えれば、このまま殺し合いに発展するのではないかと思うほどに不気味な雰囲気が辺りを漂う。
「辞めんか。魔王様が復活するぞ」
そんな雰囲気を察してか、もう1人の悪魔が注意を逸らす。
狂信者とまで呼ばれる悪魔は、先程まで不気味な雰囲気をもって放っていたとは思えないほど目を輝かせながら膝をつく。
自分が仕える魔王よりも、頭が高いのは無礼だと判断したからだ。
そして、後ろである立っている悪魔達にも目で訴える。“お前らも跪け”と。
これ以上、面倒事を起こしたく無かった悪魔達も大人しく膝をつく。
そして、その時は訪れた。
大地が揺れ、砂が流れる。
空気は重くのしかかり、膨大な魔力が辺りを覆った。
そして、目覚めた魔王は声を発する。
「我は傲慢の魔王ルシフェル。我の威光にひれ伏すがいい」
誰も止める者が居ない中、魔王が復活した。
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