打ち合わせ
さて、俺達も傭兵達に混じっておばちゃんを祝いたいのは山々だが、今日は仕事でこのギルドに来ている。
どうせ日が暮れるまで馬鹿騒ぎするだろうから、また後で参加するとしよう。
数分程待っていると、ギルドマスターがやって来る。
いつもは少し疲れた顔をしているが、今日はめでたい日のためか顔が明るい。
おばちゃんとその娘が、どれだけ皆に親しらわれているかがよく分かる。
「時間通りだな。正直、ジンは遅れて来ると思ってたぞ」
「失礼な。時間を守るのは常識だぞ?ギルドマスターは俺を何だと思ってるんだ」
「常識知らずの世間知らず、だと思ってたな」
マジか。そんな風に思われてたのか。
確かに常識知らずな所もあるし、世間知らずな所もあるが、そこまで目立った事をした覚えはないんだけどな。
俺が少し落ち込んでいると、ギルドマスターが慌ててフォローを入れる。
「ほ、ほら。ジンは変わり者だろ?ちょいちょい常識は抜けてるし、知らない事も多いからな。普通は傭兵ギルドじゃなくて冒険者ギルドに行くはずだし、試験では俺を殴り飛ばすし。ギルドに入ったと思えば、すぐに傭兵達と馴染んで馬鹿やるからそう思ってもしょうがないだろ?」
全くフォローになってなかった。
フォローどころか、喧嘩売ってるよね?今ここでギルドマスターを殴り飛ばしても許されるよね?
隣で話を聞いていたバカラムも同じ事を思った様で、会話に入ってくる。
「全くフォローになってないですよ。そういうところは相変わらず不器用ですね?少しは成長して下さいよ」
「コレでも昔よりはマシって言われるんだけどな.......」
「昔よりはマシなだけであって、今も相当酷いですからね?ジルド、あなたがギルドマスターをやっているのが本当に不思議ですよ」
今でコレとか、昔はどれだけ酷かったんだよ。
よくこんな口の下手さで、ギルドマスターになれたものだな。コネがあったのか。それとも暴力で解決してきたのか。
少なくとも、彼は彼なりの苦労を乗り越えて今の立場にいるのだろう。
「今日はめでたい日だが、仕事は変わらん。二階に上がるぞ」
「話を強引に逸らしたな」
「そういう所も変わってない。成長の二文字が彼にはあるんですかねぇ?」
俺とバカラムのチクチクとした言葉の攻撃を受けながら、ギルドマスターは先に二階へと上がっていく。
そういえば、二階に上がるのは初めてだな。
「あ、そうだ。この二人も一緒でいいか?実力は俺が保証しよう」
「構いませんよ。元々、ジン君の傭兵団に対しての依頼なので」
そうだったのか。手紙には俺宛と書いてあったし、花音とイスの話は手紙に書かれてなかったから、てっきり俺だけに依頼が来たのかと思ったぞ。
もう少し分かりやすく書いて欲しいものだ。
「私達も参加していいんだね?良かった。仁だけだと不安だからねぇ」
「パパと一緒にお仕事なの!!」
花音とイスは嬉しそうにしながら、二階へと上がっていく。
「頼もしい団員ですね。全く緊張というものがない」
「俺としては、少しは緊張感を持って欲しいけどな.......」
ガチガチに緊張されるのは困るが、あまりに緊張感がないのもそれはそれで困る。
イスはともかく、花音は何をやらかすか分からないから更に怖い。
俺は小さく溜め息を着いた後、階段を登って二階へと向かう。
二階には幾つかの個室があるようで、その部屋の1つに通される。
机を囲むようにソファが四つ置いてあり、既にイスと花音はそのソファに座っている。
俺もイス達と同じソファに腰をかけ、バカラムはその対面に座った。
「茶は熱いのと冷たいのどちらがいい?」
「熱いので」
「私もー」
「私は冷たいのがいいの!!」
「僕も冷たいのでお願いします」
綺麗に半々に分かれたな。
ギルドマスターは俺たちの要望を聞くと、テキパキとお茶を注いでいく。
筋肉ムキムキなギルドマスターがちまちまとお茶を入れている姿は、少し面白かった。
「よいしょっと。冷たいのがこっちな。んで、熱いのはこっちだ」
「ありがと、ギルドマスター」
「ありがとー」
「ありがとうなの」
「頂きますね」
各々がお茶を取っていき、乾いた喉を軽く潤す。
熱いお茶が、ゆっくりと喉を通っていく感覚はとても心地よかった。
ちなみに味は、緑茶ではなく紅茶。子供でも美味しく飲めるようにしている為か、苦味が少なく少し甘めになっている。
イスは好き嫌いを殆どしない子なので、苦くても問題ない。
「さて、早速本題に入ろうか」
お茶を軽く飲んだ後、バカラムは足を組む。
そして、1枚の紙を取り出すと机の上に置いた。
「これは?」
「この街の簡単な地図と、僕達が警備に着く場所を示したものさ。君達は特に誰かの指揮下に入って戦って貰う必要は無い。基本は自由に動いてもらって、好き勝手に裏組織を倒して欲しい」
「........俺としては有難いが、いいのか?好き勝手に動いても」
「君達は僕が個人的に依頼した
「評判の問題か?」
「まぁ、そうとも言える」
「この街の傭兵はお行儀がいいほうなんだがなぁ.......」
やはり、傭兵と言うだけであまりいい目では見られないのだろう。
「人材に関しては、ジン君のおかげで今は評価されていますが、冒険者には劣るというのが今の認識ですね。ぶっちゃけ、私としては傭兵の方が物分りが良くて話しやすいですが」
「そうなのか?」
「もちろん、全員が全員話の分からない奴では無いですよ?でも、下に見られる事が多いですからね。冒険者が人々の生活を守ってるっておごる者達が多くて多くて。この街の冒険者ギルドのギルドマスターなんてその傾向が特に強い人ですから、僕達はほんとうにいい迷惑ですよ」
「その分市民にはいい顔したがるからな。アイツ。何か不正してようものならその権限を取り上げられるんだが、そんな噂は聞かない。ほとんど関わりのない一般人にとっては良い奴なのかもしれないが、俺たちからしたら目の上のたんこぶってわけだ」
んで、その評価を俺で何とか覆したいというわけだ。
もちろん、たった一つの依頼で評価が覆る訳では無いが、小さき偉大な1歩というわけだ。
「そういうわけで、この仕事に失敗は許されない。頑張ってくれ。できる限りの事はギルドでサポートしよう」
「失敗したら元老院の首が1つすげ替わるんだが.......まぁ、好きにやっていいって言うなら好きにやらせてもらうさ。ちなみに、倒すって言っていたけど、殺すのはいいのか?」
「出来れば無力化して欲しいが、無理なら殺してくれて構わない。特に、“闇手のレドナード”を相手にした場合は無力化なんて言ってられないからな」
「街に被害を出すのは?」
「なるべくやめて欲しいが、相手が相手だ。多少は目を瞑ってやるさ。だからといって派手にやるなよ?」
「りょーかい。時間は明日の夕刻だな?どこに集まる?」
「君達は昼にギルドに来てくれ。僕が迎えに行くから」
「分かった」
簡単な打ち合わせをした後、俺達は解散となるのだった。
そして、俺はコレからRTAをする事になる。そう。魔王討伐RTAだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます