魔王討伐RTAはーじまーるよー
傭兵団
所属する団員の半数以上が魔物であるこの傭兵団には、様々な状況に対応する為に作られたマニュアルがある。
その1つ。緊急時の対応については、細かく分けられており、団員全てにそれを覚える義務があった。
「おやすみ。ラナー、トリス」
「お休みなさいお姉様、トリス」
「おやすみー」
ダークエルフの三姉妹。シルフォードとラナーとトリスは、基本的に同じ部屋で眠る事が多い。
小さい頃から一緒に過ごしてきた彼女達は、同じベッドで寝るのが日常だった。
「団長さん達は今頃何してるのかな?」
「さぁ?でも、傭兵団として初仕事って言ってた」
「まぁ、私達ができることは無いですけどね.......団員全員で仕事に行こうものなら、戦争待ったナシですよ」
魔物として恐れられるダークエルフ。そんな自分達を雇ってくれている変わり者の団長。彼は自分を常識人だと思っているが、傍から見れば相当な変人だった。
そして、そんな変人の話題というものは中々尽きない。
「戦争ねぇ........団長さんの計画に、正教会国との戦争があったよね?」
「そんな事言ってた。確か、ほぼ全ての世界を巻き込んだ“世界大戦”を起こすって」
「“魔王討伐はその準備運動だ”でしたね。私からすれば、魔王討伐を準備運動呼ばわりできる団長様こそ魔王なのでは?と思わないでも無いですが」
「団員も厄災級魔物ばかりだし、見方によっては団長さんが魔王だね」
「一応、魔物と分類される私達がこの傭兵団に入っているのが少し恥ずかしいです。危険度で言えば、私たちは上級魔物ですからね。少しは強くなったとは言え、この傭兵団の中では下から数えた方が早いですし」
厄災級魔物が16体、強さだけで言えば厄災級魔物に引けを取らない最上級魔物が数体。上級魔物とは思えない強さをもつ魔物が数万体。
とてもでは無いが、彼らに勝てるビションが浮かばない。
魔物と分類される者達の中では、三姉妹は圧倒的に下だった。
「その分、仕事で頑張ればいい。戦闘は彼らに任せて、私達は私達にしかできないことをやる。適材適所」
「お姉様も、たまにはいい事を言いますね。その通りです。明日も頑張りましょう」
「zzzzzzzzz」
「.........いつも思いますが、トリスの寝付き方は凄いですね」
静かに寝息をたてるトリスの頭を撫でたラナーも、ゆっくりと闇の中に意識を落としていく。
その隣にいたシルフォードも、ラナーに続いて眠りにつくのだった。
ぺしぺしぺしぺし
ラナーが眠りから覚めたのは、頬を叩かれる感覚からだ。
まだ外はさほど明るくなく、日が昇り始めた頃である。
「んん........まだ暗い........すぅ........」
ぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺし
再び眠りに着こうとしたラナーの頬が、先程よりも強く叩かれる。
普通なら何か可笑しいと思い、起きるだろう。しかし、寝ぼけているラナーの頭はそこまで回っていなかった。
「寝相が悪いですよ.........トリス、もう少し落ち着きなさい...........すぅ..........」
ぺしぺしぺしぺし!!ぺしーん!!
ラナーの頬を叩き続けた何かは、中々起きないラナーに痺れを切らして強くその頬を叩く。
軽いビンタを受けたラナー頭は覚醒し、ベッドから飛び起きた。
「?!敵襲?!」
「シャー!!」
声のした方を見ると、体長が1m近くある蜘蛛がラナーに跨ってる。
コレが普通の女の子だったら悲鳴を上げるだろう。だが、毎日のように顔を合わせるラナーは至って冷静だった。
「私の頬を叩いていたのは貴方ですか?」
「シャー!!」
蜘蛛は前足で器用に丸を作る。
「何かあったのですか?」
「シャ!!」
蜘蛛はコクリと頷いた後、影から数枚の紙をラナーに渡す。
暗くてまだ文字が上手く見えないため、ラナーは光が灯る魔道具を手に取って、まだ眠る姉と妹に光が当たらぬようにしながら光を灯す。
文字を目で追っていくうちに、ラナーの顔は段々と険しくなっていった。
「.........なるほど。これは緊急事態ですね。申し訳無いですが、お姉様もトリスも叩き起しますか。貴方は緊急時の情報伝達の準備をお願いします。団長様に急いでこの情報を伝えなくては」
「シャー!!」
その紙には“魔王復活の神託あり”と書かれていた。
━━━━━━━━━━━━━━━
簡単な打ち合わせが終わった俺たちは、ギルドの一階へと戻り傭兵達と馬鹿騒ぎをした後、宿に泊まっていた。
おばちゃんの娘さんとも顔を合わせ、ベオークに急いで持ってこさせた果物の詰め合わせも問題なく渡すことができた。
「それにしても、旦那の方も見たかったな。どんな人なのか一目見てみたかった」
「結構優良物件な娘さんだったよね。その旦那さんを見てみたい気持ちは分かるよ」
おばちゃんの一人娘であるララエナさんは、花音の言う通りかなりの優良物件だった。
顔も美人で(聖女や黒百合さんには劣るが)、仕事は商人ギルドの受付嬢。人当たりもよく、誰からも好かれるような人だ。
少なくとも花音のような地雷臭は無く、少し話した感じではかなりまともな人である。
「いい人だったの。でも、少し
「匂った?」
「ん。血と臓物の匂い。傭兵のおじさん達からも匂うから、気の所為かもしれないけど.........」
殺しを生業とする傭兵達から、血と臓物の匂いがするのはしょうがない。
ってか、その言い方だと俺達も臭うよな?
俺はクンクンと自分の匂いを嗅ぐが、全く分からない。
「もしかして、俺も匂う?臭かったりする?」
「ん?ぜんぜん大丈夫なの。血と臓物の匂いは別に嫌いじゃないの。それに、私の鼻が良すぎるだけなの。普通は匂わないの」
そう言われても、不安である。
イスに“パパ臭い”とか言われたらもう死ぬしかない。
『大丈夫。ワタシにも分からないから』
俺の心情を読み取ったのか、ベオークがフォローを入れてくる。
本当だよな?臭ってないよな?気を使ってる訳じゃないよな?
ちょっとした不安を抱きながら、俺達は明日に備えて眠るのだった。
ぺしぺしぺしぺし
俺が目覚めたのは、頬を叩かれる感覚からだ。
こんな起こし方をするのは1人しかいない。
「もう朝か?イス........」
『イスじゃない。ワタシ』
「んー?何も聞こえないなぁ.........気のせいか........」
『ちょ、寝るな寝るな!!起きろ!!』
ぺしーん!!
先程よりも強くその頬を叩かれ、俺の脳は覚醒する。
「?!敵襲?!」
「シャー!!」
目を覚まし、ベッドから起き上がると、ベオークが紙を持って騒いでいる。
要は“受け取って読め”というわけだ。
日が昇り始め、朝日が差し込むその光で文字を読む。
えーとなになに?“魔王復活の神託あり。場所は─────”
全てを軽く読み終えた俺は、静かに溜め息を着くと、こう呟いた。
「魔王を討伐して街に帰ってくるRTAはーじまーるよー」
なんてタイミングが悪いんだ。このクソッタレ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます