魔道具店
元老院とその家族の護衛。指名依頼を受けた俺は、2日後にまたギルドに顔を出す事を伝えてギルドを後にする。
外の監視をどうしようかと悩んだが、どうやら隠し扉があるらしく特別にそこに通してくれた。
この仕事を受けるにあたって、ギルドマスターには新聞社と冒険者ギルドに圧力をかけてもらうことにした。
仕事中に邪魔が入るのは困るのだ。
裏組織の連中は、どうやっても邪魔に入ってくるだろうから、放っておくことに。
元老院とその家族が来るのは、3日後の夕方からだそうだ。その間に1度拠点に戻って色々と準備をしておきたい。
「そう言えば、傭兵になってから仕事らしい仕事はこれが初めてじゃない?」
「そうだな。まぁ、傭兵って元々仕事は少ないしな。戦争がなければ、ちまちまとした仕事を受ける程度だろうし」
冒険者ならば選り好みできるほど仕事があるが、傭兵はそうもいかない。
魔物の討伐依頼とかは、全て冒険者ギルドに流れるからな。
「報酬は良かったの?」
「分からん。報酬は俺の望むものを用意してくれるらしい。流石に国一個とかは無理だが、バカラムが用意できるものならなんでもくれるそうだ」
これは結構有難かったりする。本来なら手に入らない物も簡単に手に入るだろう。
とは言っても、具体的に何が欲しいとかは無いのだが。
貸し1つと考えれば破格の報酬だろう。面倒事が起こった時に肩を持って貰えるからな。
「ふーん。仁が受けるならそれでいいけど、魔王はどうするの?もしかしたらドンピシャで復活するかもよ?」
「護衛の日ドンピシャに魔王が復活?流石にそれは無いだろ。暴食の魔王も色欲の魔王も復活したのは1ヶ月の間を開けてからだ。こんな短期間に復活はしないだろ」
「もし、復活したら?」
「速攻で魔王を討伐して拠点に帰るRTAはーじまーるよー」
仕事を受けた以上、それをすっぽかすのは出来ない。
復活場所によるが、俺が戦うことになった場合は容赦なく瞬殺だ。
「魔王に関してはその時考えればいいさ。最悪、俺達が何かする必要はないだろうしな。復活場所によっては、剣聖並の強さを持った化け物がいるところに復活するかもしれん。そしたら、俺達は要らない子だ。子供達に感じだけ任せて仕事に専念するさ」
「だといいけどねぇ........」
そんな事を話しながら人目を避けて歩く事20分。俺たちが付いたのは、少しボロけた一軒家だ。
スラム街よりにあるこの店は、パッと見、店には見えない。
しかし、よく見ると植物の蔦に絡まれた看板が立っている。
『マルネス魔道具店』
古ぼけた看板にはそう書かれており、時たま風に揺られてギィと鳴るその看板は店の見た目も相まって不気味さを増している。
夜中に訪れようものなら、見えぬ手に引き摺り込まれ、この世界から消え去ってしまいそうな雰囲気だ。
俺は相変わらず不気味なその店のドアを開くと、中で眠そうに机に突っ伏している店主に話しかける。
「喜べ、客だぞ」
「そんな態度の大きい客は要らねぇよ。帰った帰った」
「そうか。残念だったなイス。どうやら俺達は招かれざる客らしい」
「残念なの」
そう言って帰ろうと、店主に背中を向けたその時だった。
「イスちゅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
先程とは打って変わって、やる気の無さそうな店主が目にも止まらぬ速さてイスに抱きつこうとする。
俺はイスの手を引いて、襲いかかってくる店主からイスを守る。
店主は店の外に転がっていった。
「大丈夫か?イス」
「大丈夫なの」
俺はイスの頭をよしよしと撫でてやりながら、店の中に入っていく。
誰一人として、店の外に転がった店主には触れようとしなかった。
「ちょ、ちょちょ!!私の心配をしろよ!!」
「知るか。勝手にコケた奴の心配なんてできねぇよ」
「なんだと?!お前がイスちゃんの手を引かなければ、私は転ぶことは無かったんだぞ!!」
「ウチの子に下心丸出して抱きつこうとするゴミから守って何が悪い?少しはその気持ち悪い顔を抑えろ。マルネス」
マルネスと呼ばれた女性の店主は、半分涙目でその場に座り込む。
金髪と赤髪が混ざった特徴的な長髪に、緑色と蒼色のオッドアイ。幼さが残るその顔は、刺さる人には刺さるだろう。
服装も中々にアンバランスで、左腕は半袖、右腕は長袖、ズボンはその逆と言うファッションだ。
彼女だから似合っているものの、他の人には真似できない服装だろう。
「だって、だって!!可愛いイスちゃんが久しぶりに来たんだよ?!我慢できると思うか?いや、できない!!」
「胸張って言う事じゃねぇよ」
彼女と出会ったのは今から半年以上も前の事だ。面白そうな店が無いかと探していた時に、偶然見つけた店であり、それ以降魔道具はその店で買うことにしている。
大通りに店を構えている魔道具店よりも数段質が良く、それでいて値段が安い。
立地がとてつもなく悪く、店の外観がそもそも店に見えないのがこの店に人が寄り付かない原因だろう。
マルネスは怠そうに立ち上がると、トテトテと店の中に戻ってくる。
身長は小さい為、ちょっとした小動物に見えるな。
「それで?何を買いに来たんだ?茶化しに来たとか言ったら殺すぞ?」
「知り合いの魔道具士が、なんか面白いものを買ってきてくれって言ったんでな。なんか面白いものを頼むわ」
「随分とザックリした要求だな........面白いものって具体的になんだよ」
「面白い物は面白い物だろ。なんかこう........面白いって感じのやつだ」
「分かるわけねぇだろうが。何言ってんだお前は」
いやー、面白い物って言われても、ピンと来ないんだよ。
ドッペルの面白いの基準とか知らないしな。
マルネスは少し悩んだ後、店の奥からある物を取り出してくる。
それは1枚のコインだった。
「なにこれ」
「面白い物かどうかは分からんが、魔力を込めて弾くと必ず裏が出る魔道具だ。こんな下らないものを作る奴なんて殆ど居ないから、上手くやればイカサマし放題だぞ」
既に持っているんだよなぁ。裏じゃなくて表が出るイカサマコイン。
試しに魔力を込めて弾いてみる。そして、表が出るタイミングで手の甲でキャッチした。
コインを見てみると、確かに裏と書かれている。
「なんか、反応が薄いね。もっと驚けよ」
「うん。まぁ、凄いんだけど、似たような魔道具を持っててな」
俺はそう言うと、ドッペルから貰った表だけ出るコインを取り出す。そして、マルネスに渡した。
コインを受け取ったマルネスは、直ぐにどのような魔道具なのか分かったらしく、いつになく真剣な表情てそのコインを眺める。
普段は眠たそうな顔をしている店主だが、腐っても魔道具士。同業者が作った魔道具には興味があるのだろう。
同業者と言っても、相手は魔物だが。
マルネスは粗方コインを眺めた後、それを俺に投げ返してから質問しきた。
「ねぇ、これを作ったのは誰?」
「俺の知り合いの魔道具士だな」
「どこにいる?」
「それは言えない」
「連れてこれる?」
「無理......とは言わんが、本人次第だな」
ドッペルは、よっぽどの事が無い限り魔物だとバレることは無い。
それこそ、人を食べて能力を得る時を見られなければ、普通に人として通るのだ。
問題は、本人が出たがらない事だが。
「お願い!!これを作った人を連れてきて!!引き摺ってでもいいから!!」
「まぁ、話は通しておくよ」
そう言いながら、俺は店に並べられている魔道具を手に取って物色するのだった。
お、これはイカサマサイコロか。面白いな。
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