どこに行ってもマスコミは..........

  強引に監視の目を振り切って入った傭兵ギルドの中は、相変わらず代わり映えのない面子が揃っていた。


  酒を飲む者や、少し早めの昼食を取る者。中には珍しく書類整理している者まで。何時もなら3~4人程度しか居ないはずのギルド内には、15人間程の人で溢れていた。


  昼前だと言うのに人が多い。何かあったのだろうか。


  俺は自身が巻き起こした風で書類が飛ばないように手で押えてやると、その書類を見ていた傭兵に話しかける。


 「よう。アッガス。久しぶりだな」


  アッガスが何か言おうとする前に、俺達が移動したことによる風が来る。


  新幹線が通り過ぎると、風が起こる。それと同じ現象が起こっているのだ。


  ゴウ!!と風がギルド内を襲い。壁に貼り付けてある紙がパタパタとはためく。


  椅子を飛ばす程ではなかったが、それなりの威力で風は吹き、酒を飲んでウトウトとしていた酔っぱらいの目を覚まさせる。


  アッガスは急に襲ってきた風に驚きつつも、俺たちの仕業だと分かるとニヤリと笑って俺の腰を叩く。


 「随分と乱暴な登場じゃないか、ジン。俺の書類が吹き飛んだらどうしてくれる?」

 「ちゃんと飛ばないように抑えてやっただろうが。感謝して欲しいぐらいだ」

 「自分で起こした風で起こるはずだった被害を自分で防いで感謝を求める。これが俗に言うマッチポンプと言うやつかい?」

 「しょうが無いだろ。このギルド、監視が多く着いてたんだから」

 「あぁ、ジンが目立ちに目立ちまくったせいで俺達にも取材が来やがった。いい迷惑だぜ?全く」


  アッガスがものすごく疲れた顔で肩を落とす。そしてその話に聞き耳を立てていた傭兵達も、何かを思い出たようでため息を着いていた。


  よっぽどその取材がしつこかったのか、全員の顔が優れない。


  この屈強な馬鹿どもをここまでにさせるとか、一体どんな取材を受けたのやら。


 「新聞社って奴か?確か三社ぐらいあったよな?」


  確か、地域新聞のバルサル新聞と国の新聞であるアゼル新聞。後は、個人が半分趣味でやっているラベル新聞だったはずだ。


  バルサルの街では、バルサル新聞とラベル新聞がよく読まれており、アゼル新聞は首都の方でよく読まれている。


 「そうだ。その三社が代わる代わる同じような質問をしてくるんだよ。お前についてな」

 「へぇ?答えたのか?」

 「必要最低限だけは答えた。調べれば簡単に分かる事だけは話して、お前の人間性については知らぬ存ぜぬで貫いたな」

 「.........もし話してたら?」

 「バカでアホで愉快な奴。少なくとも悪魔のような性格はしていないが、だからと言って聖人でもない。至って普通な傭兵」

 「それ言えばよかったじゃん」

 「馬鹿言え。相手はでっち上げ上等の連中だ。下手に何か言えば、どんな事を書かれるか分かったもんじゃない」


  なるほど、どの世界もマスコミはマスゴミと言わけだ。


  アッガスの顔を見る限り、彼もあることないことを好き勝手に書かれたのだろう。


  一応、この街の傭兵の中では1番顔の効く奴だしな。このバルサルの傭兵達のまとめ役の様な存在だし、新聞社からすればネタは沢山あるのだろう。


  これは念の為に、子供達で色々としておいた方がいいかもしれない。この街で買い物できなくなったりすると、厄介だ。


 「おい、変な事を考えるなよ?幸い、今回はバカラムが絡んでる。やつがその気になれば、新聞社の連中を牢にぶち込めるんだ。お前が問題を起こさない限りは、大丈夫だろうさ」

 「だといいがな。場合によっては、その新聞社に不幸な事が起こるかもしれないぞ?」

 「.........止めはしないが、人を殺すようなマネはするなよ?」

 「あははは!!大丈夫、大丈夫。不幸な事が起こるだけで、事故にはならんさ。精々足の小指をタンスにぶつける程度だ」

 「ぷはは!!それは不幸だな。俺も巻き込まれないように、戸締りはしっかりしておこう」


  アッガスはそう言って笑うと、書類を閉まって飲み物を注文する。


  エールを1つと、アポンのジュースを3つだ。


  どうやら奢ってくれるらしい。


  俺達はアッガスの対面に座ると、串焼きを注文する。少し早いが、昼飯にしよう。


 「昼から飲むのか?仕事の途中だっただろ」

 「俺達は酒を飲んだ方が仕事が捗るんだよ。なぁ?みんな!!」

 「「「「「おう!!」」」」」


  アッガスが聞き耳を立てていた傭兵達にそう言うと、傭兵達はエールの入ったジョッキを掲げて笑う。


 「おうとも!!俺たちゃ、酒を入れるとやる気がみなぎって来るんだよ!!お前の様に酒を飲まないやつの方が珍しいぜ?」

 「そうだそうだ!!少し前だが、お前に買ってやったエール、ほぼ飲んでなかったじゃねぇか!!少しは酒の味を知れ!!」

 「知ってるよ。知ってて苦手なんだ」


  何度も飲もうと挑戦したが、やはり俺の舌には合わなかった。


  歳を取れば酒が美味く感じる日も来るのかねぇ。


  そんな事を考えながらアポンのジュースをすすると、傭兵の1人が俺を煽ってくる。


  いつもはボロカスにやられているためか、弱点を見つけたとばかりに攻撃してきた。


 「なにぃ?!お前酒を飲んで、酒が苦手なのか!!ガハハハハ!!口はまだまだお子ちゃまだな!!」

 「なんとでも言え。そのお子ちゃまに力比べて負ける赤子が何か言ったところで、泣いているだけにしか聞こえねぇよ」

 「なんだとぉ?!てめっ、上等だ!!今度こそお前の手の甲を床に叩きつけてやる!!」

 「無理無理。見掛け倒しの筋肉ダルマ如きじゃ、俺の手は汚れんよ。あぁ、汚ぇおっさんの手を触るから汚れるか」

 「言ってくれるじゃねぇかぁぁぁぁ!!アッガスさん!!そこをどいてくれ!!」

 「程々にな」


  アッガスは楽しそうにその傭兵を眺めながら、席を譲る。


  イスも花音もその場を離れ、いつの間にか始まった賭けに参加していた。


 「賭けにならないねぇ.......」

 「パパのオッズ低すぎるの。ってか誰も傭兵さんに賭けて無いの」


  それ賭けになってないじゃん。


  まぁ、ここにいる全員が、俺の強さを知っているからな。腕相撲で全員完封したし。


 「おいおい。大丈夫かおっさん。誰一人としてアンタに賭けてないぞ」

 「全く、信頼が厚くて涙が出そうだぜ。まぁ、俺も勝てると思ってない。ノリと勢いだけで今こうやって手を組んでるんだ。熱が覚めないうちにやろうぜ」

 「アンタ馬鹿だろ.......」


  アルコールが抜けきってない頭でバカやるからそうなるんだよ。


  俺は呆れながらも、花音に合図を出すように指示する。


 「それじゃーいくよー。レディー、GO!!」

 「オラァァァァァ!!」


  おっさんは全力で俺の手の甲を机に叩きつけようとするが、全くと言っていいほど動かない。


  そりゃそうだろう。たった一人の人間が、地面を押して地球を動かそうとしているようなものだ。どう足掻いたって勝ち目は無い。


 「ほらほらー頑張れおっさん。もしかしたらワンチャンあるかもしれないぞー」

 「んぎぎぎぎぎ!!」


  魔力で身体強化もしているが、それでも動かない。


  これ以上は続けても不毛なので、終わらせるとしよう。


  俺はほんの一瞬力を抜いた後、手の甲が着く前に力を入れる。


 「ほい」


  なるべく怪我をさせないようにしながら、俺はおっさんをぶっ飛ばすのだった。

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