話題の人物

  剣聖が魔王を討伐してから2日後、俺達は再びバルサルに来ていた。


  吸血鬼夫婦や他の団員の欲しいものは粗方買っていたのだが、昨日ドッペルから“団長が面白いと思う魔道具を適当に買ってきて欲しい”と言われたのだ。


  なんでも、自分の知らない魔道具を見てインスピレーションを受けたいんだとか。


  あまり実用性の無いものを作られても困るが、ドッペルの作る魔道具はどれも優秀だ。本人が欲しいと言うのであれば、買ってきてあげるのもいいだろう。


  ドッペルなら顔を変えれば人間に化けられるので付いてくるかと聞いたのだが、魔道具作りに忙しいらしい。


  魔王討伐によって世界が動くのはもう少し先、どうせ今は暇なのでこうやって街へ繰り出したという訳である。


 「お、これはこれは。バルサル最強と言われるバカラム隊長に圧勝したジンくんじゃないか。久しぶりだね」

 「久しぶりだな、ゼブラム。巷じゃ、俺は超新星ルーキーって呼ばれているんだって?」


  超新星ルーキーと呼ばれ始めたのは、俺がこの街を出て行ってから。それを分かっているゼブラムは少し驚いた顔をした後、笑いながら話を続ける。


 「あははは!!流石は超新星ルーキー。耳が早いね。その呼び名は君がこの街を出ていってから広まった筈なのに、どうやって知ったんだい?」

 「ソイツは企業秘密ってやつさ。俺達は傭兵団のだぜ?独自の情報網があるのさ」


  情報網と言うか、蜘蛛の網なのだがそれを言う義理はない。


  俺はいつものようにギルドカードを見せた後、街へと入ろうとする。


  すると、ゼブラムが俺の耳元で囁いた。


 「あ、そうだ。今や君は時の人だ。新聞社やギルド、更には裏の人間まで君が何者なのかを調べようとしている動きがある。なるべく目立たないようにした方がいいよ」

 「ご忠告どうも。有名税とでも思っておくさ」

 「あははは!!相変わらず君は面白いね!!心配要らないだろうけど、気をつけてね」


  ゼブラムの忠告を受けた俺達は、フードを被って街へと入るのだった。


  俺がバルサル最強と言われる“双槍のバカラム”を倒したからと言って、大きく街が変わる訳では無い。


  いつも通る大通りは、明るい人々が今日その日を生きる為に汗水垂らしながら働いていた。


  しかし、大きく変わったところがないだけで、その人々の話す話題には必ずと言っていい程超新星ルーキーの話が入ってた。


 「1週間近くは経っている筈なんだがな。噂が落ち着くどころか更に広まってる。そんなに話題に飢えているんかねぇ?」

 「かも知れないね。普段話題になるのはご近所の噂話だけだろうし、こいう大きな話題は話の種になりやすいんだと思うよ」

 「パパ人気者なの!!」


  イスが目をキラキラさせながら俺を褒めてくれるが、別に嬉しくねぇ。


  いつもは気軽に歩いていた大通りも、今は気配を完全に消して歩いている。


  有名税とは言え、態々気配を消してコソコソ歩くのは正直面倒だった。


 「さっさと傭兵ギルドに行くか。あそこなら飲んだくれぐらいしか居ないだろうし」

 「この前みたいに馬鹿がいなければいいけどね。連チャンで相手するのは面倒だよ」

 「あぁ、あの救いようの無いアホどもか。今は牢屋で頑張って骨折を治しているんだっけか?治癒のポーションなんて高価な物を罪人に使う訳が無いから、自分の治癒力で頑張って治すしかない。全身バッキバキにへし折ったから、完治までに何ヶ月かかるんだろうな」


  骨一本折っただけだ、全治三ヶ月とか余裕でかかるのだ。


  全身バッキバキに折られて、肉ダルマと化したアホ三人は下手したら年単位で動けないかもな。


  まぁ、これに関しては完全に自業自得だ。


  舐められたらお終いである傭兵だが、だからと言って喧嘩を吹っかけていい訳では無いのだ。そんな事も分からない可哀想な頭をした連中にかける情けはない。


  殺さなかっただけ有難いと思って欲しいものだ。


 「報告によると、牢の看守にも嫌がらせを受けているそうだから、精神的にも追い詰められているかもね」

 「そのまま首吊りか?情けない奴らだな。自分の行いを悔いて綺麗に成仏して欲しいものだ。変に恨まれて呪われた日には、俺の異能でその存在ごと崩壊させてやる」


  霊体にもその異能はしっかりと作用する。やっぱり少し使いづらいが便利な異能だな。


  そんな事を話しつつ、人目を上手く避けながら歩く事15分。俺達は傭兵ギルドへ辿り着いた。


 「おいおい。なんだこの監視の多さは。ひーふーみー........10人近くがこのギルドを見張っているぞ」

 「ホントだ。これ仁の事を探ろうと見張っている感じかな?素人が5人と、そこそこ手馴れているのが3人。この中では1番熟練しているのが2人いるね」

 「おそらく、素人はゼブラム頑張って言ってた新聞社の連中だろうな。1番隠れるのが上手い2人はおそらく裏の人間だ。血の匂いを感じる」

 「残りの3人は?」

 「おそらくだが、冒険者ギルドの連中だろ。中途半端な強さを持った奴らが所属している組織といえば、そこしか思いつかん」


  しかし、これは面倒だな。俺達は気配を消せるが姿を消せる訳では無い。


  そこに誰かいると意識されなければ、俺達を見つけることは出来ないが、初めからそこに誰かいると意識されると簡単に見つかってしまうのだ。


  それでも、瞬きの瞬間に気配を消して視界から消えればイリュージョンできる訳だが。


 「どうするの?監視は消す?」

 「いやぁー、彼らはただギルドを見ているのであって害はないからなぁ。襲って来るならともかく、ただ見つめているだけの人に罪はないぞ」

 「手は出さないってこと?」

 「まぁ、そうなるな。あまりやりすぎても評判に関わる。この前のアホ三人とかが相手なら話は別だけど、相手はあくまでも見てるだけ。仕方が無いからバレずに入ろう」

 「どうやって?」

 「簡単さ。見えない速さで動けばいい。ちょこっと細工すれば、俺達は見えないさ。それに、この中では1番監視の上手い奴でもバカラム程強い訳じゃ無さそうだしな」

 「ゴリ押しって訳だね」

 「そういう事だ」


  勘づかれないぐらいの身体強化でも、それなりの速さは出る。下手になにかするよりも、強引に突っ切った方が早いし楽だ。


 「んじゃ、俺に続けよ」

 「はーい」

 「はいなの」


  今いる場所からギルドまでは直線道であり、曲がる事による減速は無い。


  トップスピードで駆け抜けれる。


  俺は魔縮で足を覆いながら身体強化を使い、走る準備を終える。イスも花音もバレない程度での身体強化を終えたようで、軽く体を解していた。


 「んじゃ行くぞー」


  気の抜ける合図とともに、俺は走り出す。


  拠点から街まで行く時よりは遅いが、それでも人の目で追える速さでは無い。


  新幹線より速く走れる日が来るとは、思ってもみなかったな。


  しかしこれでは、目の良い奴には残像が見えてしまう。だから、これを使うのだ。


 「子供達、よろしく」


  俺の合図とともに、監視の真裏で大きな気配が蠢く。


  殺気を向けられてはいないが、反応せざる負えない気配。


  素人では無い彼らは、この気配をしっかりと感じ取ってしまう。だからこそ視線がズレる。


  後は、そして念の為に素人には小石を当てて気を引かせれば完璧だ。


 「よしよし。バレなかったな」

 「子供達の使い方が上手くなったね」

 「まぁな。やっぱりあの子達は便利だよ」


  全く、傭兵ギルドに入るのにすらこんなに面倒とは。有名人は大変だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る