傲慢の魔王

夕食

  剣聖が魔王を討伐した後、俺達はそのまま拠点へと帰った。


  何時間にも及ぶ激闘のように思えたが、実際は1時間も経っていない。その為、日が沈んだ少し後には拠点に帰ってくる事ができた。


 「へー。本当に魔王を1人で倒しちゃったんだ。凄いね。その剣聖っておじいちゃん」

 「だろ?流石は人類最強だ。魔王の強さは間違いなく厄災級。それを相手に単独で、しかも無傷で倒せる奴なんてそうそう居ないぞ」


  俺とトリスの会話を聞いたアンスールが、頬に手を当てて首を傾げる。


  相変わらず、一つ一つの仕草が母性に溢れているな。流石、裏では“傭兵団の母”と言われているだけはある。


 「あら、私も殺られてしまうかしら?」

 「それはなんとも言えんな。魔王だって戦い方次第では剣聖に勝てたかもしれないし、圧倒的実力差がない限りはその時次第だ」


  俺達の拠点である宮殿の食堂部屋。今は皆でゆっくりと飯を食べている。


  昼は俺達が居ないことも多く、皆仕事で忙しそうなので集まって食べる事は少ないのだが、夕飯はなるべく集まって食べるように言い聞かせてある。


  コミュニケーションは大事だからな。


  目立った仲の悪さはエドストルとラナーの2人だけ。これだけの人が集まっているにしては、皆仲がいい。


  それに、エドストルとラナーもシルフォードが絡まなければ割と普通にしているそうだ。


  3人集まれば派閥ができるなんて言うが、この傭兵団には派閥なんて無い。


  三姉妹は俺達に助けられて恩を感じているし、奴隷達は俺達に買われているので絶対服従。魔物達はそもそも派閥と言う考えが無い。


  唯一、昔国を収めていた吸血鬼夫婦はその考えを持ってはいるものの、過去に何があったのかを理解している。


  こう言うと自惚れかも知れないが、皆俺を慕ってくれているから傭兵団内での衝突は無いのだ......慕ってくれているよね?


  後は、皆自分が上に行こうと言う欲が無いからな。それだけ今の環境が心地いいのだろう。


  仕事こそあるものの、風邪を引いたら休んでいいし(誰も引いた事ないけど)、給料こそ出ないものの、毎日3食美味しい食事が出てくる。


  欲しいものがあれば、俺に言えば大抵のものは買ってくるし、望めばちゃんと金銭も払う(使い道が無いが)。


  うん。我ながら中々にホワイトな傭兵団だな!!仕事の時間もなるべく8時間以上は働かせないようにしているし、休日も2日は取っている。


  日本で公募をすれば、人が殺到するに違いない。


 「団長?ボーッとしてどうしたの?」


  俺が感慨に浸っていると、シルフォードが話しかけてくる。席は基本自由にしているのだが、気づいた時には固定されていた。


  奥から傭兵団に入って古い順の並びである。


  そして俺は何故か、1番奥の偉い人が座る場所に居る。


  まぁ、団長だから仕方が無いといえばそれまでだが。


 「ん?あぁ、いや。この傭兵団も随分と大所帯になったなぁと思ってな。本当の初期の初期は俺と花音の2人だけだったからな」

 「懐かしいねぇ。まだ島にいた頃だよ。その日その日を生きるのに精一杯だった頃だね」

 「全くだ。寝床はゴツゴツとした洞窟の地面で、流石に寝にくいからって言って草を敷いたりしてたな」


  そして、何とか住みやすく改造していった洞窟は犬っころ共に奪われた。忌々しい犬共め。


  でも、そのお陰でベオークと会えたから感謝するべきなのか?


  ........いや、感謝するのはなんかムカつくわ。


 「あの頃は私達もまだまだ弱かったからねー。ヤバそうな魔物を見つけたら即逃げてたよ。あの時って何狩ってたっけ?」

 「いつも食ってたのはレッドアイホーンラビットだな。知ってるか?」

 「知ってる。村の近くで出たら、村総出で狩りに行ってた」

 「あのウサギ、小さくて速いから攻撃が当てづらいんだよね。それでいて凶暴だから、ほっとく訳にもいかなくて、何人ものけが人を出しながら討伐するんだよねー」


  シルフォードとトリスが、懐かしむように目を細める。


  彼女達にとって、その記憶はもう戻って来ない日常だ。


  彼女達には内緒で、ダークエルフの生き残りが居ないか子供達に探さしてはいるものの、それらしき痕跡すらも見つかっていない。


  彼女達の同胞を見つけるのは少し厳しかった。


 「今戦ってみると、多分滅茶苦茶弱く感じるぞ。上級魔物なんざ一捻りだ」

 「え?でも、子供達には勝てないよ?」

 「あれは子供達がおかしいだけだ。隠密能力だけで見たら下手な最上級魔物よりも上だからな。そして、その影から奇襲されたらほぼ勝てん」


  ベオーク直々の訓練を積みまくった子供達の隠密を、そう簡単に見破ることは出来ない。


  剣聖やジークフリード並に強くなれば別だが、三姉妹は自衛できる程度にしか鍛えていない。


  白金級プラチナ冒険者相手にも、その存在を悟られない子供達を見つけろと言う方が無理だった。


 「シルフォードもトリスもラナーも実力でいえば白金級プラチナ冒険者並の強さはある。能力が噛み合えば最上級魔物が相手でも勝てるぞ」

 「へー。私達ってそんなに強くなってたの?全然実感が湧かないんだけど」

 「そりゃそうだろ。普段戦ってる相手が厄災級魔物なんだから。最上級魔物と厄災級魔物には天と地の差があるからな.........もちろん、例外も沢山あるが」

 「あぁ、ベオークさんか」


  なんでアイツは、最上級魔物に分類されるんだろうな。下手な厄災級よりも強いぞ。


  同格であるはずの最上級魔物を、鼻歌交じりにフルボッコできる魔物。人はそれを厄災級魔物と言う。


  一応種族的には最上級魔物に分類されているが、明らかに実力が噛み合っていない。


『呼んだ?』


  話題に上がったベオークが、ひょっこりと影から顔を出す。


  ベオークは基本的に俺の影の中で食べている。本人曰く、影の中の方が食べやすいそうだ。


  後は食べている姿が少しグロい。慣れている俺や花音、イスはなんとも思わないが他の団員には食欲を無くす光景になるだろう。


  SAN値ピンチってやつだ。


 「呼んではない。話題に上がっただけだ」

『そう。なんの話題?ワタシの強さ?』

 「そうだ。最上級魔物に分類されるが、その強さは厄災級。何が違うんだろうなと思ってな」

『さぁ?ワタシが特別だから?』

 「あながち間違ってないのがなんとも言えんな」


  一体、何を基準に魔物の強さを決めているのだろうか。


  そもそも、誰が作ったんだろうな。


『気になるなら子供達に調べさせる?』

 「いや、今は魔王探しに専念してくれ。流石に子供たちを無駄遣いする余裕はあまり無い」

『分かった』


  ベオークはそう言うと、影の中に戻っていく。


  多分ご飯を食べている途中で来たのだろう。探知で何にかモグモグしているのが分かる。


  モグモグしていると言う可愛らしい表現の食べ方では無いだろうが。


 「そういえば、ベオークさんは最初の仲間だっけ?」

 「そうだぞ。我ながら面白い奴を仲間にしたと思ってる。気さくで良い奴だしな」

 「ベオークと出会ってから狩りが楽になったよねー」

『また呼んだ?』

 「「呼んだ呼んだ」」


  こうして、夕食の時間は楽しく過ぎ去って行くのだった。

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