人類最強VS魔王④

 「天月冥合」


  剣聖が技を放ったその瞬間、剣聖を中心として半径500m以内の物が全て細切れになる。


  範囲内に入っていた魔物や木、風や雨、更に魔王までもがその一瞬の間に切り裂かれた。


  木も草も瓦礫も塵と化し、舞い上がったその塵は雨に撃ち落とされて土へと還る。


 同じく、塵になるまで斬られた魔物達も、再生すること無くその血肉を森へと還元する。


  圧倒的に優勢だったはずの魔王は、たった技一つで形成を変えられた。


 「ゴホッゴホッ..........人間め。何て力技だ」

 「ほっほっほ。本当は、もう少し範囲が広いのじゃがのぉ。震えて待っておる青年に当たるかもしれんので、控えめにしたのじゃよ。ところで、魔物は死んだのにお主は生きておるのぉ。細切れにしたはずなんじゃが.........」

 「貴様の言う通り、細切れにされかけたとも。我が能力で何とかなったがな」

 「ほっほっほ。しかし、その能力とやらは随分と消費が多いように見える。肩で息をしておるではないか。そろそろ幕引きが見えてきたのぉ」


  剣聖はそう言うと、四度目の神速の居合を打つ。


 「天地断絶」


  狙ったのは残っていた前脚。


  魔王はその一刀に反応すらできず、無惨に切り飛ばされる。


  ズシン。


  前足を両方失い、まともに立っていられなくなった魔王は、その胴体を地面に叩きつける。


  雨によって剣聖の切り裂いた塵が固められていなければ、物凄い勢いで砂煙が待っていただろう。


 「うぐっ!!」


  魔王は何とか立ち上がろうとするが、前足2本と右腕を失っていてはどうしようもない。


  今の魔王はまともに走れない駄馬にも劣る、出来損ないだった。


 「ふむ。もうその能力とやらは使えぬ様だな。随分と厄介な能力だったが、やはり限界はあるようじゃのぉ」

 「人間がァ........!!我を見下すなどぉ........!!」

 「ほっほっほ。よく吠える駄馬じゃろうて。まともに立てぬ癖に馬気取りかのぉ?やはり、馬と同じ扱いをしたら馬に失礼じゃろうな。馬は人の役に経つが、この駄馬は害を振りまくのみ。生きてて恥ずかしくないのかのぉ?」

 「巫山戯るなよ人間がァ。我は魔王。これしきの事で屈したりせぬわ!!」


  魔王はそう言うと、残った魔力を全て使って最後の切り札を切る。


  魔力が渦巻き、天を覆う。


  雨は更に強くなり、1m先すらも見えない程の豪雨となる。


  ゴウゴウと降り注ぐ雨の中、魔王は詠唱を始めた。


 「我が断片は常にここにあり。我らは輪廻の中では回らず、その魂を───────」

 「させぬわ」


  詠唱を始めた魔王に向かって、剣聖は剣を振るう。


  元々目は見えない。この雨が目くらましになる訳がなく、更に魔力を大きく使っているために気配がダダ漏れ。


  自分の居場所を自ら教えている様なものだった。


  何百もの斬撃で切り裂かれた魔王には、再び魔力を練り上げる力も残っておらず、消えゆく灯火をゆっくりと感じる事しか出来ない。


 「も........ん........ざ.........ま」


  最後に魔王が呟いた言葉は、誰の耳にも入ること無くその灯火は静かに消える。


  色欲の魔王アスモデウスは、剣聖ゴルドの前に敗れ去ったのだった。


 「ふむ。こと切れたようじゃの。とりあえず、この雨を吹き飛ばすとするかのぉ」


  剣聖はびしょ濡れになりながらも、再び剣を振るう。


 「獄連天絶」


  剣聖の振るった剣は、風を生み出して雲をも退ける。


  退けた雲の隙間から、日が溢れ出して剣聖を照らした。


 「ほっほっほ。眩しいのぉ。やはり日に当たるのは気持ちがいい」


  太陽の眩しさは剣聖には分からないものの、その暖かさは感じ取れる。


  濡れた服を絞りながら剣聖は、塵となって消えてゆく魔王を感じる。


 「しかし、この魔王が二体居たら危なかったのぉ。やはりタイマンが限界か。人類最強とは呼ばれておるが、世界最強は程遠いのぉ.........」


  魔王の強さは間違いなく厄災級だった。いくら人類最強と呼ばれる剣聖とは言え、厄災級が二体も居れば勝ち目は無かっただろう。


 「それにしても、主も適当を言う。厄災級魔物の方が強いと言っておったが、普通に強いではないか。傷こそ負わんかったが、それなりに本気でやらねば死んでおったぞ」


  剣聖はぶつぶつと呟きながら、重くなった服をある程度軽くすると、結界に引きこもっているバッドスの元へと足を運ぶ。


  魔王が復活する前から感じる視線。敵意は無いものの、明らかにこちらを意識したら視線だ。


 「ほっほっほ。見られているのは分かるのだがのぉ。場所が分からぬ。どこで見ているのやら。しかも、数が多い。儂に居場所を掴ませぬとは、中々の手練じゃろうて」


  姿を現さないまだ見ぬ強者に、剣聖は胸を踊らせる。


  何となくだが、この視線の主とはいつかどこかで戦うことになる気がした。


 「楽しみじゃのぉ」


  日が登る正午過ぎ。剣聖の足取りは軽かった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 「終わったな」


  塵となって消えていく魔王を見ながら、俺は自身の異能を解除する。


  土砂降りの雨は剣聖が吹き飛ばしてくれたので、今は快晴だ。


  眠気を誘う温かさが俺達を襲う。


 「んー!!いい天気だねぇ。お昼寝したいぐらいだよ」

 「日差しが暖かいの!!」

『日は嫌いだけど、その暖かさは褒めてやってもいい』

 「すげぇ上から言うな。陽の光がなきゃ俺達は生きていけないんだぞ」


  戦いの緊張感から解放された俺たちは、のんびりと身体を解していく。


  俺達は実際には戦っていないものの、やはり手に汗握る緊張感はある。


  映画館のようにジュース片手にお菓子食ってたけど。


 「やっぱり剣聖は強かったな。結果だけ見れば、傷一つ無い完勝だ。遊びが無かったらもっと速く終わってたぞ」

 「あれが人類最強だね。ずごいねアレ。森の中にミステリーサークルができているよ」

 「剣に広範囲技があるとは思わなかったな」

 「全てにおいて対応出来る剣。剣聖と戦うのは骨が折れそうだよ」

 「だな。出来れば数的有利を作った上で戦いたいな。本気を見てないからなんとも言えんが、厄災級を二体相手するのはキツそうだ」


  もし、剣聖と戦う時があるならば、タイマンは避けたい。


  リンドブルムで流星を落としまくって、俺が近接で叩くといったムーブが出来ればかなり有利に戦えるだろう。


 「魔王は......強いには強かったが、なんかパッとしない強さだったな。厄災級の強さはある。でも、何か一線を越える強さはないって感じか?」

 「そうだね。多分私でも勝てると思うよ」

 「私も勝てるの!!」

『ワタシは........微妙だけど多分勝てる』


  頼もしい限りだ。


  ベオークは少し怪しいが、イスは間違いなく勝てるだろう。と言うか、イスは誰が相手でもほぼ勝てる。おそらく、剣聖相手でも勝てるはずだ。


  俺との能力相性が悪すぎるだけで、イスの能力は無敵に近いのだ。


  世界を作るってずるくね?


  俺はそんな事を思いながら、イスの頭を撫でる。


 「さて、帰るとするか。魔王は無事討伐。剣聖の強さも少しは見れた。俺達の目的は達成だ」


  そう言って、俺達は拠点へと帰るのだった。

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