外野の監視者⑤
魔王が不気味な能力を使い、剣聖が更にやる気を出した頃。俺達は映画を見るかのように椅子と飲み物とお菓子を用意して、のんびりとその様子を眺めていた。
周りからの被害は俺とイスの異能で防げるし、リンドブルムの放つ流星並の破壊力がある攻撃が来てもビクともしない。
おろらく、この場で1番安全なのは俺達だろう。
もう1人結界の魔道具を発動して篭っている青年がいるが、あの結界はさほど強くない。もしヤバそうだったら助けてあげるかな。
ってか、結界の魔道具なんて無かったと思うんだが、あれはどこで手に入れたのだろうか。
人類最強の剣聖。謎が多いな。
下手に近づくと斬られる可能性があるし、監視もやりづらい。面倒なジジィだ。
「それにしても、天候を変えれるのは凄いな。厄災級魔物並の強さはあるぞ」
「やっぱり、暴食の魔王はその実力を出し切る前に殺られちゃったんだね。もし、万全な状態で挑んでたら、魔王らしい戦いが見れたのかも?」
「かもしれないな。まぁ、だとしてもジークフリードやロムス、龍二に光司、黒百合さんまでいる過剰オブ過剰戦力には勝てないとは思うけど」
人類最強と並べられる2人に、勇者の中でも最強格の3人。更に、師匠やアイリス団長も居るのだ。
この面子を一人で相手しろと言われても、かなりキツイだろう。
「おー!!凄いの!!葉っぱの竜巻なの!!」
魔王と剣聖に視線を戻すと、魔王が風を操り竜巻を起こして木の葉を巻き上げている。
フェンリルが使うような魔力によって作られた竜巻では無く、自然を操ってできた竜巻だ。
「木の葉を巻き上げまくって竜巻が緑色になってるな。しかも、その一枚一枚に魔力が宿ってる」
「あの霧散した魔力かな?多分、あの木の葉は相当硬くなってるだろうね。下手したら弾丸だよ」
「下手しなくても弾丸だな。剣聖が切り裂かずに避けた木の葉が地面にめり込んでやがる」
あんなのをまともに喰らったら、タダでは済まない。
流石の剣聖も、かなり注意深く剣を振るっているのが分かる。
斬れば斬る程葉は小さくなっていき、弾の数は増えていく。
しかし、それに合わせて剣聖の剣も速くなっていく。とてもでは無いが、人の振る剣の速さではない。
「化け物が。1本の剣だけであの弾幕を防げるとか、人間卒業してるよ」
「ある程度は見切れるし、弾けるだろうけど、流石に
「それでも十分凄いけどな。俺は、コレがジークフリードやロムスだったらどう防ぐのか気になる」
「仁は.......こうやって異能に籠るか」
「何なら反撃もできるぞ。本当に便利な異能だ。天秤を崩す時のラグと座標固定の面倒臭さ、対象を崩壊させた時の魔力消費量が異常に多い事が無ければ完璧だな」
「それも無くなったら、マジで仁に勝てる奴はいなくなるよ」
「理不尽パパが誕生しちゃうの」
『天秤崩壊のラグが無くなったらマジで無敵。誰も勝てなくなる』
凄い言われ用だな。
俺からすれば、相性差が絶望的でない限り引きずり込んだ時点でほぼ勝ち確の
花音はどうかって?知らん。花音は、恐らく異能の本質を俺に隠している。まぁ、花音が俺に言わないなら無理には聞かない。
言わないという事は、少なくとも俺に不利になることは無いからな。
そんな事を話していると、剣聖が動く。
木の葉の弾丸を捌き続けるのは流石に面倒だったのか、とてつもない速さの連撃が放たれる。
斬撃を放つと言うよりは、周りの空気をその剣圧で強引に動かしている。
しかしながら、その中にしっかりと斬撃が入っている辺り流石だ。
その剣圧は次第に大きくなり、最終的には天に昇って雨雲を消し飛ばす。
「マジか。天を斬ったぞあの爺さん。人間って天候を変えれたんだな」
「仁も昔やってたじゃん。ほら、拳圧で雲を吹き飛ばしてたことあったでしょ」
「あれは別だ。異能を使った上で全力で魔縮してやっとだぞ?あの爺さんは異能である具現化した仕込み杖を使っているとは言え、それ以外はただ剣を振ってるだけだぞ。やってる事が違いすぎる。俺がやってたのはネタ。あの爺さんは実践で使える技だ」
「そっか」
この短時間で何度凄いと思ったのか分からない。本当に人類最強は格が違う。もし、戦うことがあったら楽しみだ。
『なんであの二人は、そもそも天気を変えれるのがおかしいと気づかない?』
「パパもママも感覚がおかしいから。気にするだけ無駄なの」
ベオークとイスが何か言っていたが、俺と花音の耳には聞こえなかった。
天気を変えれられた魔王だが、指を鳴らすような動作をすると再び雨が降ってくる。
先程よりも雨が強く、視界が悪い。全く。エンターテインメントにかける魔王だ。
「見にくい」
「しょうがないだろ。見えるだけマシだ。コレばかりは諦めろ」
視界が取れない程の大雨で無いだけマシだ。別に俺達は濡れないしな。しかし、雨に打たれる剣聖は別である。
人間である以上、体力はある。雨は確実にその体力を奪っているだろう。
更に、それだけではない。地面から何か蠢く気配がある。土の中でこれ程大きく細長い生き物は数少ない。
そしてこの栄養価の高い土の中に住む魔物といえば、一体しか思い浮かばない。
「ワームか」
「うげぇ。あれ気持ち悪いんだけど」
花音があからさまに嫌そうな顔をする。俺だって嫌だよ。気持ち悪いし。
もちろん、あの島にもワームは居た。正確にはキングオブワームと呼ばれ体長20m以上もある最上級魔物だったが。
「でも、美味いんだよな。あの気持ち悪さに目を瞑れば、いい食料にはなるんだよ」
「本当に、本っ当にあの時だけは勘弁して欲しかったけど、ご飯を粗末にするのはダメだから頑張った」
アンスールが頑張って料理で原型を無くしてくれてはいたが、やはり頭にあのくっそキモイ魔物が頭をよぎると吐きたくなる。
トラウマを思い出したのか、花音は若干涙目になりながら頭を抱えていた。
ヨシヨシ。よく頑張って食べたな。もう二度とワームは食べさせないようにしようと、心に近いながら花音の頭を撫でてやる。
そしてイスが少し羨ましそうにこちらを見ていたので、イスを膝の上に乗せて頭を撫でてやる。魔王め。花音のトラウマを思い出させやがって。覚えとけよ。
俺は他の魔王に八つ当たりする事を心に決め、戦場に視線を戻す。
下から襲ってきたワームを剣聖は軽く避けたあと、突撃をかましてくるワームを切り裂いた。
否、切り裂けなかった。
「は?今完全に斬っただろ」
「斬ったね。でも、再生?いや、そもそも切れてなかった?今のは不思議だね」
剣聖も流石に無傷なのは予想外だったようで、慌ててその場を飛び退く。
そして飛び退いた先にはオーク。
どうやら、魔王が近くの魔物を集めて洗脳しているようだ。
オークは剣聖目掛けて拳を振りかぶると、そのまま愚直に振り下ろす。
もちろん、剣聖はその腕を切り落とそうと剣を振るうが、やはり腕は切れない。
剣聖は少し体勢を崩しながらも、その攻撃を避けると、次はゴブリンの放った矢が襲いかかる。
「矢は斬れるようだな。と言うか、魔物以外は切れるようだな」
「仁のような理不尽異能ならともかく、剣だけはキツそうだね」
「そうだな」
剣聖は魔王を斬ればいいのではと考えたようだが、魔王すらも斬れない。
3度目の神速の居合。まだ癖が掴めんな。
さて、剣聖はどうするのだろうか。
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