人類最強VS魔王③

  不気味にざわめく森は、風に吹かれてその木の葉を揺らす。


  剣聖は、何が来てもいいように護りの構えをとる。


  闘気が溢れ出していても、剣聖は冷静だ。身体に纒わり付く粘着質な何かを感じている今、下手に手は出さない。


  魔王が動くまでじっとそのときを待った。


 「森よ」


  魔王の言葉に連動するように、森が大きくざわめく。


 「む?これは面倒じゃのお」


  剣聖は素早く剣を振るう。


  その斬撃の後には、真っ二つにされてひらりと落ちる木の葉。


 「この葉っぱで儂を殺す気かのぉ?」

 「回れ風よ」


  剣聖の独り言を無視して、魔王は次の手に出る。


  風が渦巻き、次第にそれは竜巻となる。


  木の葉を巻き上げながら渦巻く竜巻は次第に早くなっていき、最終的には緑色の竜巻となる。


 「ゲームと行こうではないか。木の葉を全て撃ち落としてみろ」

 「ほっほっほ。容易い事を」


  次の瞬間、巻あがった木の葉は、剣聖に向かって飛んでいく。


  とてもでは無いが、ただ風に吹かれて飛ぶ木の葉とは思えない速さだ。


 「ほい」


  剣聖は再び剣を振るい、木の葉を切り落としていく。


  その手に残る感触は、木の葉を切っていると言うよりは、鉄を切っている感覚に近かった。


(まともに喰らえば、タダではすまぬのぉ。まぁ、まともに喰らえばじゃが)


  剣聖は迫り来る木の葉1枚1枚を的確に斬り裂いていき、斬られた葉は地面へと落ちていく。


  そして、真っ二つに斬られた葉は、再び竜巻に吸い込まれ新たな弾となって剣聖に襲いかかる。


  木の葉は次第に小さくなっていくが、その分数が増えていく。


  1cm四方の木の葉と言えども、その1発の強さは木を抉り、穴を開ける程だ。


  いくら剣聖と言えども無傷では済まない。


  剣聖の剣も次第に速くなっていき、これ以上木の葉が増えないように粉切れにする。


 「持久戦とは、中々老体には堪えるものがあるのぉ!!流石に面倒じゃ。その風を消すとしよう」


  剣聖は一旦剣を振るうのを辞めると、下段に剣を構える。


  そして、迫り来る木の葉を避けながら二つ目の技を放った。


 「獄連天絶」


  剣聖を覆うほどの斬撃。結界を作った時よりも多くの斬撃が、剣聖の周りを飛び交う。


  圧倒的な斬撃は周りにあった木の葉を切り捨て、竜巻を襲う。


  剣圧が渦巻く風を捻じ曲げ、竜巻の風を乱す。


  更に、その剣圧は天まで登り、雲をも退ける。


  雨は剣に弾かれ、森は剣によって切り伏せられる。


 「天候まで切り伏せるとは。人の領域を大きく越している。人間かどうか疑わしいな」

 「ほっほっほ。儂はちゃんと人間じゃよ。それにしても、随分とみみっちい攻撃だったのぉ。手品はおしまいかえ?」

 「そんな訳なかろう。我の能力がこの程度なわけが無い」


  魔王はパチンと指を鳴らすと、再びぽつりぽつりと雨が降り始める。


  天は雲に覆われ、先程よりも強く冷たい風が吹き荒れる。


 「では次だ。じわりじわりと殺してやる」


  魔王は合唱団の指揮をするかのように左腕を振るうと、大地が揺れ始める。


 「む、これは......下から何か来ているのぉ。下だけでは無い。囲まれておるな」

 「矮小なるもの達の反逆だ。存分に味わえ、狂乱乱舞の魔物達モンスター・パーレド


  何かを感じとった剣聖は、その場を素早く離れる。


  次の瞬間、剣聖の足元から大きいミミズの様な魔物が姿を現した。


 「ワームか。滅多に地上には出ないはずなんだがのぉ」


  ワーム。ミミズのような身体に、丸く大きな口。その見た目の気持ち悪さは、魔物の中でも上位に位置する。


  再生能力が高く、多少の傷ならばすぐに再生し、頭が無事ならば胴体を切り飛ばされても生きている。


  基本的に栄養価の高い土を好み、その土の中で生きるワームは、滅多に地上には出てこない。


  土の中で全て揃うからだ。土の外に出てくるのは、掘り起こされた場合かワームよりも強大なものに追われている時のみ。


  こうして、初めから剣聖に敵意を持って土の外に出てくるのはおかしかった。


 「して、儂をこの程度で殺せると思うとるのかえ?お主よりも劣る魔物に儂が殺られるとでも?」

 「そうだ。その剣は流石だ。それは認めざる終えない。だが、人の身を超越しただけでは辿り着けぬ境地もあるのだ。理から逸脱しなければな」


  魔王はワームを剣聖にけしかける。


  フェイントすらも無い、単純な真っ直ぐの突進。


  剣聖は素早くその剣を振るうと、ワームを再生できないほどにまで細切れにした.......はずだった。


 「ほ?確かに斬ったはずなのじゃが.......」

 「山羊の生け贄スケープゴート。貴様の剣は、もう木の棒以下だ。大人しく死ね」


  剣聖は襲いかかるワームを避けると、再び剣を振るう。


  しかし、何度斬ってもワームにダメージが行っていない。


 「手応えはあるから、幻術の類ではないのぉ。となると、ワームがとてつもない速さで再生しているとか考えられるが、そんな魔物がこの森にいるとは思えんのぉ」

 「呑気に避けるのも結構だが、周りには気をつけろよ?既に貴様は、袋の鼠だ」


  ワームを避けた先には、オークが拳を振り上げて待っていた。


  剣聖を的確に狙ったその拳を、剣聖は斬り飛ばす。が、即座にその傷は再生され、剣聖は体勢を崩しながら無理やり攻撃を避ける。


 「ほら、次だ」


  剣聖が攻撃を避けた先には、弓を番えたゴブリンの群れ。その数は300程。


  一斉に放たれた弓が、剣聖を襲う。


 「ほう?これは斬れるのか」


  体勢を崩しながらも剣を振るった剣聖は、再生しない矢を感じて呟く。


  魔物は斬れ無いが、物は斬れる。


  剣聖は地面に手を着いてバク転のように一回跳ねると、体制を建て直して再び剣を振るう。


  次は300体近くいるゴブリンを狙った一刀だ。広範囲に散らばるゴブリンだけを的確に切り裂く。


 「やはり、魔物は斬れぬか」


  剣聖はそう言うと、素早く魔王へと神速の居合を打つ。


  この状態を引き起こしている魔王を斬れば、状況が変わるかもしれないからだ。


 「天地断絶」

 「ほう。やはりその剣は見えぬな。まぁ、見えずとも切れぬようだが」


  放たれた剣は魔王の首を捉えるが、切り落とすことは叶わず。


  他の魔物と同じように即座に再生してしまう。


 「面倒じゃのぉ」


  剣聖とて人間。体力に限界はある。あまり時間をかけすぎると、ジリ貧で負けてしまうかもしれない。


  特に、強く吹く風と雨が厄介だった。


  確実に体力を奪ってくる上に、吹き飛ばしてもすぐさま元に戻ってしまう。


  更に、即再生する魔物達だ。まるで斬撃が効いていない。


  細切れにしても、一瞬で再生してしまう為、剣による防御が難しかった。


  今までに無いタイプの能力。剣聖はどうしたものかと、魔物の攻撃を避けながら考える。


  そして出した結論は、単純明快だった。


 「全て強引に切り伏せるとしよう。無限の再生は流石にないじゃろうし、纏めて全て斬れば何か分かるだろうて」


  困った時は全てを斬ればいい。脳筋思考だが、これに助けられた事は何度もある。


  剣聖は魔物の攻撃を避けた後、全てを切り伏せる三つ目の技を繰り出した。


 「天月冥合」


 

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