外野の監視者④

  片足を落とされ、右腕も失った魔王。あの理不尽爺さん相手によく頑張ってはいるが、やはり実力差が大きい。


  そして人間とは、不利な方を応援したくなるものだ。


  理不尽に叩きのめされる悪役は同情と言う形で、人々から応援の声を貰う。例えそれが人類の敵だとしても。


 「魔王君がんばえー!!あんなチートジジィに負けるなー!!」

 「デジャブかな?神聖皇国でも同じような事言ってた気がするんだけど」

 「パパは、人類の敵なの?」

 「馬鹿言え、俺は弱き者の味方さ。まぁ、応援しかしないけど」

 「流石にそれは草だよ仁」


  大丈夫、どっかの魔法少女だって観客の応援を貰ったら滅茶苦茶強くなるんだ。魔王だって強くなれるって。頑張れ。


  そうやって理不尽ジジィと戦う魔王を応援していると、魔王の両肩に居る山羊が吠える。


 「「メェェェェェェェェェ!!」」


  あまりの大音量に、思わず耳を塞ぐ。


  音の振動が空気を揺らし、大地を揺らしていく。


  木々はその音圧に耐えきれずに折れていき、砕け散る。


 「うるせぇ!!近所迷惑を考えないのかあのクソ山羊は!!天秤崩壊ヴァーゲ・ルーイン!!」


  あまりの五月蝿さに、俺はたまらず異能を展開する。


  下手に能力を使うと居場所がバレるだろうが、少しなら問題ないはずだ。


  俺の異能は、能力を使う時以外はあまり魔力が出ないしな。


  俺はイスと花音も纏めて囲うように異能を広げると、耳を塞ぐイスに指示を出す。


 「イス!!透明な氷を作ってくれ!!大体大きさはこの四角の1面ぐらいだ!!」

 「分かったの!!」


  イスは指示通り氷の板を作ると、俺は器用に異能を操作してその板をはめ込む。


  コレで簡易家の出来上がりだ。昔、あの島にいた頃に使っていた夜のお供である。


  その時はイスの氷の板は無かったが、今回は完璧だな。もう少し装飾に凝れば黒い家ブラック・ハウスが出来上がるだろう。


 「あー五月蝿かった。あのクソ魔王め。さっさと剣聖に斬られて死ねばいいのに」

 「パパ、手のひらぐるぐるなの」

 「今なら地面はも掘れそうだね。もしかして、手をドリルにする具現化系の異能でも手に入れた?」

 「手に入れてねぇよ」


  全く。なんて近所迷惑な魔王なんだ。きっと夜中にガンガンに音量をあげてEDMとか聞いてるよ。


  さて、耳の保護が完了した俺は剣聖の方を見る。耳が遠い老人でも、流石にこの音量は堪えるだろう。


 「凄いな。剣で結界を作ってるぞあの爺さん」

 「剣圧と斬撃で音を散らしてるね。ついでに振動も」


  斬撃で結界とかどうやって作るのやら。少なくとも、真似しろと言われてできる事では無い。


  そして、魔王に目を向けると、何かを操作しているように見える。


  何を操作しているんだ?


  魔王の目線の先を見ると、そこには頭だけの獅子が。そして剣聖が音に対応している間に地面に潜り込ませていた。


  あの獅子、首を斬られても動くんかい。


  そういえば、暴食の魔王も羽をぶった斬られても再生してたし、生命力は強いのだろう。


 「剣聖は気づいてないな。地面を潜る振動が音の振動に紛れてる」

 「これは不意打ち成功パターンかな?」

 「成功したとしても、対応されそうだがな」


  上手くいっても、精々かすり傷を付けるのが限界だろう。


  あの獅子に、剣聖を噛み殺すだけの強さは無い。


  山羊のクソ五月蝿い鳴き声が静まると、すぐさま獅子が剣聖を喰らう。


  剣聖は少し驚いたようにしながら、獅子の口の中に入って行った。


 「ぱっくんちょ」

 「バカ。足だけを素早く噛みちぎろうとした方が、まだ可能性があったのに」


  傷を付けるだけではなく、あわよくばそのまま殺してしまおうと欲張った魔王の負けだ。


  今のは剣聖の足を奪うチャンスだったのに。


  獅子の口の中で何が起こっているのかは分からないが、魔力が蠢いているのが分かる。


  次の瞬間、獅子に亀裂が走り、血肉をぶちまけて獅子は弾け飛んだ。


  相変わらず漫画の様なシーンを見せてくれる。


  いいなぁ、俺も剣を極めればあの領域に立てるのかな?.........いや無理だわ。魔力を剣の様に操るのは難易度が高すぎる。


 「次は土か。コレは応用の効きそうな攻撃だな」

 「おおー。カッコイイね。大地を操る魔王だよ」

 「色欲要素がどこにも無いけどな」


  暴食の魔王もそうだったが、その名にふさわしい能力を使っていない。


  まぁ、暴食の魔王の場合は反撃の余地なくフルボッコにされていたのも原因だろうが。


  剣聖は襲いかかる大地を時には躱し、時には斬り裂く。


  そしてその攻撃に馴れていくと、徐々に反撃をし始めた。


 「致命傷は避けているけど、大分ダメージが入っているね。このままだと普通に負けちゃうよ」

 「こういう操作しての攻撃は読まれやすいからな。次は下から槍だ。そして剣聖は反撃する」


  俺がそう言うと、剣聖の足元から土の槍が突き出る。


  剣聖も大分魔王の癖が分かってきたのだろう。その攻撃を必要最小限の動きで避けた後、素早く剣を振るって反撃する。


  剣を見切れない上に、動きが素早くなく、身体も大きい魔王にその剣は避けれない。


  このままだと勝ち目が無いと判断したのか、魔王は剣聖を囲むように土壁を作った後少し距離を置いた。


 「あれで足止めのつもりか?あの程度じゃ、剣聖の剣からは逃れられないだろうに」


  土壁を切り裂き、魔王に剣を振るおうとしたその瞬間。


  再び山羊が鳴いた。


 「「メェェェェェェェェェ!!」」


  先程とは違い、甲高くも耳障りではない暖かい鳴き声。その声は、次第に不気味さを増していく。


  何か変わった事がある訳では無い。ただただ、気味悪さがその場に残る。


 「何だこれは........」

 「嫌な感じがする」

 「不気味なの」

『なんか気持ち悪い声』


  剣聖もその不気味さを感じ取ったのか、隙だらけの魔王に攻撃を仕掛けようとはしない。


  下手に手を出して、手痛いカウンターを受けるのは避けたいようだ。


 「.........霧散した魔力が動いてる?何だこれ」

 「最初に放ったレーザーの魔力が広がっているね」


  花音の言う通り、レーザーの魔力がゆっくりと広がっている。それに伴って、大地や森がざわめき始めた。


 「雲が.......」


  快晴だった空が曇り始め、ぽつりぽつりと雨が降り始める。


  次第に風が吹き始め、嵐とは言わずとも天気は悪くなる。


 「一体何をしたんだ魔王の奴は」

 「あの魔力が関係あるだろうけど、何なんだろう?」

 「ベオーク。子供たちは出来る限り戦場から離れるように言っておいてくれ」

『もうやってる。魔物の勘は鋭い』


  流石は、あの島で長年生きてきただけはある。


  もちろん、口に出すと嘘泣きされて花音に茶化されるので言わないが。


『.......今失礼な事を考えなかった?』

 「考えてない、考えてない。被害妄想はダメだぜ?そう思うって事は自分はそれを認めている所になるからな」

『むぅ』


  やっぱり勘は鋭いな。


  俺はそう思いながら闘気剥き出しの剣聖と、その闘気にビビる魔王を見る。


  次はどう動くのかな?

 

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