外野の監視者③

  イス達と暇つぶしにトランプで遊ぶ事15分。遂に魔王が動き始めた。


  と言っても、魔力がゆっくりと循環し始めただけで、身体が動いている訳では無いが。


 「お、ようやくか」

 「思ったよりは早かったね。何時間も待たされるのかと思ったよ」

 「それは嫌だな。ところで、悪魔達はどうするんだ?まさか今からまた敵対するのか?」

 「あんなに仲良さそうに一緒になって、剣を振ってたのに?」


  いや、そこまで仲が良さそうには見えなかったけどね?青年と騎士の悪魔は微妙に仲が良くなっただろうが、剣聖とは欠片も仲良くはなっていない。


  殺気を向けてないだけで、まちがいなく殺意はあっただろう。


  一体どこをどう見たら、そんなに仲良くなったと言えるのだろうか。


  偶に花音の感性が分からなくなる。


 「んー、やり取りを見ている限り、どうやら悪魔達は引くようだな。敵対の意志を感じない」

 「ほらやっぱり、仲良くなって殺すのが嫌なんだよきっと」

 「んなわけねぇだろ。あっちの青年はともかく、剣聖はバリバリ殺る気だったぞ。今回は悪魔達が引くから追わないだけで、奴からすればこのまま殺りあっても問題なかったはずだ」


  現に、闘気が溢れている。悪魔達は、何とかたじろぐのを我慢してその場に踏みとどまったように見えた。


  そして、次の瞬間。悪魔達は魔力に包まれて消えた。


 「転移!!やっぱり持ってたか」

 「いいなぁ。移動も一瞬だよ?長い空の旅をしなくて済むから、今日ももう少し寝れたのに」


  確かにそれは便利だが、問題はそこでは無い。


  あの二体の悪魔はとてもでは無いが、転移関係の能力を持っていたようには見えない。


  もし、持っているなら戦闘の時に使っただろう。


  それに、悪魔だろうが人間だろうが使える能力に必ず何かしらの共通点がある。


  今までの悪魔達が使った能力を見る限り、空間に干渉する能力は無かったはずだ。


  1番あり得るとしたらあのカラスの悪魔だが、既に塵となって死んでいる。


  ここから推測できる、1番可能性のある仮説は転移できる魔道具を持っている事だ。


 「厄介だな。転移関係の魔道具なんて探しても無かったぞ。それを悪魔達は持っているかもしれないのか.......」

 「魔力さえあれば誰でも使える転移とか便利すぎるね。全ての悪魔が神出鬼没。何かしらの制限があったとしても、あぁやって逃げられたら追う手段が無いよ」

 「何個も持っているとは思えないが、1つ持っているだけでも面倒だ。出来ればなるべく早く始末したいな」


  もしかすると、神聖皇国であったあの空き巣犯も転移の魔道具を持っていたのかもしれない。となると、あの空き巣犯は悪魔だった?


  そう考えれば未だに見つからないのも納得できる。悪魔達の拠点は巧妙に隠されているのか、よっぽど田舎にあるのか、子供達でも見つけれていない。


  そこに転移で逃げれば俺たちの目を振り切れるのだ。


 「チッ、何か対策を考えておかないとな。もし、魔王にも転移の魔道具を使われたら間違いなく逃げられる」

 「それは困るね。子供達の目にも限界があるし」


  面倒事がひとつ増えた事にうんざりしていると、剣聖は青年に何かを渡して遠くへ行くように指示を出す。


  流石に、魔王との戦いでは青年を守りきれないと考えたのだろう。


 「会話が聞きたいな。流石に、この距離から気づかれないように聞くのは厳しいが」

 「身体強化もやり過ぎると魔力が漏れて見つかりやすくなるもんね。読唇術とか覚えれば良かったかも」

 「口の動きだけで会話の内容が分かるやつか。確かに習得しておくのはありかもしれないな」


  役に立つ場面は限定的だろうが、それでも身につけておいて困ることは無いだろう。


  問題はそれを習得する時間があるかどうかだが。


  もちろん、イスと遊ぶ時間や他の団員達との交流する時間を減らせば時間の確保は簡単だが、定期的なコミュニケーションは円滑な人間関係に必要不可欠である。


  .........アイツら人間では無いから、魔物関係か?


  そんな事を考えていると、遂に魔王が動き始めた。


  右腕の獅子が口を大きく開くと、そこに魔力が集まり凝縮されていく。


 「すげぇ魔力量だな。暴食の魔王君はその実力を発揮する前に殺られたら、今回は中々の見物になるぞ」

 「んーでも、あの程度じゃ剣聖を倒せないでしょ。多分あの魔力ごと切り裂くよ?」

 「まぁ、だろうな。まだ様子見なんだろ。知らんけど」

 「あの程度なら寝てても防げるの」

 「ははは。それは頼もしいな」


  俺は笑いながらイスの頭を優しく撫でる。いつものようにヒンヤリとした冷たい髪が、俺の手を冷やす。


  イスはただニッコリと笑って頭を撫でられていた。


  魔王は口に集まった魔力を吐き出して、剣聖に攻撃する。その光景はまるでドラゴンのブレスだ。


  あまりに凝縮され過ぎて、可視化された魔力の線が剣聖を襲うが剣聖がその程度でやられるわけがない。


  剣聖は剣を振るうと、魔力の線を細切れにする。


 「速っ。あの一瞬で何回振ってんだあれ」

 「見えるけど、数えるのは面倒だね。でもまぁアレなら避けれるかな?流石に1回だけ放ったあの抜刀は無理だけど」

 「あれは見えても身体が反応できねぇよ。異能で無理矢理守るしかない」


  抜く前に何か予備動作が分かれば避けられるだろうが、一度見ただけでは流石に分からない。


  もう3~4回振ってくれないかな。そしたら何か見つかるかもしれない。


  初撃をあっさりと受けられた魔王は次の手に出る。カラスの悪魔がやったように、剣聖を拘束した。


  しかも、身体だけではなく座標も固定しているのが分かる。コレでは、外部からの干渉を受けても逃げれない。


 「魔王の奴、動いてないだけでちゃんと戦いは見てたようだな。剣聖はどう動く?」


  再び獅子の口から放たれる閃光。避けようのないその攻撃は、剣聖を飲み込む...........はずだった。


 「は?マジか。何でもアリかよあの爺さん」

 「うわ、最早剣じゃないじゃん」

 「それは予想外なの」

『確かに。予想外』


  剣聖はなんと、魔力で見えぬ剣を二本創り出してその閃光を斬り裂いたのだ。


  具現化の異能では無い。単純に魔力を集めて剣を創り、それを魔力操作で操って切り裂いたのだ。


  無茶苦茶すぎる。


  やってる事は魔力操作のみ。自身から魔力を切り離してはいないので、一応魔法とは分類されないだろう。


  俺がやっている魔縮に似ているが、向こうは難易度が桁違いだ。


  俺も昔、同じことを考えてやった事があるが無理だった。


  基本的に、無属性魔力は異能にリソースを割いている為か自由が利きづらい。


  特に自分の身体から離れれば離れるほど、その操作は難しくなる。


  なのにあの爺さんはやってのけているのだ。しかも、剣を二本も作ってそれを信じられない速さで振るっていた。


 「..........なるほど。人類最強と呼ばれる訳だ。本気を出していないから分からんが、恐らく俺より強いな」

 「これは、久々にしっかりと修行しないといけないかもね。タイマンだと普通に負けるかも」


  魔王も勝った気になっていたのか、閃光が掻き消された瞬間身体が固まってしまっていた。


  そして、剣聖がその隙を逃すわけが無い。


  獅子の首は神速の居合に切り落とされ、距離を取ろうとするも一本足を落とされる。


  四足歩行の魔王だが、足一本失うのはかなりの痛手だろう。


 「なんか魔王を応援したくなってきた」

 「分かるかも」


  頑張れ魔王!!この理不尽ジジィに負けるな!!

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