人類最強VS魔王①
バッドスを逃がした剣聖は、楽しそうに魔王と向き合う。
久々の強者、剣の頂きに辿り着いた剣聖とまともに戦える者は少ない。大体の強さは察しているが、少なくとも剣聖の中では必要最低限の強さはあると判断した。
魔王はゆっくりと動き始めると、剣聖に話しかける。
「我を待つとは中々豪胆な人間だ。その心粋に免じて、楽に殺してやろう」
「ほっほっほ。開口一番がそれとは随分と面白いのぉ。そこは“僕が動けるようになるまで待ってくれてありがとうございます”じゃろうて」
明らかな挑発に眉をピクリと動かす魔王。しかし、ここで怒りに任せて攻撃をしようものなら思う壷だ。
魔王に着いている全ての目が、剣聖を睨む。
両肩に着いた山羊の頭、右腕の獅子。そしてエルフのような耳を持った顔。その全てが剣聖の動作を監視する。
「ほっほっほ。そんなに見つめられると照れるじゃろうて。儂に惚れでもしたか?」
「寝言は死んでから言うべきだ。冥府へ送ってやろう」
魔王はそう言うと、右腕の獅子を剣聖へ向ける。
「ほう。それが開戦の狼煙かのぉ」
「ほざけ。コレで貴様は終わりだ。人間」
獅子が大きく口を開くと、そこに魔力が集まっていき凝縮される。
剣聖は撃たせないという選択肢もあったが、あえて受ける事にした。直ぐに終わっては面白くない。
「では、死ね。
獅子の口から放たれたのは閃光。凝縮した魔力が一気に解放され、高熱を持って剣聖に襲いかかる。
まともに受ければ死。避けても余波で吹き飛ばされる。
だが、それは普通の人間の話だ。相手は人類最強。今まで様々な魔物と能力と技術と戦ってきた。この程度の攻撃を防ぐのは造作もなかった。
「ただ凝縮された魔力如き、斬れぬ道理はないわ」
剣聖は真正面から攻撃を受け止める。
目にも止まらぬ速さで振るわれた無数の斬撃は、魔力を切り裂き、熱をかき消す。
「ほっほっほ。まぁ、及第点じゃな」
時間にして0.1秒弱。瞬きするよりも速く剣を振り終えた剣聖は、呑気に笑う。
放たれた獅子の咆哮は、剣の前に静まり返る。
しかし、最初の一撃をいとも容易く防がれた魔王は、特に焦りはなかった。
「人間にしてはやる。今なら我が眷属に加えても良いのだぞ?」
「ほっほっほ。寝言は死んでから言うべきじゃな。誰が魅力の欠けらも無い
「この我が不細工だと.........!!この至高なる姿が分からぬとは。やはり人間は
怒りを噛み殺して魔王は、剣聖を睨みつける。馬鹿にされても、怒りに任せて攻撃をしてはいけない理性はしっかりと残っていた。
「今からその
もし、バッドスがこの会話を聞いていたら頭を抱えるだろう。何故わざわざ、虎の尾を踏み抜こうとするのかと。
そして、尾を踏まれた魔王は怒り狂う。
理性はあれども中はプライドの塊だ。とてもでは無いが、口喧嘩では剣聖に勝てない。
「次は手加減などせぬ」
「最初から手加減など要らんて。つまらぬプライドなど捨てて本気で来るが良い」
魔王は素早く魔力を練り上げると、次の手に出る。
剣が厄介なら剣を使えなくさせればいい。思考は悪魔と同じだった。
「先ずは止まれ。
「む.......」
獅子が剣聖を睨みつけると、剣聖の動きは完全に止まる。
剣聖の動きを封じただけではない。剣聖をその場に固定している。
これでは、先程のように外部からの干渉を受けて移動することが出来ない。
魔王は動いてはいなかったが、しっかりと悪魔との戦闘を見ていたのだ。
「さて、次はどう避ける?」
再び獅子の開かれた口に魔力が集まる。先程よりも明らかに魔力の量が多い。魔王はここで決めきるつもりだった。
「吠えろ、
再びの閃光が剣聖を襲う。先程は斬撃で全てを斬ったが、今回は身体が全く動かない。逃げようにも、座標を固定されてその場の移動すら叶わない。
勝った。
魔王はそう確信した。剣を振るえなければ、所詮はただの人。例え手が剣となろうとも、その手も封じてしまえばそれまでだ。
敗因はその傲慢さ。先手を譲り過ぎたのが敗因である。
しかし、剣聖はそれでも尚、慌ててはいなかった。
「ふむ、
剣聖がそう呟いた瞬間、解き放たれた咆哮の閃光は打ち消さる。
「...........は?」
何が起こったのか分からなかった魔王は、ほんの一瞬固まってしまった。
そしてそれが命取りとなる。
「悪さをしとるのはその目じゃな?」
見えぬ斬撃が獅子の目を襲い、獅子は痛みのあまり悲鳴を上げる。
獅子の目から逃れた剣聖は己の体の自由を確認すると、素早く仕込み杖を構えて抜刀した。
「2度目じゃ、天地断絶」
神速の居合。
痛みに悲鳴をあげ、持ち上がった首を目掛けて放たれたその剣は、いとも容易く獅子の首を落とす。
一瞬の攻防。魔王は一切防御できずに、右腕を落とされた。
「チッ、人間風情が我の右腕を奪うとは........」
流石にこれは堪らないと、魔王は急いで距離を取る。
剣の届く範囲は大体1km前後。それよりも距離を取れば一先ずは攻撃は来ないと考えた。
だが、それを許す剣聖では無い。
「逃げるでないわ」
剣聖は剣を振るい、魔王の足の一本を斬り飛ばす。
魔王は何とか反応し防御しようとしたものの、それよりも早く剣が届いてしまった。
「グッ!!」
足をもがれた魔王は、バランスを崩して地面へとその馬の胴を打ち付ける。
木々がへし折れその破片が飛び散るが、剣聖に当たることはなかった。
剣聖は魔王に近づくと、話しかける。
「ほっほっほ。儂の動きを封じたところで、儂の剣を止めれる訳が無かろうて。ほれ、どうする?色欲の魔王........あーあ........なんて名前じゃったっけ?」
「アスモデウスだ。
「医者が必要なのはどう見てもお主はじゃろうて。悲鳴を挙げぬのは大したものじゃが、血の匂いは強くなるばかりじゃぞ?」
「この程度で勝った気になって貰っては困る。これだから人間は愚かなのだ。2500年前から何も変わっていない」
魔王はそう言うと、残った三本の足で立ち上がる。
そして、口を大きく歪めて笑うのだった。
「戦いはまだ序章だぞ?人間よ」
「ほっほっほ。それは楽しみじゃわい。精々楽しませてもらうとするかのぉ」
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「うをっ!!怖っ、大木が飛んできたんだけど......剣聖様、大丈夫かなぁ」
剣聖の言いつけ通り1kmほど離れ、魔道具を起動したバッドスは体育座りをして呑気に剣聖の帰りを待つのだった。
この戦いで、彼のメンタルはかなり鍛えられただろう。
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