人類最強VS悪魔③
脳天から一刀両断されたカラスの悪魔は、女性貴族の悪魔の後を追うように塵となって消えていく。
この時点で、悪魔達に勝ち目は無くなった。
多種多様な攻撃と妨害ができるカラスの悪魔は、この剣聖との戦いに置いて絶対に必要な存在だ。
それが欠けた今、ワンチャンスすら作るのは困難だろう。
「魔王様が万全になるまで後どのぐらいかかる?」
「分からん。しかし、相手が待ってくれているのは好都合だ。今やるべき事は頭を地面に擦り付けてでも、時間稼ぎをする事。魔王様が動けるようになれば、我々にも勝機はある」
魔王はまだ動かない。否、動けない。
悪魔達だけでは剣聖に敵わない今、魔王だけが頼りである。
「ふむ。どうやらあちらは時間稼ぎがしたいようじゃのぉ。後ろに控える魔王とやらが動くのを待っておるのかのぉ?」
「な、なら、今のうちに悪魔達を倒してしまうべきでは?」
バッドスの言うことは最もだ。剣聖が悪魔達を瞬殺できるのは分かっている。
魔王が動き始める前に悪魔達を倒して、魔王も倒してしまえばそれで終わりなのだ。
しかし、バッドスは分かっていなかった。人の領域を超え、人として超越した存在である者の気狂いを。狂気とも呼べるその思考を。
「バッドスよ」
「は、はい!!」
「魔王が動けるようになるまで、儂が剣を教えてやろう。そこの悪魔達も来るがよい」
「「「...............は?」」」
悪魔もバッドスも心の中でこう思う“何を言っているんだこのジジィは”と。
「け、剣聖様?」
「ん?なんじゃ?」
「その、剣を教えて頂けるのは嬉しい限りなのですが、その前に魔王を討伐しなければ.......」
「動かぬ木偶を切って何が楽しい?厄災級魔物よりも強いと言われる魔王じゃぞ?お互い万全な状態で戦いたいじゃろうて」
人類の存続をかけた戦い。魔王を倒せるならその時に倒した方がいい。そう考えるのが普通だ。
なのに、剣聖は魔王が動けるようになるまで待つと言う。
狂っている。バッドスはそう思った。
いや、バッドスだけではない。悪魔達も同じだ。
もし、剣聖よりも魔王が強ければ、剣聖は死ぬことになるのだ。にもかかわらず、魔王の全快を待つ。思考回路が普通ではない。
「ほれ、剣を握れい」
「え?あ、はい」
「ほれ、お主らも来るのじゃ、時間稼ぎがお主らの目的じゃろ?乗ってやるからちと付き合え」
「あ、あぁ、分かった」
「僕、剣は使わないんだけど.......」
「構わん構わん。早う来い」
こうして始まった剣聖による剣の指導。
弟子を取らない事でも有名な剣聖の指導を受けられるのは、バッドスにとっては夢のようだった。
その隣で、一緒になって剣を振るう悪魔が居なければだが。
「おい、強き剣士よ」
「.......私の事ですか?」
「他に誰がいる?それよりも、あの老人は何を考えている。普通我らにも剣を教えるか?頭が狂っているとしか思えんぞ」
「私に聞かないでください。私だって同じことを思ってるんですから.......後、バッドスです」
「バッドスか。良い名だな。覚えておこう」
悪魔に名前を覚えられても嬉しくないが、今はお互いに被害者である。
つき先程まで殺しあっていた仲だが、この異常とも呼べる境遇の中では大した問題ではなかった。
「なぁバッドスよ。人間とはこれ程にまでイカれているのか?何故敵である我にも剣を教える」
「全人類をこの人に当てはめないで下さい。あの人がおかしいだけです。剣に生きてきたお方です。恐らく、剣を持つ者は皆兄弟とでも思っているのでしょう」
「まぁ、我らからすれば時間が稼げて良いのだがな.......」
「私からすれば絶望以外の何物でもないですけどね。人類を滅ぼさんとする魔王相手に、何を悠長なとは思いますが、私ではどうしようもないですから」
「ふはは。そうだな。しかし、バッドスよ。魔王様は別に人類を滅ぼすつもりは無いぞ」
「え?」
悪魔から語られた予想外の一言。お互いに敵対していたのなら、嘘をつけと聞く耳を持たなかっただろう。
しかし、こうして隣で一緒になって剣を振るう今ではその言葉はすんなりとバッドスの耳に入った。
「多少の人間は死ぬだろうが、目的は別なのでな。おっと、これ以上は話せん。しかし、ヒントはやろう。こうして一緒に剣を振るった仲だ。罰は当たるまい。先代勇者を知れ。それが答えに繋がる」
先代勇者つまり、魔王を封印した勇者ナハトのことを調べろと言っているのだ。
「何故私にそれを?」
「ただの気まぐれだ。真実を知る人間が何人かいてもよかろう。それに、
所詮は悪魔の戯言。そう言って笑い飛ばせば済む話だが、バッドスの耳にはその言葉が残るのだった。
「.......気が向いたら調べてみましょう」
「それでいい。真実を知らない事も、また1つの真実だ」
悪魔と人間。決して相いれないはずの2人の剣は、同じ時を斬るのだった。
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魔王の復活場所から3km程離れた山の山頂、そこで剣聖の戦いを見ていた俺たちは困惑していた。
何故かって?そりゃ人間と悪魔が横に並んで一緒に剣を振っているからだ。
「なぁ、俺の見間違いじゃなければ、剣聖が悪魔に剣を教えているように見えるんだが、気のせいか?」
「気のせいじゃないね。青年と騎士っぽい悪魔には剣を、鹿の悪魔には戦い方を教えているように見えるね」
いったい何が起こっているのやら。
「あれって魔王が動くのを待ってるのか?」
「多分、そうじゃない?そして、悪魔達は魔王が動くまでの時間稼ぎができるから、剣聖の提案に乗ったって感じだと思うよ」
「剣聖は万全の魔王と戦いたい訳だ。気持ちは分かるけどな」
あの島で徐々に強くなっていったあの頃、最初は生き残るのに必死でどんな卑怯な手段でも使ったが、ある程度まで強くなると、今度は自分の強さがどこまで通じるのか確かめたくなるのだ。
まぁ、それで死にかけた事も何度かあったりするが。
「こうなると魔王が動くまで暇だな」
「そうだね。っていうか、なんで魔王はまだ動かないの?暴食の魔王は直ぐに動いてたのに」
「動こうと思えば動けそうには見えるけどな。何か不自然な所も無いし」
「魔力も特に乱れてる訳じゃ無いもんねー」
魔王に関しては、分からない事が多い。
どちにしろ今は暇なので、俺はマジックポーチからジュースを取り出すと適当な木の根に座ってのんびりする。
「魔王が動くまでは待機だな。やる事ないし」
「そうだねー。イス、なにか飲む?」
「んー飲み物よりもトランプで遊びたいの!!」
「じゃ、七並べでもやるか」
『ワタシもやる』
こうして、魔王が動くまで和やかな空気がその場を漂うのだった。
ちなみに、魔王が動き始めたのは、それから15分後のとこである。
思ってたよりは早かったな。
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