外野の監視者②
剣聖がさも当然の様に炎の中から出てきて、青年を救う。
助けられた青年は涙ぐんでいた。
「大剣を持った悪魔は一旦距離を置いたな。ってか新しい大剣が出てきたな」
「んー?あの大剣、さっきとは違うよね?なんか禍々しいんだけど」
「違うと思うぞ。見た目は同じだが、雰囲気がまるで違う。多分さっきの大剣はレプリカとかだったんじゃないか?」
漆黒の刃に、柄のところには目のような模様が入っている。
先程の砕けた大剣は、あの目が生きているようには見えなかったが、今はギョロギョロと動いているのが分かった。
恐らく、魔剣と呼ばれる類の武器だろう。
魔剣は、何かを代償に様々な能力を使うことができ、言うなれば具現化系の剣と同じような扱いだ。
中には所有者の自我を奪う様な危険な物もあり、魔剣はあまりいい目で見られない。
人は悪い事ばかりを覚えているからな。
過去に何度か、国をも揺るがす大事件を起こしており、魔剣は危険な物と言う認識が世間一般では広がっていた。
「それにしても、魔王は何をやっているんだ?まだ感動してるのか?」
「流石に長いね。でも、動く気配が無いし、どう言うことなんだろう?」
「魔力も動いてないの。まるでお人形さんなの」
イスの言う通り色欲の魔王アスモデウスは、全くと言っていいほど何も動かない。
暴食の魔王は復活して直ぐに動いていたのを見ると、何か特別動けない訳では無いと思うのだが。
「魔力も動いてないとなると、いよいよ不気味だな。何か準備しているならともかく、本当に何も動いて無い。電源でも落ちたか?」
「機械仕掛けの魔王君」
流石に瞬きすらせずにずっと固まっているのを見ると、心配になってくる。本当に大丈夫だよな?アレ復活した瞬間に死んだとか無いよね?
魔王の事を心配していると、剣聖が剣を振るった。
隕石を斬り裂いた時よりも遅い斬撃。
しかし、それでも悪魔達は反応出来なかった。
「すげぇ。さっきの隕石もそうだけど、剣を振るった後に攻撃したように見えるよな。あの剣を納刀したと同時に砕け散ったのカッコよかったもん」
「仁もやってみたら?ほら、異能で剣は作れるでしょ?」
「作れるけど、あんなに速く剣を振るえる訳ないだろ。ある程度なら剣を振ることはできるけど、流石に剣の頂きに立つ者と同じようには無理だ」
俺は、剣を最速で振るえるように訓練をしている訳では無い。多分、拳の方が剣の数段速いしな。
ズルりと落ちた女悪魔の首は、静かに地面を叩くとそのまま塵になって消えていく。
今の一閃を見る限り、剣聖はその気になれば悪魔達を瞬殺できるだろう。
それをしないのは、後ろにいる青年に自分の剣を見せるためなのかもしれない。
『........もう少し監視の時は距離を置かせる。あの速さで剣を振るわれたら、他の子供たちは反応できない』
「それがいいと思うぞ。剣聖の剣が影を斬れ無いとも限らないしな」
「影を斬るってどうやるの?」
「さぁ?でも、剣聖だぞ?人類最強だぞ?影どころか空間を斬るぐらい出来るかもしれん」
ところで、空間ってどうやって斬るんだろうね?俺の場合は空間を崩壊させてしまえばいいだけだけど、斬るってなんかピンと来ないな。
でも、漫画や小説に出てくる最強格の剣士は空間を斬るとか何とか書いてあったし、多分この爺さんもできるでしょ。知らんけど。
さて、悪魔と剣聖に視線を戻すと、もの凄く殺気立った悪魔が剣聖に攻撃を仕掛けるところだった。
カラスの悪魔が再び何か能力を使用したようで、剣聖の周りを魔力が覆っている。
恐らく、仕込み杖を固定した時のように剣聖を動けなくさせたのだろう。
そして、その隙を逃すほど悪魔たちものんびり屋ではない。
先程放った炎の攻撃よりも、さらに魔力を含んだ一撃。
防御出来れば何とかなるかもしれないが、剣聖は今動けない。
どう対応するのかと見ていると、剣聖は剣を伸ばして無理やり自分の身体を動かした。
「おぉー面白いな。剣聖の動きを固定しただけであって、座標は固定してないもんな。そうやって逃げれる訳だ」
「今思いついた感じじゃないね。前にも同じような事を経験したのかな?」
「可能性はありそうだな。明らかに今の対応の仕方に慣れていた。動きを止めれば勝てると思ってた悪魔達の負けだな」
悪魔達の渾身の一撃は無惨にも空を切り、砂煙を舞いあげる。
「バカだなぁ。無理やりにでも青年を狙えばまだワンチャンあっただろうに。剣聖も、あの青年は見捨てないだろうから攻撃を受けてくれる可能性はあったぞ?使えるものは使わないと」
「うわぁ、悪魔よりも外道じゃん」
「ちなみに、花音が悪魔の立場だったらどうした?」
「え?もちろん青年を狙うよ?そこで青年を殺せれば、剣聖のメンタルに少しでも傷がつくかもしれないし、勝ち目が無いなら無いでやれる事はあるからね」
結局お前も外道じゃねぇか。
まぁ、戦場に勝手に残っている青年が悪いっちゃ悪いのだが。
そんな事を思っていると、膨大な魔力が渦巻く。
「ん?あのカラス、魔力が無いのに魔力を練り上げてるぞ?」
「......あれは、魂?」
「魂?」
「ほら、禁術を使う時に必要な魔力の器。多分、魂を消費して、無理やり魔力を作り出したんだよ」
そんな滅茶苦茶な事ができるのか。
寿命を縮めるのは間違いないが、無理矢理にでも魔力を練り出せるのは便利である。
どの程度の魂を消費したのかは知らないが、あれほどの魔力をゼロから作り出せるのならばかなり強力な切り札になるだろう。
「ま、剣聖がそれを許してくれる訳が無いけどな」
俺は宙に浮いている剣聖に視線を移すと、拘束から逃れた剣聖が剣を腰に構えていた。
まだ納刀状態。構えからして、抜刀をするのだろう。
そう思ってみていた次の瞬間、俺の目でギリギリ捉えられる速さで剣が振るわれた。
隕石を斬り裂いた時よりも数段速く、神速と言っても過言ではない速さ。
あまりの速さにその剣圧で森の炎は完全に鎮火され、カラスの悪魔は音もなく塵となって消えていく。
正に剣聖。正に人類最強。
人の限界を超え、尚も研磨を続けた者が到達できる頂き。
思わず拍手を贈りたくなるぐらい、その剣は速く美しかった。
「ねぇ、仁。今の抜刀、避けれた?」
「無理無理無理。あんなクッソ速い抜刀を初見で避けれるわけが無いだろ。やってることはただの抜刀だから、魔力による予備動作もない。あるのは剣が届くまでの僅かな猶予のみ。しかも、人の限界を超えた一刀だぞ?反応できても、避けるにはちょいと厳しい」
身体強化はしているから、真っ二つに斬られる事は無いだろうが、間違いなく大きい傷は貰う。
良かった偵察に来てて。もし、戦争中にこんなのが飛んできたら酷い目にあっているところだ。
「コレは剣聖の警戒度を引き上げとかないとな」
「そうだね。それと、剣聖と同列に並べられる冒険者や騎士達ももう少ししっかり調べた方がいいかもね」
「だな」
もしかして、ロムスやジークフリードってこのレベルで強いのか?
だとしたら、俺達ももっと強くならないといけないな。
俺はそう思いながら、剣聖を見るのだった。
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