使えない女神め

  スンダルとストリゴイの吸血鬼夫婦が俺を酒の沼に落とそうとしてから、2日後。いつものように聖堂で報告書を眺めていると、シルフォードがやって来た。


  どうでもいい話だが、最近はかなりヨルムンガンドと仲がいいらしく、お昼も一緒に食べたりするそうだ。


  ラナーはジャバウォックと仲がいいし、トリスはケルベロスと仲がいい。


  三姉妹は随分とこの傭兵団に馴染んできただろう。最初はあんなに怖がってたのになぁ。


  ちなみに、シルフォードに想いを寄せているエドストルは同僚としてしか見られていない。魔物に負けてるってマジ?


 「どうしたシルフォード。まさか報告書の追加か?」

 「うん。神託が下ったみたい」

 「おーそうかそうか。そこら辺に置いて........神託?!」


  あまりに自然に告げられたから、スルーするところだった。


  もう少し、重要な報告書を持って来ました感を出してくれ。


  俺はシルフォードから報告書を受け取ると、その紙をペラペラとめくって確認する。


 「........なるほど、シルフォードが焦って持ってこないのも頷けるな」

 「でしょ?殆ど知っていることばかりだし、復活の日が分からない。使えない女神」

 「ねーねー。どんな内容だったの?」

 「魔王の封印場所についてさ。正教会国の首都に近いとある遺跡。名前も付いていないような小さい遺跡の所に、魔王が封印されてますよって言う神託だ」

 「それだけ?復活の日時は?」

 「俺達の反応を見て、あると思うか?ほんと使えねぇ女神様だこと」


  はぁ、と俺はため息を着く。既に知っている情報だし、なんなら正教会国や神聖皇国にこの情報は流してある。


  今頃両国の上層部辺りは、ガッカリしているだろう。


 「場所が分かるだけマシっちゃマシだが、何時復活するのか分からないと、どうしようもないぞ。下手したら年単位で待たされるかもしれないんだからな」

 「うわぁ、嫌だねそれは。軍を動かすのもタダじゃないのに。女神って人間の事が分かってないねぇ」

 「そもそも、女神が魔王を片付ければ全て丸く収まるのでは?団長さんや副団長さん達を召喚できるだけの知識と魔力があるなら、魔王程度一捻りだと思うけど」

 「神にも色々とルールがあるんだろ。知らんけど」


  神は地上に干渉できないとかな。


  神託や俺達の召喚の手伝いなど、色々と干渉はしているが派手に女神が暴れたりとかはできないのではないかと思っている。


  でなければ、俺達をこの世界に召喚した意味が無いからな。


 「まぁ、とりあえず神託があったって事は、国は動くはずだ。国の動きは何か掴んでいるか?」

 「神聖皇国が勇者を送ろうかと正教会国にも打診したようだけど、正教会国側はこれを拒否しているらしい。下手に人を送ると戦争になりかねないから、神聖皇国の教皇も困ってる」


  まぁ、正教会国側からすれば人手を借りたくは無いのだろう。


  ただでさえ、宗教としての格が生まれているのだ。更に人手を借りたとなれば、国のメンツは潰れに潰れてしまう。


 「しかし、便利だよな。この遠話魔道具。国と国のやり取りはこれで簡単になる」


  遠話魔道具。それは文字通り遠くの者と話せる魔道具だ。言ってしまえば、携帯と同じである。


  かなり高価な魔石が必要な上に、燃費も悪くせいぜい話せて5分から10分程。更に、作るにはかなりの技術が居るらしくこの世界でも作れるのは両手に数える程しかいないそうだ。


  それでも、手紙よりも確実に届き、簡単に話ができる利点は大きい。この魔道具はほぼ全ての国が持っていた。


  じゃなきゃ、普通に移動して二ヶ月もかかるアゼル共和国に神聖皇国からの情報は入ってこない。


 「スマホの方が便利だけどね」

 「それを言ったらお終いだろうが。地球と比べるな」


  こう言う機械関係はどうしても地球の方が優れている。魔力がない分、科学を頼った結果だな。


 「あ、そうだ。何か掴んだか?神聖皇国の大聖堂に封印されていた場所と、正教会国のとある遺跡の封印場所の共通点」


  俺は魔王の封印場所には、何か意味があるのではないかと思っている。


  神聖皇国とは真反対の正教会国に封印するのは、かなりの労力だ。恐らく、あそこでなければならない理由があったのでは?と思っている。


  俺の質問に、シルフォードは首を振る。


 「子供達の報告には何も無かった。2つだけだと、どうしようもない。せめて3つは欲しいって言ってはいたけど」

 「まぁ、しょうがないか。2つだけだと、共通点なんて腐るほどあるだろうしな」


  俺達がまだ見つけていない、3つ目の魔王封印場所を教えてくれたら、魔王探しが捗ったのに。ほんと使えねぇ奴だな女神め。


 「正教会国はどうするの?」

 「前にも言ったが、復活したら見に行くぞ。世界最強が戦うだろうし、相手の戦力を知るいい機会だ」


  剣聖ゴルド。世界最強とも呼ばれる奴がどれほど強いのか、見ることの出来るいい機会だ。


  もし、俺よりも強ければかなり警戒しないといけない相手になるだろう。


 「あ、そうだ。ウロボロスさんから報告。結界はかなり強めに張ってあるから、団長さんほどの人間じゃなきゃここには辿り着けないって」

 「なら、いいか。元老院の娘のことを調べたが、かなりお転婆らしい。下手をすると、街を抜け出してこの森に入るかもしれないからな」

 「それ、お転婆って言うか、甘やかされて育った世間知らずだよね。箱入りってレベルじゃないよ」

 「今まで痛い目に会わなかったのは、単純に運が良かっただけだろうな。軽く調べただけでも、20回以上人目をすり抜けて街に護衛を付けずに繰り出している。多分、異能が関係しているだろうが、相手が格上なら意味が無いぞ」


  認識阻害系の異能は、相手の力量差が大きいと全く効果を発動しない。そのお嬢様が化け物じみた強さを持っているなら別だが、子供達が監視できている時点でお察しだ。


  剣聖やジークフリード、ロムス並に強いと監視するのも一苦労だが、そのお転婆お嬢様は余裕らしいし。


  剣聖もジークフリードもロムスも、一定の距離を保てば問題ないらしいが、近づけば気付かれる辺り流石は強者だ。自分の警戒区域をしっかりと持っている。


 「ねぇ団長さん。話は変わるんだけど、ウロボロスさんってアスピさんのこと好きなのかな?」

 「凄い急に話が変わったな。なんでそう思う?」

 「だって、ウロボロスさん、私がここに来てからずーっとアスピさんと一緒だよ?片時も離れている所を見た事が無いよ」

 「んー言われてみればそうだね。アスピちゃんのところ遊びに行くと、ウロちゃんもいるね」

 「確かに」


  最初は久しぶりに会った友人との話したいからだと思っていたが、最近は話していないのに隣にいるな。


  そして、アスピドケロンもニコニコしながら、その隣でのんびりしている。


  まるで熟年夫婦だ。


 「私達の中では最近その噂で盛り上がってる。団長さんなら何か知ってるかなって」

 「んー、特に何か知ってるって事はないな。でも、話を聞いて2人の様子を見る限り、俺と花音の様な関係かもな」

 「団長さんと副団長さんの関係は?」

 「「なんだろう?」」

 「なんで分からないの......」


  夫婦では無いが、恋人以上ではある.......今度花音に指輪でも買うか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る