超新星
その日、バルサルではある話題で持ち切りだった。
“とある傭兵がバルサル最強であるバカラムを倒した”と言う噂はあっという間に広がり、その傭兵の正体は何者なのかと憶測が飛び交う。
戦闘に優れたただの人間、若く見えるだけで実は100年以上生きていたエルフ。中には悪魔や魔物なのではないか?と言う中々にぶっ飛んだ噂まで。
様々な憶測が飛び交い、人々はその傭兵の事をこう呼んだ“
多分、観客席にいた傭兵と衛兵のやり取りを聞いていた市民が居たのたのだろう。
この二つ名もあっという間に広がり、
「すっごい目立ってるね。
「誰が億超の懸賞首だ。そもそも指名手配なんてされてねぇよ」
俺は、机に並べられた紙の束をペラペラと捲りながらため息を着く。
既に買い出しは済ませて、今は拠点で日課の報告書の確認をしている。
二つ名が付いたのは喜ばしい事だが、なぜに
傭兵になってもう一年以上経っているんだぞ?流石に駆け出しって事は無いだろうに。
でも、あの戦いで何か特徴的な戦い方をしたかと言われればNoである。
二つ名は基本的に、その人の特徴を捉えた名前が着くことが多い。
“双槍のバカラム”も槍を2本使うからそう言う二つ名になったしな。
「もうちょっと特徴的な戦い方をするべきだったな。やっぱり異能は使うべきだったか?」
「多分それでも
「マジ?」
「マジ」
何をやっても俺は、
「よいでは無いか!!どんな二つ名であろうと、これで
「確かにそうねぇ。私の時は“美鎌”だったかしら?ちょっと昔のこと過ぎて記憶が曖昧だけれども、その名前がついてからは人から見られる目が変わったわねぇ」
「へぇーそいつは面白いな。んで、なんでお前達は俺の部屋で酒盛りしてる訳?」
会話に入ってきたのは吸血鬼夫婦。しかも、金貨7枚もする高級酒をちびちび飲みながら、大量にある安酒をラッパ飲みしていた。
酒を肴に酒を飲むってか。一応、干し肉のツマミも用意しているようだが、それ以前になぜ俺の部屋で酒盛りをしているんだよ。
「いやぁ!!この酒が想像以上に美味くてな!!団長殿にも1杯どうかと持ってきたのだ!!」
「すっごく美味しいわよ?飲むのが勿体ないくらいに。でも、団長さんが買ってきたのだし、その味を知らないのは申し訳ないという事で、持ってきたのよ」
そう言って、どこからともなく取り出した小さなコップに酒を注ぐ。俺と花音の2人分だ。
「いや、飲まねぇよ?気持ちは有難いが、酒は飲まない主義だって言ってるだろ」
「んー私も要らないかな。前に飲んだけど、アルコールの味が口に合わないし」
「そういうでは無い!!一口だけでも飲んでみるのだ!!とても美味いぞ!!」
「そうよ。これを飲まないなんて、人性の半分は損しているわ」
ここまで押してくるのも珍しい。いつもなら“あっそ、飲む分が増えてラッキー”とか言いながらカブのみするのに。
これは、飲まないとしつこく飲め飲め言ってきそうだ。
俺は仕方が無いと諦めて、スンダルから酒の入ったコップを貰う。
そして、猫が水を飲むような感じでペロリと酒を舐めてみた。
「........んー、微妙。そもそもアルコールの味が好きじゃないんだよ。不味いって訳じゃないんだが、口に会わないな」
「仁、ちょーだい」
俺は持っていたコップを花音に渡すと、花音も同じようにペロリと酒を舐める。
そして、眉を顰めた後このコップをスンダルに返した。
「やっぱり無理。あまり美味しくない」
「あら残念。お酒の美味しさを分かって貰えれば、もっとお土産の酒が増えると思ったのに」
「おい待て。アレだけ買っておいてまだ足りないのか?」
一日2L近く飲むと想定して、1ヶ月分の酒は買い込んである。
それでも足りないというのかこのアル中は。
「足りない訳じゃないんだけれど、やっぱり沢山あった方がいいじゃない?もっと気楽に飲めるのだし。お酒はいくらあっでいい物よ」
んなわけあるか。
ただ、酒を増やして欲しい口実が欲しかっただけだろうが。
俺は内心呆れながらまた報告書の確認に戻る。
本当に自由すぎて困る。酒の布教をするのはともかく、仕事中に持ちかけてくるなよ。
「むむむ。団長さんを酒の沼にも落とすのは難しいわね」
「気長にやるしかあるまい。幸い、時間はたっぷりあるからな」
聞こえてるぞ、アル中どもめ。
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暴食の魔王ベルゼブブが討伐されてから、彼らは更に忙しくなった。
元々人目に触れてはならない者達だ。下手に動きすぎると、見つかってしまう。
「はぁ、流石に神経を削るな。人間とて、侮れるものでは無いと言うのがよく分かる」
「捨て駒は、そこら辺が分かっていないのが多いからね。私達のように、慎重に動く者達は重宝される。その分、仕事が増えるのは勘弁して欲しいが」
闇の中、誰にも見つからぬように気配を消して静かに駆けていく。
疲労はあったものの、今の彼らには休む時間はない。
「全く、もう少し使える奴はいないのか?なぜ2500年前から皆学ばないのだ。計画の内だったとは言え、奴らの強さは身に染みて分かっていただろうに」
「それが分からないから、捨て駒なんでしょ?取られても痛くないから注目を集めるために目立たせる。馬鹿も使いようね」
「だとしても、もう少し人員をおくって貰いたいものだ。二人だけでは手がまわらんぞ」
「文句を言わない。他の所だって大変なんだから」
「........そうだな。少なくとも神聖皇国の連中よりかは、忙しくないだろうな」
影は静かにため息を着くと、再び気合いを入れ直して自分の仕事に取り掛かるのだった。
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