VSバルサル最強

 コインが地面に落ち、巻き上がった小さな土煙が開戦の狼煙となる。


 先手を取ったのはバカラムだ。


  コインが落ちると同時に、身体強化を使って一瞬にして距離を詰めてくる。


 「いくぞ!!『紅蒼の炎氷槍コンフリクティングランス』」


  その手に現れたのは、紅と青の槍。


  事前に知っていたが、具現化系の異能はどこからともなく武器を取り出せるのが便利だな。


  例え手から離れたとしても、一旦異能を解除して再び発動させればまた手元に戻る。


  雑に武器を投げても問題ないのは、本当に便利だ。


 「フッ!!」


  先ずは顔を狙った単純な突き。ただし、その突きの速さはかなりのものだ。


  ただ、俺の実力を見るためなのか手を抜いているのがわかる。


  この程度の突きなら、俺でなくとも奴隷達や三姉妹でも簡単に避けれるはずだ。


  俺は軽く首を傾ける。


  突き出した右の紅い槍は、俺の真横を過ぎ去って空を突く。


  突きを外したことを確認したバカラムは、大きく後ろへ飛び退いて距離を取った。


 「今のは流石に避けれちゃうか。小手調べの一撃だけど、以外と避けれない人は多いんだよ?」

 「小手調べ?随分と悠長だな。戦場で殺りあってたら、今頃お前の首は胴体と泣き別れてたぞ?」

 「そんな事分かっているさ。ここは戦場じゃなくて訓練所。あくまでもお互いの実力を測る物だよ?」


  言っていることは間違っていないが、間違っている。


  そのセリフを吐けるのは、自分の方が強い場合だけだ。


 「随分とつまらんな。自分より強いやつの実力を測ってどうする?今、お前がやることは壁の高さを知ることだよ」


  俺はそう言って、散歩に出かけるような気楽さで歩みを進める。


  どこからどう見ても隙だらけ。好きな様に攻撃してきてくださいと言わんばかりだ。


 「おいおい。隊長を舐めすぎじゃないか?最初の一突きを躱したのは流石だけど、アレが隊長の本気だと思ってたら痛い目を見るぞ?」

 「あはははは!!そうならないのが彼なんだよ。俺達を纏めて相手しても鼻歌交じりに全員ぶっ飛ばせるだけの実力があるあるんだ。ウチの超新星ルーキーは強いぞ?」

 「馬鹿言え。あんな若僧に隊長が負ける訳ないだろ。この街最強のお方だぞ?」

 「良かったな。今日、その最強は変わるだろうよ」

 「なんだと?!」


  外野がギャーギャー何か言っているが、無視だ無視。


  どうせ勝つのは決定事項なんだ。だったら派手に勝ってやろうじゃないか。


  この場にいる誰もが俺の強さを感じ取れる程にな。


  あまりに気楽に歩いて距離を詰める為か、バカラムは何かあるのかと警戒して動かない。否、動けない。


  それなりの強者ならば感じ取れる重圧プレッシャー。その重さが彼の動きを止めていた。


  そして、槍が俺に届く範囲に入る。


 「どうした?射程範囲内エリアに入っぜ?突かないのか?それとも、ぶるっちまって突けないのか?」

 「いい性格しているねぇ!!」


  2度目の攻撃。次は容赦ない本気の一撃だ。


  流石は、白金級プラチナ冒険者に並ぶ実力があると言われているだけはある。


  その一突きは研磨され、芸術とも言える美しさを誇っていた。


  この速さなら、奴隷達や三姉妹も避けるのが精一杯だろう。


  あ、いや、守りに特化したゼリスならまだまだ余裕か。


  守りに関しては、本当に天才的な才能があるからなアイツ。その実力はドッペルや吸血姫夫婦が認める程だ。


  そんな下らない考えをしながら、俺は先程と同じ軌道を描く突きを同じように避ける。


  しかし、次はそれだけでは無かった。


 「紅炎展開」


  俺の頬が熱くなると同時に、槍から炎が溢れ出る。


  あぶね。魔力を多くタイミングが遅れてたら、髪の毛が少し燃えるところだった。


  更に追撃は続く。


 「蒼氷展開」


  左手に持つ、蒼の槍を逆手に持って地面に突き刺すと氷が俺の足を覆って足を固める。


  イスの持つ理を逸脱した氷では無い為、容易にこの拘束から抜けることは出来るが、せっかくだし最後まで攻撃を受け切るとしよう。


 「捉えた。千突紅炎」


  素早く引き戻された燃える槍を、再び突き出してくる。


  んーどうやって防御しようか。


  1番楽なのは、俺も異能を使う事。俺の異能の本質である崩壊を使わずとも、あの黒い玉は防御に優れている。


  しかし、それだけでは芸がない。


  なんか、こう、カッコイイ避け方とかいなし方とかあるかな。


  迫り来る槍を呑気に見ながら考えてると、1ついい案が頭に浮かぶ。


  やっぱり槍の受け止め方と言ったらこれでしょ。


 「んなっ........」


  バカラムが絶句するのも無理はない。彼もかなり本気の突きだったはずだ。


  それを、人差し指と中指で摘まれて止められるとは思っていなかっただろう。


  それに、炎が燃え盛る熱い槍を真っ向から受け止めている。


  普通の人間なら今頃俺の指は焼き切れているはずだ。


  魔力による身体強化と少しの魔縮で、その炎から強引に自分の指を守っている。でも、ちょっと熱い。


  何とか槍を引き戻そうとするバカラムだが、直ぐに離してしまうと観客に何が起きたのか理解して貰えない。


  もう少し待とうねー。


 「かなりショックだよ。今のは割と本気で突いたはずなんだけど。一体君は......何者なんだい?」

 「何者って言われても、普通の傭兵さ」

 「んなわけないだろうに。僕の千突紅炎の初動を止めたのは君が初めてだよ」

 「そりゃ光栄だ。でも、この程度なら出来るやつを何人が知っているぞ?」


  恐らくだが、龍二や光司辺りはやろうと思えばできるだろう。


  避けた方が怪我をするリスクが低いから、態々やるとは思えないが。


 「あはは!!世界は広いねぇ。僕は僕が最強だとは思っていないが、強い方にいるとは思っているんだよ?」

 「それは間違っていないが、上には上が居るという事は知っておいた方がいい。俺よりも強い奴も居るからな」


  あくまでファフニールから聞いた話だが、ファフニールよりも強いなら間違いなく俺よりも強い。能力による相性差はあるものの、苦戦は必至だろう。


  いつか、会う日は来るのだろうか。


 「それは怖いね。僕はまだまだヒヨコなわけだ」

 「そういう訳だ。さて、そろそろ幕引きといこう。買い物の時間があるんでな」


  俺は槍を離すと同時に、バカラムの後ろへと回り込む。


  足を固定していた氷など、なんの障害にもならない。


  ほんの一瞬、気配を大きく見せた後に気配を全力で消した為、バカラムは俺を見失った。


  少し違うが、明るい所から急に暗いところに行った時に目が見えなくなる現象に近い。


 「っ!!どこに消えた?!」

 「こーこーだーよー」


  トンと、首に手刀を当てる。


  漫画でよくあるシーン。日本では流石にできないが、身体強化をする事が出来る異世界では割と簡単にできる。


  一度はやってみたかった技の一つだ。


 「俺の勝ちだ。大金貨1枚分の酒。奢れよ」


  バカラムの具現化させた槍は消え、膝から崩れ落ちて地面に顔を打つ。


  具現化系の異能は、使用者本人が意識を失うと消えてしまう。


 「はい、俺の勝ち」

 「「「「「「「うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」」


  勝利宣言をして軽く腕を上げると、訓練所に大地を揺らすほどの歓声が響き渡った。


 

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