人混みは興味を引く

  傭兵ギルドの裏。そこには50人近くの人が集まっていた。


  そして、人混みと言うのは人の興味をそそる。


  これが傭兵達だけなら、その厳つい顔にビビって誰も近寄らないだろうが、その中に市民を守る衛兵も混じっているとなれば話は別だ。


  たまたま傭兵ギルドに通りかかった人々が、何事かと見物しようとする。


  そうして、気づけば200人近くも人が集まってしまった。


  そして、傭兵ギルドの裏にあるスペースはそこまで広くないわけで.........


 「おい、どうするんだよ。これだとまともに戦えないぞ?」

 「あはは......ここまで人が集まるとは、流石に予想外かな。ちょっと場所を変えようか。このままだと観客を巻き込みかねないよ」


  バカラムもこうなるとは思っていなかったようで、苦笑いを浮かべながら移動を提案してくる。


  白金級プラチナ冒険者並の実力となると、その技の一つ一つがかなりの威力を誇る。


  そのギルドのは裏スペースだけでは、どうやっても周りを巻き込んでしまいかねなかった。


 「いいぞ。でも、どこに行くんだ?冒険者ギルドにもこういう場所があるって聞くし、そこに行くのか?」

 「いや、兵の訓練所がある。そこなら何千人近い観客を入れても大丈夫だし、周りを巻き込むことは無いと思うよ」


  確か、この街では定期的に市民に兵達の訓練を見せる行事があったな。


  その訓練を見てもらって、この街は安心だと思ってもらうために。


  元々人を入れる事を前提として作っている訓練所だ。この人数程度なら問題なく入れるだろう。


 「いいの?想像以上に目立ってるけど」

 「まぁ、神聖皇国では既に名前が広がりつつあるんだ。それに、あっちで使ってた名前と、今の名前は違う。そう簡単に結びつくことは出来ないだろ」


  神聖皇国からアゼル共和国まで、まともに移動すると二ヶ月はかかる。時間的アリバイもあるから、そう簡単に俺達を結び付ける事はできないはずだ。


  それに、アゼル共和国程度の小国で目立ったところでたかが知れてるだろう。


  メリットもあるにはあるからな。


 「うわっ、凄い人の数だね。しかも、大人数で移動しているから目立ってドンドン人が増えてるよ」

 「冒険者に市民。他にも商人まで集まってきたな。噂が噂を呼びってやつか?このままだと1000人は超えそうな勢いだ」

 「人がいっぱいなの」


  移動を始めると、更に人が増えていく。そして、噂は広がり、それを見ようとさらに人が......と言った感じで、いつの間にかものすごい人の数になっていた。


  多分1000人は軽く超えている。もうちょっとしたお祭りだな。


 「ごめんね。ここまで大事になるとは思ってなかったよ。報酬は僕に勝たなくてもあげるね?」

 「なら、勝ったらプラス金貨3枚分の酒でよろしく。合わせて大金貨1枚分だ」

 「その程度なら、問題ないかな。少し金欠になる程度だし」


  大金貨1枚分の酒とかスンダルが喜びそうだな。ストリゴイも酒は飲むし、2人のご機嫌を取るには十分だろう。


  明日から街を歩きづらくなっても、気配を本気で消せばそう簡単には見つからない。


  そう思いながら、歩くとこ15分。ようやく兵の訓練所に辿り着いた。


 「ば、バカラム隊長?これは一体?」


  異常事態を聞きつけて、訓練所から兵が出てくる。


  うんうん。困惑するよね。急に1000人単位で訓練所に人が押しかけてくるんだから。


  何も知らない人からすれば、ちょっとした恐怖になるだろう。


 「いやぁー、ちょっと強い子を見つけたから戦おうってデートのお誘いしたら、覗き魔が増えちゃった」

 「は?」

 「という訳で、訓練所にいる兵達を一旦切り上げさせてくれないかな?」

 「は、はぁ.......まぁ隊長がそういうならそうしますが.......」

 「あ、後、賭けをやってるからやりたいやつはやっていいよ。でも賭けすぎはダメだからね?」

 「はぁ........」


  唐突すぎて理解が追いついていない兵に指示を出すと、俺とバカラムは訓練所の中へ、その他のギャラリーは観客席へと移動を始める。


 「仁、やり過ぎちゃダメだからね?異能を使うのは禁止。それと魔縮も最低限にして、この訓練所をぶっ壊さないように気をつけてよ?」

 「大丈夫、大丈夫。手加減できないほど実力が拮抗している訳じゃないし、適当に遊んでくるからさ」

 「パパ頑張るの!!」

 「イスも応援してくれよ」

 「一応、氷の結界は張れるようにしておくの!!でもパパの本気のパンチだと砕け散るから気をつけてなの!!」

 「お、おう」


  どんだけ信頼ないんだよ。ちゃんと手加減するよ?大丈夫大丈夫。手が滑って殺しちゃうとかしないから。


  偶に訓練をつけてやる奴隷達や三姉妹の時も、手加減してるでしょ?


 「いやー、ここなら本気で暴れても大丈夫だから、容赦なくできるな」

 「ちょ、ダメですよ隊長。万が一殺したら俺たちが隊長を捕まえる事になるんですから」

 「大丈夫大丈夫。手加減はできるから」


  向こうも同じような事を言われているようだ。


  自分達の隊長が負けるとは欠片も思っておらず、誤って俺を殺さないかどうかの心配をしている。


 「じゃ、頑張ってねー。ちなみに倍率は6.24倍まで膨れ上がったてたから、大銀貨1枚分賭けておいたよ」

 「勝ったら大銀貨6枚か。その金で土産を沢山買うとしよう」


  今回の買い出しは寧ろ金が増えてるかもな。


  訓練所の中に入ると、既にそこに兵達はおらず俺とバカラムだけがその場に立っている。


  周りには1000人以上の観客が集まっており、俺とバカラムの戦いを今か今かと待ち望んでいる。


 「かなり増えたな」

 「本当だよ。お陰で、そう簡単に負ける訳には行かなくなっちゃったよ」

 「別に、やる前から降参してくれてもいいんだぜ?俺は金が貰えればそれでいいしな」

 「言うねぇ。僕がそんなに弱く見えるかい?」

 「弱くは無い。だが、俺に勝つには後100歩は足りないな」


  自分の強さには自信を持っているのだろう。俺の軽い挑発に少しだけイラッとした顔をした。


  しかし、直ぐに冷静さを取り戻しゆっくりと体を解していく。


  内包されている魔力や、その立ち振る舞いから見て、かなり強いのは分かる。


  恐らく、三姉妹や奴隷達よりも強いだろう。


 「会場も盛り上がってきてるようだし、僕達もそろそろ始めるとしようか。さっきからお預け食らってばかりだからね」

 「おう、ならさっさとかかって来いよ。この後、買い出しがあるんだ。あまり油を売りすぎると時間がなくなっちまう」

 「そうだね。僕は君に金貨7枚分の酒を買ってあげないといけないからね」


  暗に、自分が勝つと言っているのだろう。分かりやすい挑発だ。


 「ルールは?」

 「なんでもあり。だけど、殺すのは無しだ。それとこの訓練所を破壊するのもダメ。腕が落ちても、効果の高いポーションならくっつくだろうからそこら辺は気にしなくてもいいよ」

 「そうか。開始の合図は?」


  俺が聞くと、バカラムは1枚のコイン取り出す。


 「このコインを弾いて、落ちたらにしようか」


  そう言って俺に向かってコインを放り投げる。


 「君のタイミングで弾くと─────」


  バカラムが何か言い終わる前に、俺はコインを弾く。


 「ちょちょ!!急すぎ!!」


  バカラムは急いで戦闘態勢に入る。自分の代名詞である槍は、コインが落ちてから出現させるようだ。


  そして、コインは地面を叩き、開戦の狼煙をあげる。

 

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