双槍のバカラム

  久々に会ったアッガス達と昼飯を食べていると、衛兵達がやってくる。


  金属と魔物の皮が混ざった、動きやすさと防御力を兼ね備えたかなりの上物の防具を着た衛兵達は傭兵ギルドに入ると、もはや生きているのが不思議な状態のアホ3人を見つける。


 「ギルド内で武器を抜いたと言う通報を受けて来たのですが........」


  大体察しはついているが、一応確認という事だろう。


  俺が対応しようと思ったが、アッガスが先に対応した。


 「あぁ、そこで肉ダルマになってる奴らがそうだ。ミンチにでもして、豚の餌にしてやれ」

 「あはは。流石にそうはいきませんよアッガスさん。と言うか、やり過ぎでは?」

 「そう硬いことを言うなよバカラム。殺さなかっただけ良心だと思って欲しいがね」

 「そう言われましても。アレなら死んだ方がマシなんじゃ無いですか?1人は顔面が陥没してますし、もう2人は手足の骨がバキバキに折れてて人間とは到底思えない格好になってますよ」

 「馬鹿にはいい薬になっただろ」

 「薬どころか劇物ですよ」


  そう言ってバカラムと呼ばれた衛兵は、後ろに控えていた衛兵に指示を出してアホ3人を台車に乗せる。


  衛兵達も犯罪者には容赦がないようで、ものすごい雑に扱っていた。


  そして、バカラムと呼ばれた衛兵は俺達を見つけると、気さくに話しかけてくる。


 「お、君たちがアッガスさんが言ってた子達か。ゼブラムも言ってたけど、目立つねー」

 「ゼブラム?」

 「門番さ。君達をよく気にかけている門番がいただろう?彼の名前さ」


  へぇ、あの人の名前、ゼブラムって言うのか。


  いつもオッサンとしか呼んでなかったし、向こうも自己紹介なんてしてなかったからな。


  それに、この街に入る時と出ていく時にすこし話すだけだ。そこまで親しい訳でも無い。


 「で?あんたは誰だ?」

 「僕は、この街の衛兵隊長バカラムさ。知らない?『双槍のバカラム』って呼ばれてたりするんだけど」


  知ってるよ。報告書にあったから。ただ、知らない方がボロが出ないと思ったのでその振りをしている。


  双槍のバカラム。この街、バルサル最強の衛兵であり戦士。


  二つ名の通り、二対になっている赤槍と青槍を持って戦う。


  その実力は白金級プラチナ冒険者とまで言われており、この国の中では最高峰の強さを誇る。


  なぜそんな強い戦士がこの街にいるのかと言うと、アスピドケロンが動き出した時の時間稼ぎ要因だ。


  しかし、アスピドケロンのは実力を何となく知っている俺から言わせてもらうと、良くて0.1秒の足止めが限界だ。


  最低でも彗星エドワード・ハーレ並の強さが居る。まぁ、彼でもその生命力全てを使って精々30秒程度の足止めが限界だが。


 「知らんな。というか、興味無い」

 「あはは!!君は興味なくても、僕にはあるんだよ」


  そういったバカラムの目は、好奇心に溢れていた。これはアレだな。俺と同じで強い奴を見ると、戦いたくなる戦闘狂だ。


  俺がロムスやジークフリードと再会した時のように、この男は俺と戦いたい気持ちが溢れているようだ。


 「君、ここのギルドマスターであるジルドを一撃で殴り飛ばしたんだって?そんな事、僕でもできない。是非とも君の実力を見てみたいものだよ」

 「買い被りすぎだ。仕事中だろ?とっととそのアホ共を牢にぶち込んでこい」

 「確かに仕事中だが、君が思っているよりもこの街の治安はいい。少しサボるぐらい問題ないさ」


  衛兵が暇な時程、平和な時間は無い。其れは喜ばしい限りだが、だからといって仕事をサボるのはだめだろ。


 「........そのギルドマスターの話しは誰から聞いた?」

 「本人さ。君達はジルドを吹っ飛ばしたと聞いてから、会ってみたかったんだ。そして、軽くでいいから戦ってみたいともね」


  俺は花音を見るが、花音はゆっくり首を振る。


  “私は、パス”という事らしい。イスに戦わせる訳にはいかないし、消去法で俺がやる羽目になるが今日は完全にオフで来ているにも関わらず既に1度暴れているのだ。


  正直、動きたくない。


 「面倒だから嫌だ」

 「そう釣れないことを言わないでおくれよ。ほんのちょっと戦うだけでいいからさ。気が乗らないなら僕に買ったら景品でもあげるから」

 「あっそ。じゃ帰ってくれ。お仕事に戻ってどうぞ」

 「ホント!!ホント少しだけでいいからさ!!お願い!!この通りだよ!!」


  パンと手を合わせて頭を下げるバカラム。


  本当にやりたくねぇ.......あ、そう言えば金貨7枚もする高い酒が置いてあったな。今回街に連れて行けなかった詫びに、その酒を買っていくのもありか。


  ご機嫌取りは大切だしな。


  それに、金貨7枚なんて大金を払うリスクが伴うからもしかしたら降りてくれるかもしれないと言う、淡い期待も抱いている。


 「.......エルフのじーさんが酒を売っている店を知っているか?」

 「ん?うん。知ってるよ。僕も何度か買いに行ったことがあるからね」

 「そこに金貨7枚もする酒が売っているんだ。俺が勝ったらそれを奢ってくれ。それが条件だ」

 「よし乗った!!早速やろう!!」


  即決かよ。


  金貨7枚だぞ?日本円に換算して700万だぞ?そんな大金を即決断できるのか。


  判断が早い。鱗〇さんもびっくりな判断能力である。


 「いいんですか?隊長。金貨7枚ってかなりの大金でしょうに」

 「ばっか野郎!!普段ほとんど使わない金はこういう時に使うんだよ!!貯金はかなりあるんだ。金貨7枚程度どってことない!!それに、僕がそう簡単に負けるわけないだろ?」

 「いや隊長、あんた“コイツは僕より強いはずだ!!”とか言ってたじゃないですか.......」


  彼の部下である衛兵達は、若干呆れながらも自分達の隊長が負けるとは思ってないようだ。


  そして、こんな面白そうな出来事を騒ぐだけしか脳がない傭兵達が見逃すはずもなく、賭け事を始める。


 「俺はジンに大銅貨3枚!!」

 「俺はバカラムに大銅貨2枚だ!!」

 「カノンちゃん。貴方の旦那さんの方が強いかしら?」

 「当たり前だよ。あ、私は仁に銀貨8枚で」

 「パパに銀貨5枚なのー」


  サラッと花音とイスも賭けに参加している。これは負ける訳にはいかないな。


  その傭兵のやり取りを見ていた衛兵達も、その賭けに参加して、最終的に金貨数枚分の賭け金が集まってしまった。


  ちなみに、俺に1番かけているのは花音で次はイスだ。


 「ははは。みんな程々にしておけよ?生活があるんだからな」

 「止めないのか?」

 「止めたところで聞きやしないよ。それに、こういう祭りには水を刺さない主義なんだ」


  いい上司なんだろうな。部下の衛兵達からは尊敬の念が感じ取れるし、バカラムは人気がかなりあるのだろう。


  賭けに参加した衛兵の全員がバカラムに入れているのを見ると、その強さには相当信頼があるようだ。


 「どこでやる?」

 「傭兵ギルドの裏にスペースがあるだろ?体を動かす為の。そこでやろう。僕は槍を使うけどジン君は何を使うんだい?」

 「俺はコイツだ」


  俺はそう言って握り拳を作る。


  バカラムは少し唖然とした後、ニヤリと笑ってこういった。


 「腕を切り落とすかもしれないよ?」

 「やれるもんならやってみな。先手は譲ってやるよ」


  そう言って俺達はギルドの裏に移動したのだった。

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