元老院の娘
アホ3人を縛り上げて転がした後、俺達はモヒカンと少し早めの昼飯を食べていた。
「ごめんね。イスちゃん。怖かっただろ?」
「ん?別に怖くはないの。それよりもママが楽しそうだなーと思ってたの」
「そ、そうか。あ、そうだ。飴玉食べるかい?」
「ご飯食べ終わった後のお口直しに貰うの!!」
イスはそう言ってモヒカンから飴玉を貰う。
弟であるジーザンは、兄の意志を次いで最近はこの街の孤児院によく足を運んでいる。
どうやら兄貴の恋愛事情は知っていたようで、そこの孤児院のお姉さんにずっと頭を下げていたようだ。
モヒカンはまだ、兄貴の死は自分の責任だったと思っているようで、子供たちの報告によれば毎日の訓練が更に過酷になったとか。
それでも、やつれているような様子は無いので、特に心配する必要は無いだろう。
「そう言えば、知ってるか?七大魔王の一角が神聖皇国で復活したらしいぜ?」
「その話はさっきおばちゃんとしたよ。勇者がほとんど被害を出さずに討伐したらしいな」
「お、知ってたか。有名だもんな。異世界?とか言うのから来たらしいんだろ?」
正確には日本だが、下手に突っ込むとボロが出る。
俺は頼んだ串焼きを食べながら、頷くだけにしておいた。
「聞いた話だと、天使様もいるらしい。物凄い美女で、実際に見たって言ってたヤツは即効で虜になってたよ」
「へぇ、天使か。背中から翼を出して戦うのか?」
「そうらしいぜ?その漆黒の髪は闇より深く、その純白の翼は光よりも輝くって言われている程だ。1度会って見たいものだなぁ」
黒百合さんはどうやら物凄い人気があるらしい。下手したら、光司よりも有名なんじゃないだろうか。
「会ってみたいなら、神聖皇国へ行くのか?」
「んなわけないだろ。俺にも俺の生活があるからな。さすがにそれは無理だ」
「なら、この街の近くで魔王が復活しないとダメだな」
「それは勘弁してくれ.......この街の近くで魔王が復活してみろ。あそこの山で眠るアスピドケロンが起きて、この街が地獄と化すぞ」
地獄で済めばいいけどな。
もし、本気でアスピドケロンが暴れたらここら周辺の国が全て消し飛ぶだろう。
アスピドケロンが戦うところを見たことは無いが、内包している魔力を見れば大体の強さは分かる。
本人は“え?あたし?あたしはそんなに強くないよー”とか言っていたが、ウロボロスと肩を並べる程強い。
能力相性によって若干の有利不利はあるものの、
俺がアスピドケロンの強さについて考えていると、モヒカンは何か思い出したようにポンと手を打つ。
「あ、アスピドケロンと言えば、近いうちに元老院の1人とその娘がこの街に来るらしいぜ?」
「元老院とその娘が?」
元老院。それはこの国にいる12人の国を運営するもの達の呼び名だ。
共和制のこの国には王がおらず、国民から選ばれた12人の元老院が国を回している。
要は政治家だ。
多少の黒い事はあるものの比較的マシなもの達が多く、今は善政を敷いていると言えるだろう。
そんな国を運営する偉いお方が、娘を引き連れて何をしに来るのやら。
「こんな何も無い街に来るとか暇人か?」
「なんでも、娘さんがアスピドケロンを見たいと言ってたらしいぞ?どうやら、その娘さんは誕生日が近いらしくてな。家族揃ってアスピドケロンへの観光旅行だと」
........あー、そんな報告が何処かにあった気がする。半分死にかけながらやってたから、どうでもいい報告はあまり頭に入ってないんだよなぁ。
たしか、その元老院は愛妻家でその間に生まれた子もものすごく大切に育てられているらしい。
元老院の中でも黒い噂が少なく(ない訳では無い)、市民からの人気もかなり高かったはずだ。
名前は.......忘れた。
「いつ来るんだ?」
「さぁ?近い内に来るとは聞いているが、何時までかは知らないな。それよりも、気をつけた方がいいぞ?元老院ともなると怨みを買いまくっているからな。この街の治安も少し悪くなる」
権力者と言うのは、大抵誰かから恨まれる。
というか、権力者でなくともアホな理由で恨まれることは多いのだ。例えば、女の子達と仲良くなっただけで怨みを買って暗殺されそうになったりとかな。
「そこのゴミ共みたいな奴が増えるのか」
「あながち間違っちゃいないが、それよりももっとやべぇ奴らが集まってくると思うぞ。暗殺を生業としている奴らも居るんだ。もしかしたら、首がすげ替わるかもな」
「戦争が終わって一段落したのに、また混乱を生むつもりか?」
「人間なんてそんなもんさ。結局は我が身第一なんだよ。兄貴を見習って欲しいぜ」
うん。ちょいちょい兄貴ネタを入れてくるのはやめて欲しいかな。反応に困る。
花音も流石にこういうネタを笑ったりは出来ないので、大人しくイスの相手をしていた。
自分だけ逃げやがって。ずるいぞ花音め。
俺がなんて返せばいいか迷っていると、救いの手が差し伸べられた。
「おいおい。傭兵ギルドはイメチェンでもしたのか?随分とオープンなギルドになったな」
「ぷはははは!!アットホームな職場ですってか?だとしてもみんな冒険者ギルドに流れるぞ」
「なんか臭いわね?誰か漏らしたのかしら?」
ゾロゾロとギルドに入って来たのは、アッガスとこの街の傭兵達だ。
アッガスは俺達を見つけると、気さくに話しかけてくる。
「お、久しぶりじゃないかジン。元気だったか?」
「よう、アッガス。見ての通りピンピンだ。ちょいと元気があまり余ってそこに転がってるゴミの掃除をしてしまった程だ」
俺はボロ雑巾のように転がっているアホ3人を指さすと、アッガスは何があったのか察したようでウンウンと頷いた後、思いっきりそのアホ3人を蹴りあげる。
ゴスっと鈍い音が響く。
「お前達みたいなゴミがいるから、俺達の評判まで下がるんだよ。とっと死ね。このゴミが」
そう言ってもう一度蹴った後、それに続いて他の傭兵達も容赦なくアホ3人をリンチしていく。
既にボロ雑巾だった3人は、このオーバーキルな攻撃を泣きながら受けるしか無かった。
「ったく。嫌になるな。俺達も傭兵だからって理由でアイツらと同列にされるんだぞ?」
「ソイツは勘弁願いたいな。まだゴブリンと同列の方がマシまであるぞ」
「全くだ。このギルドの女傭兵に手を出そうとして、ジーザン人のボコられたのに学ばない奴らだ。どうせカノン辺りを寄越せとか言ってきたんだろ?」
「ご名答だ」
「やっぱり馬鹿は学ばないな。おーい!!ジン達に手を出したそうだぞ!!もっとキツくやってやれ!!」
「ジンに手を出したのかてめぇ!!」
「イスちゃんを怖がらせたとか死ね!!」
「私の友達に何してんだゴラァ!!」
先程よりもさらにヒートアップして殴られ、蹴られるアホ3人。泣いて許しを乞おうとしても、一切聞く耳を持たずにリンチされる。
結局、そのアホ3人は衛兵が来る他の傭兵達のストレス発散の玩具として殴られ蹴られるのだった。
普段は優しい彼らだが、腐っても傭兵。舐めたことをすると容赦なく叩きのめすその姿は、流石としか言いようがなかった。
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