兄貴となった弟(不本意)
俺達に喧嘩を売ってきたアホどもをシバいていると、兄貴と呼ばれたジーザンがやってきた。
兄貴って呼ばれてたけど、なにやってんの?アイツ。
まぁ、大体想像はつくが。
助けを求められたジーザンは下顎を掻きながら、俺を指さしてスキンヘッドのオッサンに話しかけた。
「ほー、そのクソガキってあいつの事か?」
「そ、そうです!!女をよこせと言ったら、抵抗して.......やっちゃってください!!兄貴!!」
もうアホを通り越して傑作だよ。
俺達の強さを理解した上でモヒカンに頼ろうとするのもそうだが、なによりモヒカンの顔が本気でキレているにもかかわらずそう言えるのがすごい。
殺気がお前達に向けられているのが分からんのかコイツは。
「一応、聞いておこう。先に手を出したのは?」
俺はスキンヘッドの男を指し、スキンヘッドの男は俺を指す。
なんてふてぶてしい野郎だとは思うが、こう言うのは言ったもん勝ちだからな。
しかし、こういう時、人望の差が勝敗を分ける。
耳のいいおばちゃんが今のやり取りを聞いていて、その男を指さしたのだ。
そして、モヒカンは結構目がいい。
それが決定だとなり、スキンヘッドの男が先に喧嘩を吹っかけたのがバレてしまった。
「おい、デント」
「はい?」
「歯ァ食いしばれ」
「へ?」
バキィ!!
到底、人の顔を殴ったような音ではない音が道に響き渡る。
あーあー、あんな勢いで地面と拳の顔面サンドをしたら歯の何本かは無くなっちゃうよ。
漫画のように顔が拳の形で凹んでいる。こりゃ一切手加減なしで殴り飛ばしたな。
そして、殴った本人であるモヒカンは、手に着いた血を軽く振ってこちらへとやってくる。
もちろん、顔面を凹まされたスキンヘッドのおっさんを引きずってだ。
「大丈夫だったか?」
「俺達はな。むしろ、俺の後ろで楽しそうに拷問の練習台になっている奴らの方が不安だ」
俺はそう言って後ろにいる花音を指さす。
「ん、ンゴんごごごごんごごんん(も、もう勘弁してください)」
「んーなんて言ってるか分かんないから、次は親指の爪から剥がしていくね。大丈夫。治癒のポーションとか使えば治りは早くなるから。それに、光魔法を使う人なら治癒系の魔法を覚えてるでしょ。多分」
治癒のポーション。それは人の自然回復機能を加速させる液体だ。様々な薬草を組み合わせて、作られたそのポーションはかなりいい値段がする。
確か金額1枚とかだったはずだ。
俺達が神聖皇国から消える時に、アイリス団長が渡してくれたマジックポーチにも入っていた。
しかし、ロムスが教えてくれた
それにしても、いい歳こいたおっさんが漏らしながら泣きグチャって許しを乞うのは見ていて中々くるものがある。
でも、悪いのはそいつらなのでと俺は止めようとはしない。
「ジン。お前の嫁さん、ちとやり過ぎじゃないか?流石に俺でもあそこまではやらんぞ」
「んなこと俺に言うなよ。それに、そのタコの顔面潰して歯のないおじいちゃんにしているモヒカンも同罪だろ」
「馬鹿言え。まだ奥歯の何本かは残ってるさ。パンを噛むぐらいはできるだろ」
むしろ、パンよりも固いものは食えなさそうなんだよなぁ。
両腕両足へし折られた後、拷問されるのと二度と飯がまともに食えないようになるのどっちも選びたくないな。
「んがァァァァァ!!」
どこから取り出したのか、ペンチのようなものを取り出して男の親指のは爪を剥がす花音。
この子は、1度敵となった人間には本当に容赦がない。
昔、俺を殴った体育教師が、その2ヶ月後に階段から転げ落ちて前歯2本と右腕を折り、更に何か鈍器で殴らるという事件があった。
結局、その事件はその体育教師の不注意と言うとこで終わったのだが、俺は花音がやったのではないかと思っている。
あの時の花音の顔は“やってやったぜ”と言わんばかりだった。
でも、その日はほぼずっと俺と一緒にいたんだよなぁ。一体どうやってやったのだろうか。
「あ、気絶しちゃった」
あまりの痛みと恐怖に耐えきれず、男達は意識を手放す。
すると花音はものすっごい小さい声でこう呟いた。
「私の仁に楯突いておいて、楽に死ねると思うなよ?10年20年経とうが追いかけ回して殺してやる」
怖っ!!
ものすごい小さい声だったが、間違いなくそう言っていた。
俺は、もしかすると地球には花音の標的になっていた人間がかなり居たのではないだろうかと思いながら、無理やり話題を変える。
「んで?なんでモヒカンは兄貴なの?」
「俺がこんな馬鹿どもの兄貴分だと本当に思ってるなら、今すぐその腐った思考を捨ててくれ。コイツらが勝手に言っているだけだ」
ものすごく嫌そうな顔で、兄貴呼びを否定するモヒカン。
モヒカン呼びは何も言わないのに、こいつらに兄貴分呼ばわりされるのはよっぽど嫌だったらしい。
「この街に来たばかりで、調子に乗っていたのを絞めたら兄貴兄貴って言われるようになったんだよ」
「そりゃ大変だな」
「全くだ。俺は弟だっつーの。皮肉か?死んだ兄貴への当て付けか?」
そう言う触れづらい話題については、ノーコメントで。
下手につついて、嫌悪な雰囲気にはなりたくない。
「それで、このアホ共はどうするんだ?」
「コイツらギルドで武器を抜いたんだろ?もう時期衛兵が来てコイツらを牢に叩き込むはずさ。この国は奴隷制度が無いから、どこかへ売られるということはないけどな」
「こいつらの場合は、どこかへ売られた方がマシだと思うけどな。というか、死刑でいいんじゃないか?」
「確かに、イスちゃんを怖がらせた罪はデカイな。死刑でも足りないぐらいだ」
モヒカンはそう言うと、気絶している3人のマジックポーチを取り上げて中身を漁る。
そして、中にあった財布を取り出してその金を俺に渡してきた。
「いいのか?やってる事が追い剥ぎだが」
「いいんだよ。どうせこいつらの金は国へ入っちまう。だったらその前に俺達が使っちまえばいいんだよ。この後、アッガスさん達も来るんだ。先に飯を食って待ってようぜ」
「このギルドの修理費用はどうするんだよ」
「それはコイツらが払うさ。ジンの持ってるその剣や防具を売っぱらった金がギルドに補填される。ついでに、この飯代もな」
国へ入るって、ギルドの補填に回るって意味だったのか。
おばちゃんの方を見ると、ジェスチャーで1杯奢れと言ってくる。
1杯貰う代わりに、見逃してやるという訳か。
「そうだな。色々と積もる話は.........無いけど飯を食いながらアッガス達も待つとするか」
「ないのかよ。俺には積もる話があるんだがなぁ?」
「ま、とりあえずコイツらを縛って放っておくか。花音、ロープある?」
「あるよー」
そう言って花音は、荒縄を取り出して雑に男たちを縛り上げていく。
ぐるぐる巻にされた男達は、蹴っ飛ばされてギルドの隅に追いやられた。
「おばちゃんは何を飲むんだ?」
「アポンのジュースでいいさね。酒は仕事中だから飲めないよ」
「分かった」
こうして、異世界に来てのテンプレ展開は幕を閉じたのだった。
あけましておめでとうございます!!今年も毎日投稿頑張るぞー!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます