兄貴ぃ!!
異世界に来てから四年目にして、ようやくテンプレらしいイベントが起こった今、俺はテンションがものすごく上がっていた。
初めてこのギルドに訪れた時は、アッガス達に絡まれたものの“子供が戦争に参加するな”と言う忠告だけだったし、その後は普通に宴会で盛り上がった。
だから、こうして“ガキはママのおっぱいでも吸ってなギャハハ!!”と言うテンプレは初めてなんだよな。
「楽しそうだねー」
「超楽しい。この世界に来て、テンプレらしいテンプレって最初の召喚された時ぐらいだったからな」
花音は、ニコニコしながら襲ってくる男を軽く投げ飛ばす。
そんなに楽しそうにしている俺を見るのが嬉しいのか。
そう思いながら、俺も未だに大振りで殴りかかってくる男達を軽くいなして放り投げる。
「クソがァ.......」
お顔真っ赤にして睨みつけてくるスキンヘッドの男を指さして、俺は花音に話しかけた。
「おいおい!!見てみろよ花音。お顔真っ赤のはタコがいるぜ?」
「本当だ。ガキ呼ばわりした相手にいいようにあしらわれて、転びまくったお顔真っ赤のタコさんだ。恥ずかしいねぇ?喧嘩ふっかけておいて手も足も出ないもんねぇ?大丈夫でちゅかぁ?怪我をしたなら、ママに泣きついて来たらどうでちゅかぁ?」
うわ、うっぜぇ。
ココぞとばかりに煽る花音に、スキンヘッドの男はブチ切れ。
「うがァァァァァ!!」
遂に、男はその背中に背負っていた剣を抜いてしまった。
「うわ、拳で勝てないなら剣ってか?恥ずかしいねぇ。まだオークの方が理性があるんじゃないか?これじゃ低脳なゴブリン以下だぜ?」
「女子供相手に手を挙げている時点で一緒だよ。それに、オークは相手の実力差をある程度見極めれるよ?こんな見掛け倒しのゴミクズと同列に扱ったらオークに失礼だよ」
「それもそうだな。アイツらは死んでも肉としての価値もあるし、こんなそこら辺の石よりも価値のない塵と比べるのは失礼か。すまんな全世界のオーク達よ」
俺はそう言って、手を合わせて全世界のオーク達に謝る。
その会話を聞いていた男達は、頭に青筋を浮かべて最後の忠告をしてきた。
「今ならまだ、腕1本とそこの女でで許してやる。死にたくなきゃ土下座しろ」
ものすごい怒っているのか、鼻息が荒い。腕の筋肉は大きく膨れ上がって、力が篭っているのかよく分かる。
本気で殺るつもりなんだろうな。
まぁ、だからと言って、この程度の雑魚相手に頭を下げるわけが無い。
俺は笑顔で挑発してやった。
「おいおいおい。勘弁してくれよ。何処にゴブリン以下のなんの価値もないゴミに頭を下げる奴が居るんだ?そんなんだったらまだゴブリンに頭を下げた方がマシだぜ?アイツらは金になるからな」
「こんのガキャャャャャ!!」
スキンヘッドの男が、俺の挑発に乗って剣を振り下ろしてくる。
その剣に研磨された技術は無く、ただただ力に任せた一撃だ。
「ホント、面白い程挑発に乗ってくれるな。ここまで行くと頭の中に脳みそが詰まっているのかどうか心配になるぞ」
俺は、脳天目掛けて振り下ろされた剣を片手で受け止める。
フェイントも一切無いただの力任せな一撃が有効なのは、圧倒的な筋力差がある相手だけだ。
「んなっ?!」
こんなにも容易く受け止められるとは、思っていなかったのだろう。
男は慌てて距離を取ろうとするが、俺が掴んだ剣を離さない。
「う、動かない.....」
「頑張ってみろよ。ほら」
そう言って、俺は剣を強引に振り回す。
もちろん、剣を離そうとしない男達も一緒に振り回され、あちこちに身体を打ち付ける。
それでも剣を離さないあたり、根性はあるのだろう。
「ほい、ほい、ほい」
「うがっ、ごふっ、あべし」
「じーん。あまりやり過ぎて殺さないようにね?」
「分かってる、分かってる。所で、花音はなにやってんの?」
俺を注意する花音を見ると、花音は襲いかかってきた男2人を既に倒して椅子代わりに座っていた。
しかも、1人は丁寧に両腕両足をへし折った上に、今は笑顔で指をへし折ろうとしている。
あ、ちょっと怒ってるな。
流石に骨を折られたのは痛かったのか、男は惨めに泣きながら花音に許しを乞う。
「ずび、ずびばぜんべびだ。だがら、もう"がんべんびでぶだざい」
「えー?何言ってるのか分からないよー。とりあえず、仁を貶した代償として小指をへし折るね」
ボキィ!!
花音がなんの躊躇いもなく男の小指をへし折る。
「ギアァァァァァ!!」
「ひ、ヒィ!!」
ようやく自分達がどんな奴に喧嘩を吹っかけたのか理解した男達は、助けを求めるようにこの惨状を見ている受付のおばちゃんを見る。
おばちゃんはゆっくりため息を着くと、花音にこう言った。
「二度と馬鹿な真似が出来ないように徹底的にやっておやり。ギルド内で武器を抜いた時点で、そいつらは重罪人さ。もちろん、殺すのはご法度だよ」
「お、流石おばちゃん!!話が分かるね!!」
花音は嬉しそうにすると、まだどこもへし折られていない男の足を思いっきり踏みつける。
ゴキィ!!
鈍い音とともに、男の足はあらぬ方向に曲がる。
凄いな。脛から横に90度曲がってるぞ。人の足ってあんな風にも曲がるんだなぁ。
「ギィヤァァァァァァ!!」
「もー五月蝿いなぁ」
そう言って花音はマジックポーチからタオルを取り出すと、男の口に無理やり詰め込む。
「んぐっ!!んんんんん!!」
「はい、じゃぁ次は左足ねー」
ボキィ!!
「んんんんんんん!!」
「おー、ちょっと静かになった」
そう言いながら笑顔で男二人をリンチする花音。
いつも思うが、やはり花音は怒らせてはいけな。おばちゃんから許可は出ているとは言え、流石にあそこまで楽しそうに人の骨をへし折るのは俺には無理だわ。
ところで、イスは何をやっているのだろうか?
チラリとイスの方を見ると、楽しそうに人の骨をへし折る花音を見ながら果実水を勝手に買って飲んでいた。
ちゃんと1人で買い物できるようになったんだなと、感心していると不意に剣が軽くなる。
何かあったのかと見ると、剣を持っていた男が扉をぶっ壊して外に放り投げられていた。
「ありゃ、おばちゃん。修理費用はアイツらに付けといてくれ」
「分かってるよ。ついでにボコボコになった床の分もね」
ある程度手加減はしていたのだが、流石に床は耐えれなかったようだ。
あちこちに凸凹ができており、その周りには血が飛び散っている、
まぁ、探知に反応があるから死んではいない。が、肋骨の何本かは折れてるかもな。
「あ、兄貴ぃ!!助けてください!!」
投げ飛ばされた男の方を見ると、誰かの足にすがっている。
結構ダメージを与えたつもりだったんだが、まだまだ元気そうだな。つぎはもう少し強めに痛めつけてもいいだろう。
「おいおい。何があったんだよ」
「それが、滅茶苦茶強いガキがいまして、俺もアイツもやられちまったんです!!」
「あ?ガキ?ガキっていえば、思いつくのはアイツらぐらいしかいないが.......」
「た、助けてください!!」
そう言って縋られていたのは、モヒカン頭の弟、ジーザンだった。
お前、いつの間に兄貴になったんや。
今日で2021年も終わりです。早いですね.......また来年も“とり死”をよろしくお願いします。
それでは皆様、良いお年を!!
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