今更テンプレ
4日かけて机の上にあった紙束を片付け終えた俺達は、久しぶりにバルサルへと足を運んでいた。
スンダルの好物である酒が切れたのはもちろん、その他にも消費して無くなった物は多い。
ストリゴイのは好きなパンや、ロナが好きなお菓子、ゼリスが好きな肉等など。
団員が増えてから買ってくるものが多くなった。
金は腐るほどあるので問題ないが、あまり大量に買いすぎると店の迷惑になる。
その為、こうしてちょくちょく街へと繰り出すのだ。
スンダルやストリゴイは着いてこようとしたが、流石にこの街で吸血鬼とバレるのは不味い。俺は今度別の街に連れて行ってやると約束して、今回もお留守番してもらった。
「おや?随分と久しぶりだね。最近顔を見なかったから、てっきりどこかへ行ったのかと思ったよ」
街へ入ろうとすると、門番に話しかけられる。3週間近く顔を合わせてないのに、よく人の顔を覚えているものだ。
「久しぶりだな。ちょっと用事があって出かけてたんだよ。一応これでも傭兵団を率いる団長なんでね」
「仕事かい?」
「そういう事さ。と言っても、冒険者の真似事のような仕事だけどな」
「へぇー、って事は魔物退治か」
「そんなところだ。アンタも仕事、頑張れよ」
もちろん嘘である。口から出まかせで話しているので、長々と話すとボロが出る。
俺はさっさと会話を打ち切ると、街に入っていった。
「最初はどこに行くの?」
「とりあえずは傭兵ギルドだな。この国に魔王討伐の事が伝わっているのかとか、そこら辺を聞いておきたい」
「あれ?それ、子供達の報告に無かった?」
「どんな風に伝わっているのかは分からないなだろ?もしかしたら、後世に語り継ぐ勇者の英雄譚って感じで伝わっているかもしれないしな」
「激闘の末、人々の勇気と希望を集めた聖剣でトドメを刺したとか?」
「そうそう。そんな感じ」
もし、そんなふうに話が伝わっていたら俺は間違いなく吹き出すだろう。
だって実際は、出てきたところを即リンチにして倒してたからな。
冒険者ギルドへ行くと、相変わらず昼前から酒を飲む馬鹿達が目に入る。
ただし、その人達は俺の記憶に無い人達だった。
「あんな奴ら居たか?」
「んー覚えてない」
「居なかったと思うの」
新しくこの街に来たのか、それともこの街に住んでいて傭兵になったのか。
まぁ、俺としてはどちらでもいいので、酒飲みの駄目人間達をスルーしてカウンターで眠そうにしているおばちゃんに話しかける。
「おばちゃん。今はまだ昼前だよ。昼寝にはちょいと早い」
「......お?久しぶりさね。最近顔を見なかったから、てっきりおっ死んだか、別の街に行ったのかと思ったよ」
「ちょいと用事があってな。少し離れてた」
「そうかいそうかい。元気そうで何よりだよ。それで?何の用だい」
柔らかい笑みを浮かべるおばちゃん。しかし、その目は笑っていなかった。
理由は簡単。俺の後ろで飲んだくれている3人組が、あまり宜しくない目線を向けているからだ。
これはもしかしてもしかするのか?
そんな期待をしつつ、俺はおばちゃんと話を続ける。
「風の噂で聞いたんだが、魔王が復活したんだって?」
「ちょいと古い情報だね。既に魔王は討伐されているよ」
「へぇ。もう討伐されたのか。早いな」
「どれもこれも勇者様のお陰さね。なんでも街にほとんど被害が無かったらしい」
「街?」
「魔王は神聖皇国の大聖堂で復活したのさ。本来なら何万と死ぬはずだった人々を、勇者様は救ったのさ。流石は女神様に選ばれた方々だよ」
その女神様に選ばれた40名の内、3名は世界戦争を起こそうと企んで、35名は戦闘に参加してないんだけどね。
あれ?この世界に来てまともに勇者をやっているのって2人だけじゃね?
それに、この口調からすると勇者達だけで魔王を倒したと思っているようだ。
やはり、情報伝達が拙いこの世界では、こういう情報のやり取りは正確にはいかないのだろう。
もし、龍二達の3人だけだ魔王を討伐しようとしたら、被害はもっと大きくなっていたはずだ。
討伐はできると思うけど。
「勇者は凄いんだな」
「そうさね。これで七大魔王が六大魔王になったわけだ」
「後6つも魔王がいると思うと、おちおち寝ていられないな。もしかしたら、この街から復活するかもしれないぞ?」
「あっはっはっはっはっは!!そんなことになったら、アスピドケロンと戦う羽目になるだろうよ。後世に残る、大怪獣バトルの始まりさね」
「そんなことになったらこの街は終わりだな」
「女神様に祈って焼かれ死ぬことになるだろうねぇ!!」
ツボに入ったのか、大笑いするおばちゃん。
そんなに面白かったか?とは思うが、まぁ、人のツボは人それぞれだ。
「そんなに面白かったか?」
「あぁ、面白い。街中で大道芸をやっている奴が、失敗したときぐらい面白いさね」
「いい趣味してんな」
「そんなに褒めても飴玉ぐらいしかだせないよ!!アッハッハッハッハッ!!」
褒めて無いんだが?もう1年近くこのおばちゃんには世話になっているが、相変わらず変な人である。
こんぐらい頭がおかしくないと、傭兵ギルドの受付嬢はできないのかもな。
だってその傭兵達も頭がおかしいんだもん。例えば......
「へへへっガキがこんなところに来ちゃダメだろ?」
「そうだぜぇ?俺達みたいな悪いヤツがいるからなァ」
「とりあえず、女と有り金置いていけよ」
こんな奴とか。
それにしても凄いな。ギルドの職員が目の前にいるのにこうして脅せるとか頭大丈夫か?ただのババァ如き、どうとでもなると思っているのか、それとも酒のせいで頭が働いていないのか。
それに、俺とおばちゃんのやり取りを見てコイツらは何も思わなかったのだろうか。
初対面でこんなに親しく話す訳が無いだろうに。俺達にも、ある程度の人脈があるとか考えないのか?
「馬鹿だねぇ。ギルドマスターに手加減されてやっと何とか闘える程度の実力しか無いのに、鼻歌交じりにギルドマスターを吹っ飛ばせるその子達に勝てるとでも思っているのかねぇ」
「おばちゃん。どこまでならやっていい?」
「両腕両足をへし折る程度ならやってもいいさね。馬鹿にはちょいと痛い目に会って貰わないと」
お、そこまでやっていいのか。おばちゃんから許可が貰えた事だし、遠慮なくやらせてもらおう。
「なぁおっさん達。この街に来たばかりなのか?」
「あ?4日前に来たばかりだが、それがどうした?」
「いやぁ、この街ではなかなか見ないタイプの傭兵だと思ってな。あ、近寄るなよ。酒臭いし、加齢臭する」
「んだとゴラァ!!」
軽い挑発に面白い程乗ってくる。
男の1人が大きく腕を振りかぶって殴りかかってくるが、そんな見掛け倒しなパンチに当たるわけが無い。
軽くいなした後、足を引っ掛けて転ばせる。
「おやおやおやぁ?こんなガキに簡単にあしらわれる大人がいるんですねぇ。おれだったら恥ずかしくて自殺ものですよ」
「ダッサ。あれだけイキってこの程度とか生きてて恥ずかしくないの?早く死ねよ」
「ママ。口がわるいの」
まぁ、この世界だと既に成人しているのだが、見た目が子供だからなぁ。
後、花音は口が悪すぎ。イスが真似したらどうするの。
「このクソガキがァ........!!」
そして、転ばされた男は顔を真っ赤にしていた。
あー楽しいなー。
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