帰宅
それから更に5日後、殆どの瓦礫を撤去し終えた俺達は一旦拠点に帰ることにした。
流石に家を建てたりするのは、俺達の管轄外である。
ドッペル辺りに教えて貰えばできるようになるかもしれないが、そこまでして家を建てたい訳じゃないからな。
アイリス団長と師匠、そして龍二が着いて行きたそうにしていたが、彼女達にはまだまだ沢山の仕事が残っている。3人とも残念そうにしながら、俺達を見送ってくれた。
いや、龍二達だけでは無い。
俺達に助けられた街の人々や、迷子になっていて一緒に親を探してあげた子供達等も、どこから聞きつけたのか俺達が街を離れるのを知っていたようで、見送りをしてくれた。
多くの人が感謝の言葉を述べて手を振ってくれたその光景は、普段あまり人から感謝されない俺からすると新鮮な光景であった。
「やっぱり、神聖皇国はいい国だな。神の教えがいいのか、人が暖かい」
ドラゴンに変身したイスの背中に乗りながら、俺は神聖皇国での2週間を振り返る。
「そうだね。少なくとも、正教会国じゃこんな風にはならないと思うよ」
「正教会国だったら、俺達を取り込もうと面倒な勧誘が多いだろうな。あの豚共に頭を下げるとか真っ平御免だ」
「まぁ、よくよく考えると、私達って勇者として召喚されているから、既に神聖皇国に取り込まれているけどね」
「確かに」
そう言えば、そうだったな。
俺は半年もしない内に神聖皇国を出ていったから忘れていたが、ある意味で言えばもう取り込まれているのか。
それなら勧誘する必要は無い。
「それにしても、魔王に関しては完全に予想外だらけだったな。同時復活は無いし、魔王は想定の何倍も弱かった。ここまで予想が外れるのは珍しい」
「魔王の強さ云々はともかく、同時復活が無いのはビックリだったね。私達からしたら有難いことだけど、なんで暴食の魔王だけ復活したんだろう?」
「普通に考えたら、七体全部同時に復活して暴れた方が被害は大きくなるはずだ。それに、そもそも魔王の魂と肉体、元は1つだったんだろ?合体して元に戻るとかしようとしないのは可笑しいよな」
「バラバラにされたら、元には戻れないのかも?」
「それはあるかもしれないが、だとしても同時に復活しないメリットは少ない。人間を侮りすぎたのか?」
暴食の癖に傲慢だったあの魔王の事を思い出す。あの暴食のは魔王なら“人間如き、俺一人で余裕っしょ”とか思ってそうだな。
そのせいで、俺のカッコイイ登場が出来なかった訳だが........
「それはあるかも?次に復活する時は同時に復活するかもね」
「正直、同時に復活復活されると手が回らないから別々で復活して欲しいけどな。一応、対策は建ててあるけど、被害は避けれないぞ」
割と瞬殺された暴食の魔王君ですら、数名の死者は出しているのだ。
普通に暴れさせれば、何人が犠牲になるか分かったものでは無い。
「とりあえず、さっさと帰って溜まりに溜まった報告書を読むとするか。結局、あの馬鹿五人や聖女がどこにいるのか分からなかったし、魔王と戦っている時に誰がどこで動いていたのかを把握しておかないとな」
魔王の復活に関しては、考えても仕方が無い。どれだけ予想しようが、結果が分かるまでは俺達は動きようがないからな。
それよりも、今は世界の動きに目を向けた方がいい。
今回の魔王討伐によって、何かしらの動きはどの国にもあるはずだ。
「どれだけ山盛りになっているんだろう.......おしごとしたくないよぉ」
「気持ちはわかるが、我慢してくれ。今度我儘の1つや2つ聴いてあげるから」
「本当?!」
「あぁ、ホントホント」
花音の機嫌を取る為とはいえ、今のは軽率だったかなと思いながら俺は未来の俺に手を合わせておくのだった。
頑張れ、未来の俺。
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終焉を知る者ニーズヘッグ。終焉を知り、その終焉の中で唯一生き残るであろうと言われている厄災級魔物。
そんな彼は今、とある海の上を飛んでいた。
「ようやく見つけましたよ。やはり、歳は取りたくないものですね。記憶が曖昧になってしまう」
そう呟いたニーズヘッグは、辺りを確認して人が居ないことを確かめた後、その海へと静かに潜っていく。
あまり目立ちすぎる行動をするなと、仁に言われている為、周りに気を使わなければならないのは面倒だった。
しかし、あの退屈な島から出してもらった恩があるため、面倒でも自分の存在はしっかりと隠していたのだ。
海の中を潜り、光の届かない闇の中まで泳いでいく。
普通の人間ならば、既にその圧力でペシャンコ人間潰れている。しかし、厄災級魔物であるニーズヘッグはその圧力などものともせずに下へ下へと泳いでいく。
しばらくすると、その暗闇の中からひとすじの光が見えてくる。
太陽の光すら届かないその暗闇の中で、天に輝く星のように見えるその光にニーズヘッグは近づくと、何か懐かしむような目でその光に語りかけた。
「何年ぶりですかね。こうして顔を合わせるのは。少なくとも千年単位のはずなんですが、いやはや長すぎて忘れてしまいましたよ」
その光は、何も答えない。そもそも、その光は何も話せない。
だが、ニーズヘッグはそんなことお構い無しに話を続ける。
「聞いてくださいよ。適当に空を飛んでいたら、妙な結界に入り込んでしまってね。本気で壊しに行っても壊れないんですよ。出ようとしても、その結界は想像以上に強力で、私の力ではどうにもならなかったんです」
光は、ただ静かにニーズヘッグの話を聞く。
「結局、私は諦めてその島に住むことになったのですが、何年も同じところにいると飽きる飽きる。退屈こそ、最大の敵だと気づくのに随分と時間がかかりましたよ。貴方の言っていた通りでした。“自由とは何者にも変え難い財産”正にその通りです」
ニーズヘッグは話を続ける。その光が何も言わずとも。
「そんなある日でのことです。いつものように宴に顔を出したら、2人の人間が居たのですよ。最初こそ、弱々しく吹けば消し飛ぶような人間でしたが、次第に大きくなっていき、今では私たちを率いる程にまでなりました」
ニーズヘッグは嬉しそうに話す。
「その団長さんがちょっと特殊な異能を持ってましてね。そのおかげで、その厄介な島から出れたのです。そして、こうしてまた貴方に会えた。終焉を知る者とは言われていますが、少し先の未来は分からないものですね」
その後もニーズヘッグは話し続けた。その団長の事や、仲間達のこと、今は何をしているかなど、時間を忘れる程に話し続けた。
しかし、光は何も答えない。ニーズヘッグは全てを話し終えた後、少しだけ悲しそうな顔をして最後にこう言った。
「いつか日の目を見ることがあるかもしれません。その時は、また一緒に.........」
ニーズヘッグの目には、その光が少しだけ揺らいだように見えたのだった。
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