色欲の魔王

ちょっとした有名人

  魔王討伐後から1週間。俺達は揺レ動ク者グングニルとして、大聖堂の街の復興に手を貸していた。


  人命救助は既に終わっていた為、基本的にはのんびりと瓦礫の山を片付けるだけの仕事だ。


  最初は光司達も手伝ってくれていたのだが、魔王との戦いを見た後の市民達はその英雄を一目見ようと集まってくる。


  気持ちは分からなくも無いが、正直滅茶苦茶邪魔だった。


  そのせいでまともに作業が進まなかった為、光司達は別の場所で客引きパンダをやっている。


  しかし、中には変わり者もいるようで.......


 「あ、あの!!ありがとうございました!!」


  瓦礫を片付けていると、後ろから声をかけられる。今の姿は、仮面とフードを被っている不審者だ。そんな俺たちに話しかけてくる者など少ないと思うんだが。


  後ろを振り返ると、そこには1人の母親が。その腕にはすやすやと眠る赤子がいる。


  この人は確か、瓦礫の中から助けた人がだったかな?申し訳ないが、俺は全く覚えていない。


 「えーと......」

 「あっ、覚えてないですよね。瓦礫の中から助けていただいた者です。その節はありがとうございました」

 「いえ。我々も仕事でやっているのでね。そこまで感謝される事ではありませんよ」

 「そんなことはありません!!貴方方に助けられた人は、皆口を揃えて感謝の言葉を言ってましたよ!!」


  へぇー、そうなんだ。少しは揺レ動ク者グングニルの好感度は上がってそうだな。少しづつではあるが、俺達の存在が広まっていくのは有難いことだ。


  俺にお礼を言うお母さんは、マジックポーチから紙袋を取り出すとそれを俺に渡してくる。


 「少しばかりですが、差し入れです。よかったら皆さんで食べてください」

 「ありがとうございます。後で頂きますね」


  俺は丁寧に紙袋を受け取ると、そのお母さんは俺たちの邪魔にならないようにそそくさとその場を後にした。


  紙袋の中を見ると、そこには様々な果物が入っている。


  流石にクッソ高いシュレクスの実は入っていないが、少しお高めの果物がちらほら見える。


  魔王の被害があった後、少しだけ大聖堂の街の物価は上がっている。この果物セットは、結構いい値段になるのでは無いだろうか。


 「うわぁ、すごい量だね。後で食べる?」

 「そうしよう。イス、何か食べたい?」

 「アポン!!」


  なぜ、よりによっていちばん安い果物を選ぶのだろうか。


  イスの反応を見るに、気を使った感じがない。要は普通に好きな果物を言ったのだろう。


  安上がりする子やなぁとしみじみ思う。毎日超高級品を食べても無くならないほどには金があるのだが、イスも俺も花音も庶民的な味が好きなようで、高級品はあまり舌に合わない。


  シュレクスの実とか例外もあるが、別に毎日食べたい!!って訳じゃないしな。あの島にいた頃は毎日食べてたけど。


 「もうすぐ昼だし、俺達は少し早めに昼飯を食べさせてもらうか。別に俺達はボランティアで手伝っているだけだから、勝手に昼休憩しても何も言われないしな」

 「一応、一言声はかけておいた方がいいけどね。騎士さん達は大分私達を頼ってるようだし」

 「あぁ、中には俺達に敬礼する人とかもいるよな。俺はお前らの上官じゃないっての」


  最初はアイリス団長辺りが何か指示を出しているのかと思ったのだが、そう言う動きが無い。つまり、彼らは自分の意思で敬礼しているのだ。


  魔王との戦闘の中で人々を助け出したのが、そんなに凄かったのか?感謝こそされども、敬礼されるほどではないと思うんだけどなぁ。


 「まぁ、嫌われているよりかはましだからいいか。こんな怪しい格好してても、一切嫌味を言われることは無いからな。やっぱり最初の好感度稼ぎは重要だ」

  「ゲームと違って、第一印象でほとんど決まっちゃうからねー。見た目が悪いとあまり言い風に思われないのは、不公平な世の中だと思うよ」


  君の場合は、最初好感度が良くて、知れば知るほど落ちてくけどね。


  流石に怒られそうなので言わないが、花音の場合は初対面が好感度のピークだろう。


  表向きは明るく元気な子だが、下手に手を出そうものならその手は肉塊と化す。事実、何人か痛い目に会っているやつもいるのだ。


  俺は溜息を吐きながら、瓦礫の山を後にする。


  途中で瓦礫の山を片付けている騎士の1人に、休憩してくる旨を伝えた。


 「はっ!!お気をつけて!!」

 「あ、あぁ」


  ピシッと敬礼する騎士に少し引きながらも、俺は最近通っている店へと足を運ぶ。


  最近は大分街中も落ち着いて来て、店が開くようになった。しかし、魔王が復活しているにも関わらず、呑気に店を開く場所もある。


  カランと扉を開けると同時にベルが鳴り、ずんぐりむっくりとした体型のオッサンがコップを拭きながらこちらを見ている。


 「いらっしゃい。団長さん」

 「昨日ぶりだなガイスさん。いつものを頼めるか?」


  マジックポーチから金貨をポイッと店主に投げると、店主はそれを簡単に掴んでお茶と料理を出してくれる。


 「あ、ついでにこの果物も切ってくれないか?」

 「アポン四つですか。いいですよ」


  店主の手がふっとブレると、次の瞬間には綺麗に八等分されたアポンの実が四つ出来上がる。


  今の包丁さばきを見てわかる通り、この店の店主は只者ではない。どうやら昔は自分の足でお茶を求めて旅をしていたようでかなりの実力者である。


  聞いた話では金級ゴールド冒険者の上位らしく、その実力は上級魔物を相手にしても問題ない程だ。


  人は見かけによらないな。


 「1個は貴方の分だ。客もいないし、食う分には問題ないだろ」

 「あははは。痛いところを突かれるね。魔王が復活してからというもの、人が来なくなってねぇ。今来る客は君たちだけさ」

 「今はどの店も同じような感じだな。夕飯は適当に空いている店を探すんだが、どこもかしこも人がいない。冒険者ギルドの酒場ぐらいじゃないか?人が集まっている店は」

 「あぁ、あそこはどうやっても人が来る。そこと比べられても困るよ」


  冒険者ギルドにはいつでも仕事があるからな。特に、今は街の治安や瓦礫の片付けに人手が必要だ。


  それに、食料ともなるオークなどの魔物も需要はある。


 「それにしても、いつも思うが器用に食べるね。仮面をほんの少しだけずらして、よくそんなに器用に食べられるものだよ」

 「素顔はちょっと隠したいからな。その点、この街は仮面に寛容で助かる。誰も言及してこないからな」


  まぁ、アイリス団長辺りから圧力がかかってそうだが。


  ジークフリードも話を合わせているだろうし、騎士達には俺達の素顔の言及はするなとか命令されていそうだ。


  俺としては助かるからいいけど、怪しさ満点だよな。


 「そう言えば、君達のグッズが売られてたね。昨日、同じような仮面を被った子供を見たよ」


  何それ。初耳なんだけど。


 「普通は勇者の聖剣の玩具とかを振り回すものじゃないのか?」

 「どうやら、影の功労者として人気が高いらしいよ。市民からも感謝の声が多いし、今やこの大聖堂で1番有名な傭兵団さ」


  それは、この街に俺たち以外の傭兵団が居ないからだろうが。


  一応、神聖皇国を拠点にしている傭兵団もあるにはあるが、首都である大聖堂で活動している傭兵団は無い。


 「これなら戦争に参加しやすそうだね」

 「拒否られても無理やり出るけどな」


  俺は有名になりつつあることを素直に喜びながら、着実に近づいている戦争の為に準備を急がないとと思うのだった。





ほのぼの回、思ったよりも反応があってビックリしてます。やっぱりほのぼのは全てを解決するのか.......

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