閑話:三姉妹の日常
ダークエルフ。それはかつて大魔王アザトースに膝を折り、頭を下げ、人類の敵として魔王と戦った種族だ。
2500年も前の話だが、人類が皆で力を合わせようとしている中でそれを裏切った代償は大きい。
彼らは魔王封印後、魔物として扱われるようになり、外界との交流を絶たれ、見つかれば討伐されるようになった。
その代償は先祖代々引き継がれ、最終的には悪魔によって滅ぼされた。
そんなダークエルフの生き残りの1人であるシルフォードは、自分の仕事を終えるとある所へと向かった。
「ヨル君。来たよ」
誰もいない森林で、一人ぽつりと呟く。すると、地面が唐突に盛り上がり、中から一体の竜が姿を表した。
『今日も来てくれたんだ』
全長、100mを優に超える巨大なムカデ。見る人によっては気絶してしまうであろう、その竜の名は死毒ヨルムンガンド。
かつてはその毒をもって暴れていた竜だが、今では大人しく土の中で過ごしている。
そんな人類にとっての恐怖の対象である厄災級魔物の一角に、シルフォードは全く臆することなく話しかけた。
「仕事が終われば暇だからね。ヨル君と遊ぶ時間もちゃんと取れる」
『遊ぶと言うよりは、木陰に座ってのんびり話す方が多いけどね』
「確かに」
シルフォードはフフっと笑って、木陰に座る。ヨルムンガンドも、それに続くようにシルフォードの横に自分を移動させた。
「.........今ごろ団長は魔王と戦っているのかな?」
『大魔王アザトース。それの魂を七つに分けて封印したその一角が復活したんだっけ?』
「そう。復活するはずだって言ってた。ねぇヨル君。魔王が死ねば私達も人の街に入れるかな?」
ヨルムンガンドは言葉につまる。ここで気安く肯定をしても意味が無い。ヨルムンガンドは知っているのだ。人の浅ましさとその愚かさを。
だから、希望を持たせすぎるような事は言わない。唯一、団長である仁から聞いた話しをすることにした。
『団長さんがドッペルゲンガーに耳を隠す魔道具を作れるかって聞いてた。人がダークエルフを見る目が変わるかどうかは分からないけど、少なくとも街に入る事は出来るかもしれないよ』
「団長が?」
『ドッペルゲンガーがボヤいてたからね。“白色の獣人は街に入れるけどダークエルフは入れない。それは面白くない。だから、作ってくれ”って』
「その“面白くない”が引っかかるのは私だけ?」
『奇遇だね。僕もそう思うよ』
触角を器用に使って肩を竦めるような動作をするヨルムンガンドを見ながら、シルフォードはニッコリと微笑むのだった。
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ダークエルフ三姉妹の次女であるラナーは、大量にあった仕事を何とか片付けるとその足でとある場所へと向かう。
「ジャバさん!!来ましたよー!!」
その声を聞いて、20m以上もある黒い塊はゆっくりと顔を上げる。
強大な粉砕者ジャバウォック。ゴジラのような凶悪な見た目に、その大きな身体。1歩歩けば大地が揺れ、2歩歩けば村は滅び、3歩歩けば街は消えると言われている伝説の魔物だ。
そんな人々が恐れる厄災級魔物に、ラナーは笑顔で話しかけた。
「寝てたんですか?」
「キョウ、ハ、シゴト、ナシ」
ジャバウォックは、辿々しい言葉遣いでラナーに話しかける。
少し前までは話す事が出来なかったジャバウォックだが、絶え間ない努力によって流暢とは言わずとも言葉が通じるぐらいには話せるようになっていた。
その裏には、ラナーと話したいと言う可愛らしい理由があったりする。
「見回りに数は必要ないですしね。ぶっちゃけ、子供達の見回りでも過剰戦力なのですがね」
「ダンチョウ、キ、ツカッテル」
「まぁ、なんやかんや言っても、あの人もかなり優秀ですからね。定期的に全ての団員に話しかけて、交流をしっかりと作ってるのは流石です」
ジャバウォックは大人しく常識が通じる方だが、これがリンドブルムやファフニールになると自由奔放すぎて制御出来ない。
少なくとも、ラナーが仁の立場だったとしてもその手綱は握れないだろう。
そこを上手くやっている仁は、ラナーにとって尊敬に値するに十分だった。
ただし、思いつきで行動しては周りに迷惑をかけている点では彼も同じだと思っている。
「ダンチョウ、オモシロイ。ワレワレ、コワガル、ドコロカ、ナカマニ、サソッタ」
「そこら辺が団長様の凄いところですよ。普通厄災級魔物なんて見たら逃げ出しますよ?今ではこうして話してますが、最初は本当に怖かったですし」
「.......ゴメン」
「いえ、謝る必要はあり無いですよ。私が勝手に恐怖しただけなので。ジャバさんは悪くありません」
そう言うと、ラナーはジャバウォックに近づいてその尻尾に腰を下ろす。
ジャバウォックは何も言わずに、尻尾を持ち上げると頭の上にラナーを置いた。
「相変わらず高くていい景色ですね。やっぱりジャバさんから見える景色は綺麗です」
「ダレデモ、イッショ。カワラ、ナイ」
「ふふっ、そうかもしれませんね」
少し照れているジャバウォックを微笑ましく思いながら、ラナーはジャバウォックと日が暮れるまで語らうのだった。
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ダークエルフ三姉妹の末っ子トリスは、仕事を終えた後ダッシュである場所へと向かう。
「ケルベロス!!」
「グルッ?!」
その場所とは、ケルベロス達が寝床にしている小さな洞窟だ。
基本的に厄災級魔物達は拠点で寝泊まりしているのだが、フェンリル、マーナガルム、ケルベロスはこの小さな洞窟が気に入っていた。
一応ウロボロスの結界の範囲内なので、仁も何か言うことは無い。
トリスは、少し困り顔のケルベロスに向かってダイブすると、その肌触りのいい毛並みをじっくりと堪能する。
初めのうちは、もふもふとしていたフェンリルやマーナガルムの毛並みを堪能していたのだが、試しに触ってみたケルベロスの毛並みがトリスを虜にしてしまった。
地獄の番犬とまで言われたその恐ろしい魔物を相手に、トリスは全力で抱きついては頬擦りをして毛並みを味わう。
「「「グ、グルゥ」」」
毎日のようにモフられているフェンリルやマーナガルムとは違い、ケルベロスはこういうのに慣れていなかった。
ただただ困惑して、トリスにされるがままになっている。
別に嫌な訳では無い。ただ、どうやって対応すればいいのかに困っているだけだ。
「........嫌?」
そんなケルベロスの表情を見て、トリスは不安そうに話しかける。
本当に嫌がっているなら、トリスはモフらない。それがモフラーとしてのルールなのだ。
「「「グルゥ」」」
そんな不安そうなトリスに、ケルベロスは首を振ってその頬っぺを軽く舐める。
もし、何も知らない人がこの光景を見たら、捕食される3秒前だと思うだろう。
頬っぺを舐められたトリスは、笑顔で再びケルベロスに抱きついてその毛並みを堪能し始める。
「ケルベロス、大好き!!」
「「「グルゥ」」」
そしてケルベロスは、フェンリルやマーナガルムにこういう時どうすればいいか聞こうと心に決めるのだった。
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