閑話:白色の獣人達の日常
傭兵団
魔物が19体、ダークエルフが3人、白色の獣人が5人、そして団長である仁と副団長の花音。イスの異能で生きているモーズグズとガルムも加えれば、合計31からなる世界最悪の傭兵団だ。
そんな傭兵団の中で1番新顔の白色の獣人達は、今日も仕事をせっせと片付けていた。
「これ、終わったぞ」
「あら。じゃぁ、これとこれも纏めておいてくれる?」
夫婦で傭兵団に所属しているゼリスとプランは、テキパキと書類を片付けていた。
昔、とある村で警備隊長をやっていたのだ。この手の書類を片付けるのは慣れていた。
仕事がひと段落した彼らは、深く椅子に腰をかけてだらりと体を休める。
「お茶でも飲む?」
「あぁ、頼むよ」
本来、奴隷が主人の断りなくお茶を入れて飲むことはありえない。しかし、その主人が“なんでもしていいよ。なんなら逃げてもOK”とか言うような人なのだ。
流石にその時は、ゼリスもプランも耳を疑ったが。
湯気が立ち込めているコップを見ながら、ゼリスはぽつりと呟いた。
「団長殿は今頃魔王と対峙している頃か.......」
「あら、気になるの?」
ゼリスは、基本的に妻であるプラン以外には興味を持たない。もちろん、プラン以外の人とのコミュニケーションもしっかりとできる。
警備隊長時代に、コミュニケーションの大切さを嫌という程知ったからだ。
そんなゼリスが、我らが団長である仁のことを気にかけている。これはプランからしたら驚きであった。
「気にもなるさ。世界を揺るがす世界の敵だぞ?見てみたいじゃないか。それに、団長殿に万が一があったら俺たちが困る」
「団長様に限っていえば、その万が一はないと思うわよ」
「まぁ、だろうな。団長殿、えげつないほど強いから」
二度ほど、彼らは仁と戦ったことがある。異能の確認や能力確認の為だ。
本気で殺しに来いと言われ一切の手加減無しで戦ったが、まるで歯が立たなかった。
「あの人は本当に不思議な方だ。奴隷を奴隷として扱っているところを見たことが無い」
「団長様は本当に変な人よねぇ。急に“トランプで遊ぶぞ!!”とか言い出して、何をするのかと思えば誰がいちばん早くドランプタワー作れるかの競走し始めるし」
「あれは酷かったな.......最後の最後で団長殿の塔が崩れて発狂してたのを思い出す」
ゼリスはその光景を思い出して苦笑いをする。彼は厄災級の魔物達が自由奔放すぎて困るなどと言っていたが、ゼリスからすれば仁も大概だった。
毎日のように思いつきで行動しては、周りを巻き込んで迷惑をかける。それでも、誰一人として嫌な顔をしないのは、その人望が故なのかもしれない。
「さ、続きをやりましょう。普段の倍以上仕事をやって、団長様のお仕事を増やしてあげましょう」
「嫌がらせか?」
「えぇ。団長様ならちょこっとイタズラしても許してくれそうだし、いつもやられてばかりなのはねぇ?」
口元を隠してニッコリと笑うプランを見て、ゼリスは再び苦笑いを浮かべるのだった。
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「姉さん。そこ違ってる」
「ん?......あ、ホントだ」
ロナの指摘を受けて、リーシャは報告書を書き直す。
姉弟で奴隷として買われたリーシャとロナは、ゆっくりと確実に仕事を片付けていた。
この傭兵団には入ってまだ半年。元々こういう仕事が慣れているゼリスとプランや頭のいいエドストルとは違って、彼女達は仕事も遅ければミスも多かった。
最近ではある程度ミスは減ったものの、やはりミスは出てしまう。
仕事を振り分けてくれるラナーは、そんな2人に気を使って他の人たちもよりも仕事量を減らしていた。
「うあー、やっぱり難しい。私にはこういう仕事が向いてないよ」
「それを言ったら姉さんは、何も出来ないじゃないか。頭を使うのは姉さん苦手なんだから。姉さんはごしゅ......団長様の奴隷じゃないんだし、やらなくてもいいんだよ?」
「ロナの意地悪!!そんな事したら私だけ嫌な奴じゃないの!!」
ロナの言う通り、リーシャは花音の奴隷である為仁の命令に従う義務はない。だが、もしもそんな事をすれば間違いなく自分だけ浮いてしまう。
そして、仁のことを第一に考える花音がそれを知れば、怒りを買うのは間違いなかった。
「うー副団長様、何時になったら帰ってくるのかなー」
「また始まったよ。姉さん?団長様達は外で忙しいんだから昨日今日で帰っては来ないよ」
「でもー」
「でもじゃない。あまりウダウダ言うと団長様に報告するよ?」
「それはダメ!!団長様に嫌われると必然的に副団長様にも嫌われる!!」
リーシャは、自分を必要としてくれる花音の事が大好きである。愛玩動物のような扱いになっているのはわかっているが、今まで誰からも必要とされることがなかった彼女にはそれでも十分だった。
リーシャは止まっていた手を再び動かしながら、ロナに話しかける。
「そういえば、ロナは団長様の事どう思っているの?」
「カッコイイ。正直、滅茶苦茶にされたい」
「.........」
間髪入れずに答えたロナに、リーシャは固まる。
見た目こそ女の子にしか見えないロナだが、これでもれっきとした男なのだ。
姉としては不安しかない。
しかし、リーシャは頭の中でこんな事も考えていた。
(副団長様に滅茶苦茶にされる........アリかも)
どうしようもない姉弟である。
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「よし、これでも終わりですね」
トントンと書類を整理した後、エドストルは椅子から立ち上がって固まった身体を解していく。
パキパキと身体が解れていく音を聞きながら、エドストルは自分の部屋を出た。
「しかし、団長様も本当に変な人ですね。普通、奴隷に部屋を一室丸々与えますか?」
これがもし、獣王国の貴族だったら間違いなく馬小屋以下の汚部屋に放り込まれていただろう。
掃除は自分でしなければいけないものの、こんなにも綺麗な部屋をポンとくれた主人には感謝しかない。
「これも価値観の違いなのですかね........」
そう呟いて廊下を歩いていると、三姉妹が歩いてくる。
向こうはエドストルに気づくと声をかけてきた。
「仕事、終わった?」
「え、えぇ。終わりました。えっと.........何か問題でも?」
「ん?問題は無い。いつも仕事が早くて助かる」
シルフォードはほんの少しだけ微笑むと、エドストルは顔を真っ赤にして下を向く。
その反応は、好きな子を目の前にして照れる1人の少年だ。
「?顔赤い。調子悪い?」
そして若干天然なシルフォードは、容赦なくエドストルに近づいて心配そうに見つめる。
「い、いえ!!な、なんでもないです!!」
「あっ......」
あまりの恥ずかしさに、エドストルはそのまま走り去ってしまった。
残されたシルフォードは、ポツリと呟く。
「残念。ご飯を誘うつもりだったのに」
そして、そのやり取りを見ていたラナーとトリスは、それぞれ全く違う反応をしていた。
「害虫がァ.......団長様の物で無ければ今ごろ殺していたというのに........」
「シルお姉ちゃんにもついに春が.......!!後、ラナーお姉ちゃん?間違っても殺すとかしちゃだめだよ?私団長さんに言われてるから“ラナーが暴走したら止めてくれ”って」
今日も傭兵団
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