雑ぅ!!

  一旦アイリス団長達とは別れて、俺は親友である龍二に会いに行く。


  光司と黒百合さんには正体が明かせないので、そこら辺は上手くやる必要があるだろう。


  少なくとも、本人たちの目の前で仮面を取ることはできない。


 「龍二もだいぶ変わってたな」

 「そうだね。溢れ出る魔力がかなり多くなってたし、顔つきも大分変わってたね。それで言うと、朱那ちゃんもかなり変わってたけど」

 「あの人は........そうだな。いい人が見つかれば元に戻りそうだけど」


  若干花音と同じ匂いがするので、もしかしたら悪い方向にヤンでしまうかもしれないが、俺には関係ないのでいいや。


  別にヤンでも俺みたいな寛容な人間が隣にいてあげればいい。え?なら俺が黒百合さんの隣にいてやれって?無理無理。俺は花音1人が限界だよ。


 「拗らせすぎて堕天使になったりして」

 「堕天使ねぇ。そもそもこの世界に堕天使って居るのか?」

 「いるんじゃない?だって朱那ちゃんみたいに天使が居るんだし、何体いるかは知らないけど中には地に落ちた者達もいるでしょ」


  堕天使黒百合朱那。頭の中で想像してみると意外と似合っている。黒髪が綺麗な黒百合さんには、統一感のある黒の翼や天使の輪がピッタリだ。


  だからと言って、堕天して欲しいわけがないが。今度堕天使の情報について漁ってみるか。


  そんな事を話しながら、俺は龍二達の反応がある所を目指して歩く。


 「うわ、酷いねこれは」

 「こりゃ壁を丸ごと変えないとダメな気がするな。これを基盤に建て直したら崩れるぞ」

 「あ、崩れちゃった」


  どうやら今は、大聖堂の被害確認をしているようだった。


  へなちょこ大魔王こと、暴食の魔王ベルゼブブ君がぶち壊した大聖堂の中には、運良く壊れなくてもひび割れた壁や天井が多くある。


  このままだと二次被害が出るかもしれないので、先に壊してしまおうという訳だ。


  俺達が3人を見つけて近づくと、向こうもこちらの存在に気づいたようで視線をこちらに向けてくる。


 「ウイルドさん.......だったかな?アイリス団長との話しは終わったのですか?」

 「えぇ。大まかな事は話したので。何かお手伝いすることはありませんか?こう見えても結構力持ちなので、重いものは持ち運べますよ」

 「んーなにかあったっけ?」

 「特にはないな。ぶっちゃけ暇だ。この大聖堂内の確認だってもう殆ど終わっているからな」


  ふむ。もうやる事は終わってしまっているのか。まだ日が沈むには時間がある。上手く龍二とだけ話せないものか。


  俺がそう悩んでいると、花音が動いた。


  手をパンと叩いて一瞬注目を集める。


 「そう言えば、お見事でしたね。見てましたよ。暴食の魔王ベルゼブブとの戦い。まるで御伽噺のようでした」

 「ギューフさんだったね。ありがとう。でも、欲を言えば誰一人として犠牲になる人がいない方がよかった。地震で家が崩れたのは予想外だ」

 「それは強欲がすぎますよ。理想の結果を求めすぎてはいけません。求めるのは現実的な最良の結果です。その点でいえば、今回の結果は満点に近いですよ」


  何気なく始まった会話。しかし、俺と龍二は分かっていた。これは花音からのメッセージだと。


  昔、会話の中に重要なメッセージを混ぜて別のことを伝えるという遊びをやった事がある。麻雀などで使われる通しに近いかもしれない。


  最初の切り口は手を叩くこと。これが俺たちの中ではメッセージの始まりだ。


  最初の会話の数でずらす数が決まる。今回は花音が2回話しているから2つずらすのか。


  さて、ここから花音はどうやって会話の中にメッセージを伝え混ぜるのだろうか。


 「私の故郷にはこんなおまじないがあるんです。“すえくえせつおるをじでむと”故郷の言葉で“現実は常に非情なり”と言います」

 「すえ......その故郷の言葉はちょっと聞き取れなかったけど、いい言葉だね。僕も思うよ。現実は常に非情なりってね。友人を喪ったあの日からそれは痛感しているさ」


  何か感慨に浸る光司をよそに、俺と龍二は心の中で花音に盛大に突っ込んだ。


  いや、雑ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!


  俺達の正体がバレていないから仕える手法だが、だとしても雑すぎる。面倒臭かったな?上手く会話の中に紛れ込ませるのが面倒だったから、ゴリ押ししましたよこの子。


  もちろん伝えていたのは“すえくえせつおるをじでむと”である。これを2文字づつ戻すと“さいかいしたうらろじでまつ”つまり、“再会した裏路地で待つ”という事になる。


  あまりに雑すぎた通しだったが、まぁ伝わったならよしとしよう。


  もう少し話した後、俺達は光司達と別れて再会した裏路地に向かって歩いていた。


 「雑すぎない?」

 「いやぁ、久しぶりだったから、上手くできる気がしなくて」

 「気持ちは分かるけどな。俺も花音がやるまですっかり忘れてたし」


  久しぶりすぎて、変換するのに滅茶苦茶時間がかかった。龍二は頭の回転が早いので、直ぐに理解した顔をしていたが。


  アレを5秒で理解できるとか本当に頭もいいなアイツは。


 「私達の傭兵団でも、こう言う暗号みたいなの作った方がいいかな?」

 「やめとけ。覚えるのに時間がかかるし。厄災連中ならすぐに覚えれるかもしれないが、シルフォード達はかなり大変だぞ。仕事を増やす気か?」

 「ただでさえ、仕事がいっぱいだもんね。辞めておこうか」


  世界各国から様々な情報が入ってくるのだ。子供達がある程度情報の重要度が分かるようなってきて、送られてくる量は減っているものの、それでも山のようにある。


  1週間とか拠点を空けていると、俺達に上がってくる報告書の量がえげつないもんな。うわ、そう思うと帰りたくねぇ.......


  またあのビッシリと、文字の詰まった報告書を見なければならないと思うと嫌になってくる。


  再会した裏路地へいくと、よく知った気配が1人佇んでいる。


 「誰かいるの」

 「そうだな。俺達も別れて直ぐにここに向かってたんだが、あちらさんも同じだったみたいだ」

 「よっぽど楽しみだったのかな?」


  俺達がその気配のする主に近づくと、その主は俺達に話しかけた。


 「おいおい。俺はお前達に会うのが楽しみで駆け足できたってのに、お前達は散歩か?随分と温度差があるな」

 「勇者達を上手くあしらうのに、もっと時間がかかると思ってたんだよ。まさか何も言わずに出て言ったりしなかったよな?」

 「安心しろ。シンナス副団長が上手く話を合わせてくれた。俺は今頃アイリスと仕事をしていることになってる」

 「お熱い事で」


  俺は親友である龍二と笑い会うと、パンとハイタッチをするのだった。



明日の10時(22時)に新作を上げる予定です。良かったら呼んでくださいm(_ _)m

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